現代アートのクリエーティブで、ステンレスキッチンを先進的なイメージに

 ステンレス製のシステムキッチンと、アメリカ・シカゴにあるステンレスでできた巨大なパブリックアート「クラウド・ゲート」。神秘的なフォルムのアートには、システムキッチンとまわりの景色が写り込んでいる。これは、2017年11月19日付朝日新聞朝刊に掲載されたクリナップの企業広告だ。全30段を大胆に活用したスケール感のあるビジュアルは、ステンレスが先進的な素材であることを印象付けた。

2017年11月19日付 朝刊

2017年11月19日付 朝刊442KB

クリナップといえばステンレス。その強みを再認識

 クリナップは、システムキッチンをはじめ、システムバスルームと洗面化粧台を製造販売している総合住宅設備機器メーカーだ。1960年からステンレス流し台の製造販売を開始。そして、1973年に国産のシステムキッチンを初めて製造販売し、キッチンの専業メーカーとして発展してきた。

 メインの商品は、ステンレス製のシステムキッチン。ワークトップやシンクはもちろん、キッチンの骨組みであるキャビネットまでステンレス製であることが特徴だ。ステンレスの加工技術を長年にわたり研究し、自社工場で製造しているため、高品質な製品を他社よりもリーズナブルに提供しているという。

 商品力には自信があるが、他社との差別化を図るために企業ブランドを向上させることが必要だと考えたという。コミュニケーション部 宣伝課 係長の守屋雄策氏は、同社の広告について次のように説明する。

守屋雄策氏

 「弊社はこれまで、新聞をはじめマス媒体を活用するときは商品広告が中心で、継続的な企業広告を展開したことは、あまりありませんでした。そのため、企業イメージが向上していないと感じていたのです。競合他社は広告の出稿量が多く、近年は個別の商品に加え、企業ブランドの戦いにもなりつつあります。そこで、競合他社と差別化するための戦略として、企業広告を制作することにしました」

 広告会社に依頼する前に、まずは自分たちの強みをあらためて見直そうと、社内でプロジェクトを発足させた。「らしさプロジェクト」と名付け、購入者や購入されなかった方へ定量調査や定性調査など実施し、その結果を踏まえてクリナップらしさについて議論した。そして自分たちの強みは「キャビネットの中まで上質なステンレス製のキッチンを、長年にわたって製造販売していること」だと、再認識したという。

 「ステンレスは先進的でモダンなイメージがある一方で、冷たいというイメージもあるため、好き嫌いが分かれることもあります。そのため、構造体であるキャビネットはステンレスでも、扉やワークトップ(天板)は異素材も用意しています。これまで社内では、ステンレスを好む方は、扉やワークトップも全てステンレスを選び、あまり好まない方が異素材を選んでいると考えていたのですが、それは思い込みであることが分かりました。購入者にクリナップのキッチンを選んだ理由を聞くと、木製の扉や人工大理石のワークトップを選んでいる方でも『キャビネットの中までステンレスであることが気に入ったから』という声が予想以上に多かったのです。そして、ステンレス製のキッチンに自信を持つことができました」

新聞広告でビジュアルのスケール感を伝える

 企業広告のメーンビジュアルは、ステンレス製のシステムキッチンとアメリカ・シカゴにあるステンレスでできた巨大なパブリックアート「クラウド・ゲート」。神秘的なフォルムのアートには、システムキッチンとまわりの景色が写り込む、実にインパクトのあるビジュアルだ。新聞広告のキャッチコピーは「そのアートとキッチンには、同じ夢がある。」

 広告会社へのオリエンテーションでは、らしさプロジェクトで導きだした自分たちの強み「キャビネットの中までステンレスを使っている」ことを訴求していきたいと伝えた。しかし、広告会社から「企業広告は、日頃キッチンのことを考えていない人にも訴求することになる。まずは『クリナップといえばステンレスキッチンのメーカー』というイメージを植え付けていくのはどうか」と提案されたという。

 それは、らしさプロジェクトを通じて見えてきた課題を解決するアイデアでもあった。ステンレスを「スタイリッシュ」と肯定的に捉える人がいる一方で、「昔からある素材」という声も少なからずあったという。そのためステンレスは最先端の素材であることも伝えるべきだと考え、その方法として提示されたのがアートをつかったビジュアルだった。「最初はまったくイメージが湧かなかったのですが、ラフを見て納得。今までにない新しい表現になると確信しました」

 広告のロゴは、もともと商品用のエンブレムのみに使用していたが、ビジュアルの世界観を統一するために企業広告でも使用できるように、社内ルールを変更して掲載した。

 テレビCMは、2017年10月から番組提供枠で放送している。そして、同年11月19日付朝日新聞朝刊に新聞広告を掲載した。新聞広告を活用した狙いについて、守屋氏はこう明かす。

 「テレビCMでは上質な企業イメージがある程度評価されていますが、限られた放送枠なので特定の人にしか届いていないという課題を感じていました。新聞広告は、幅広い層に行き渡り、じっくり眺めたり、保存しておいたりすることもできます。全30段、ほぼビジュアルのみで展開したことで、インパクトとスケール感も強調できたと評価しています」

 反響は予想以上に大きかったという。単発での出稿だったが「社内外の関係者から、『新聞広告を見た』という連絡をいただきました。新聞広告は読者に確実にリーチでき、印象にも残ると実感しました」

 ビジュアルで使用しているキッチンは、2018年2月から発売する新商品。新聞広告のタイミングは、住宅業界内の得意先への告知期間を狙った。そのため、新聞広告はコミュニケーションのきっかけになり、販促ツールとしても活用できたという。

 最後に今後の展開について、こう意気込みを語った。「2019年には、創業70周年を迎えます。100周年に向けた新たな30年の始まりでもあり、企業広告はその先駆けとしての意味もあります。芸術作品をつかったビジュアルに行き着くまで、多くの関係者からさまざまなアイデアを提案してもらい、学んだことも多かった。企業広告は自社の強みを打ち出すメッセージを変えず、統一感をもって粘り強く継続する必要があると考えています」

【3つのポイント】

新聞社に期待したこと
新聞は有料媒体なので、社会に関心が高い方が読んでいると認識している。そのため、企業が社会的なメッセージを発信するのに最適な媒体だと考えている。クリナップのメーンターゲットは、リフォームを考える50代から60代の女性で、新聞の購読層と重なる。

朝日新聞のイメージ
朝日新聞の読者は平均年収が高く、主婦だけでなくビジネスパーソンも読んでいるイメージが強い。クリナップは中・高級品を扱うブランドとして育てていきたいので、朝日新聞との相性はいいと考えている。

コミュニケーション上の課題
キッチンの買い替えは、20年に1度くらい。リフォームを検討したとき、選択肢の一つとして検討してもらえるように、いかに生活者との接点を持つかが重要。情報の信ぴょう性を高めるためにも、ウェブでの情報発信と併せて、新聞広告やテレビCMと連動させる必要があると考えている。