広がる学問領域での質の高い教育 と"元気のよさ"を企画広告で訴求

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東京農業大学は、新聞の企画広告を活用して大学の姿勢や教育内容を伝えています。狙いは、東京農業大学のブランド力を高め、恒常的に学生を確保すること。運営母体である学校法人東京農業大学の戦略室が中心となり、2019年4月に開校予定(設置認可申請中)の東京農業大学稲花小学校から中学校、高校、東京農業大学までを統括した広報を行っています。

学部や学科を再編成し古い農学のイメージを払拭(ふっしょく)

上田 勉氏 学校法人東京農業大学 戦略室・室長
上田 勉氏

 学校法人東京農業大学は、東京農業大学をはじめ、東京情報大学のほか、高校を3校、中学校を2校、そして2019年4月開校予定(設置認可申請中)の東京農業大学稲花小学校を運営する教育・研究機関だ。少子化の時代でも恒常的に学生を確保するために、2012年に戦略室を設置。教育理念「実学主義」と「人物を畑に還(かえ)す」という建学の精神を基に東京農業大学のブランド化を目指し、小学校から大学まで統括した広報を行っている。学生募集の入試広報とは別軸で行われているのが特徴だ。

 東京農業大学は、1998年に学部や学科を再編成し、農学を細分化した。現在は農学部をはじめ、応用生物科学部、生命科学部、地域環境科学部、国際食料情報学部、生物産業学部の6学部、22学科を設置している。その背景にあるのが、少子化の問題だ。戦略室・室長の上田 勉氏はこう説明する。「東京農業大学といえば、作物の育て方や畜産だけを学ぶイメージを持たれている方は少なくない。しかし、実際には従来の農学に加え、生命科学や環境科学、情報科学など、農学の領域は広がっています。少子化時代に志願者数を増やすためにも、まずは古いイメージを払拭する必要がありました」

 学部を新設後、学問の広がりや職業とのつながりがイメージできるように広報に力を入れたという。その結果、かつては少なかった女子学生の割合が増加。志願者を減らす大学も多い中、東京農大は現状を維持できているという。「男子学生と比較すると、女子学生はやりたいことで学校を選ぶ傾向がある。女子学生が増えたことは、農学の分野を細分化したことで、より明確に面白さや魅力が浸透してきたことの表れと評価しています。もちろん、世の中の流れとして四年制大学に進む女子学生が増えたことも影響しているはずです」

 そして、こう続ける。「大学の雰囲気もだいぶ変わりました。たとえば、動物に興味がある学生にとっては動物の世話も学問の一つ。だから、動物のふんも汚いものではなく、ふんでしかないんです。おしゃれな女子学生がつなぎを着て、白い長靴に動物のふんをつけながら作業する姿も当たり前の風景になっています」

大学の姿勢や教育内容を新聞広告で発信

2016年10月29日付 朝刊 2.0MB

 戦略室が担っているのは、東京農業大学の姿勢や教育内容を発信し、ブランド力を高めること。その一環として、2016年10月29日付の朝日新聞に全30段の企画広告を掲載した。内容は、今年の4月に開設した東京農業大学生命科学部のキックオフ・シンポジウムをリポートしたものだ。テーマは「遺伝子」「化学」「微生物」という三つの分野で、人類が直面する食料や環境などの課題解決に取り組む新学部の狙いと、生命化学の意義について。東京大学名誉教授・養老孟司氏の基調講演の内容もダイジェストで掲載されている。

 企画広告を掲載した理由について、上田氏は次のように説明する。「企画広告のメインターゲットは、高校生の子供を持つ保護者層です。文字が多めなので興味がないと読み飛ばされる可能性もありますが、それでもいいと思っています。読み込んでもらえれば、教育や研究内容、目指していることなどが分かる内容だからです。東京農大は2016年に創立125周年を迎えました。次の25年、150周年に向けて大学を発展させていくためにも、より多くの人に研究内容や社会との関わりを伝えていく必要があります。新聞は確実に手元に届き、信頼できるメディアです。これからも継続して活用していきたいと思っています」

2017年2月25日付 朝刊 2.8MB

 ほかにも、JR山手線の車両を東京農大の広告でジャックしたり、125周年記念誌『東京農業大学 by AERA』を朝日新聞出版から発行したりと、様々な手法で広報活動を行っている。「ブランド広告はコストではなく、投資と捉えています。在校生やその親、卒業生、また学生を採用する企業の方など、ステークホルダーに多彩な活動をしていることをアピールでき、財政的にも安定していることを伝えられる。東京農大の"元気のよさ"を見せていくことは、戦略室がやるべき重要なことの一つです」

 東京農大の卒業生は、16万人超。全国から集まり、卒業後は地元に戻る学生も多く、ステークホルダーは日本各地に点在している。特に、醸造学を専門とする学科は現在、東京農大にしかないため、全国の酒蔵メーカーの経営者の約6割が東京農大の卒業生だという。そうしたネットワークを生かし、今後は戦略室が主体となって地域創成にも力をいれていくとのことだ。「かねて東京農業大学の教育・研究のキーワードは、食料、環境、健康、バイオマスエネルギー。最近はそれに地域創成が加わり、全国32カ所の自治体と連携して活動しています。東日本大震災で津波の被害に遭った福島県相馬市では、がれきの山と化した総農地約1300ヘクタールを整理、東京農大独自方式の技術で約1000ヘクタールの田んぼを甦らせました。こうした取り組みも新聞広告で広く発信していきたいことの一つ。地域創成はこれからの使命になってくると思っています」と上田氏は締めくくった。