幅広いステークホルダーにリーチできる新聞広告を活用
三井造船は1917年、旧三井物産造船部として誕生した。以来、船舶の建造で培った技術をもとに、船舶用エンジンや物流のためのクレーンシステム、プラントの設計から調達など、社会が必要とする多彩な事業を創造し続けている。
2017年に創立100周年を迎え、2018年4月に三井E&Sホールディングスへと生まれ変わることを発表した。創立以来最大の組織改編で、持ち株会社体制に移行する。「船舶・艦艇」「機械・システム」「エンジニアリング」の3事業本部は、分社化して完全な独立採算制とする方針だ。社名から「造船」という二文字をとり、「E」にはエンジニアリングやエンバイロメント、エネルギー、「S」にシップビルディングやソリューション、ソーシャルインフラストラクチャーといった意味を持たせたという。
BtoB企業である同社は、これまで広告をほとんど制作してこなかったという。だが、100周年を迎える3年前から、段階的に周年広告を制作した。三井造船 企画本部経営企画部・広報室長の髙岡正宏氏は、同社の広報活動について次のように説明する。「日頃はパブリシティーが中心なので、予算をかけて広告することは、ほとんどありません。ただ、100周年は記念すべき年なので周年事業として予算を確保でき、新聞社などから魅力的な提案もあったので広告を制作することにしました」
2017年11月14日付の朝日新聞朝刊には、全30段の広告を掲載した。三井造船が100周年を迎えたことに加え、2018年4月1日、三井E&Sホールディングスとして新たなスタートを切ることも伝えている。同社の田中孝雄社長と東京海洋大学名誉博士のさかなクンの対談記事のほか、1917年からの現在までの年表や親や親戚が三井造船で働いているという漫画家のいしいひさいち氏による描き下ろし漫画も掲載した。
2017年11月14日付 朝刊1.5MB
田中社長とさかなクンの対談では、深海が石油やレアメタルなど資源の宝庫と言われ、その活用に向けて1万メートルくらいまで潜る能力のある同社の「かいこう」という無人探査機で海底を調査していることや、深海の地図を描く技術を競う国際コンペティションに日本から「チームクロシオ」として参加していること、さらに、現在計画中の造船以外の事業など、分かりやすく解説している。「朝日新聞は、幅広いステークホルダーにリーチできる媒体です。『100周年』と『社名変更』の二つのトピックスを盛り込み、三井造船の“これまで”と“これから”を分かりやすく伝えることが課題の一つでした。読者にとって親近感のあるさかなクンが登場することで、より親しみを持ってもらえたのではないかと考えています」と話すのは、同社 企画本部経営企画部 広報室・主管の乾 雅俊氏。
新聞広告を掲載した後の反応は上々だったという。同社 企画本部経営企画部 広報室の塩澤美香子氏は「特に女性や若い方からは好評でした。社外の人からは、三井造船は堅いイメージがあったが、広告の記事を読んでソフトな印象に変わったとの声がありました」と言う。髙岡氏も「BtoB企業の広告の費用対効果は換算しにくく、社内で理解を得るのは難しい。だが、いいものをつくれば伝わることが分かった」と述べた。
社外向けのコミュニケーションをインナー向けのツールに
100周年事業として、ロゴマークを制作したほか、100周年サイトを立ちあげ、これまでのプロジェクトの記録を基にメッセージムービーも公開。過去のプロジェクトムービーを編集し、テレビCMも放映した。
三井造船の発祥の地である岡山県の新聞社、山陽新聞には地元への感謝の気持ちを伝える全60段の広告を掲載。さらに、日刊工業新聞や海事プレス、日本海事新聞、エンジニアリングネットワークなど、広報で付き合いのある業界紙や専門誌に相談し、各媒体の特性に合わせて100周年を記念する特集やこれまでの歴史を振り返る連載を企画してもらったという。
山陽新聞の広告は増し刷りし、連載記事は冊子にまとめ、三井造船の工場や各事業部に配布。インナー向けのツールとしても活用した。
「三井造船の仕事は船やプラントなど業界をまたぐので、他部署が何をしているか意外と知らなかったりします。連載記事をまとめた冊子は各業界に特化した内容なので、他部署の歴史や活動を知るいい機会になったと思います。社外に向けたコミュニケーションも、インナー向けにも活用できることが分かりました」(乾氏)
最後に、社名変更後の広報活動について、髙岡氏は次のように意気込みを語った。「体制が大きく変わるので、今はホームページや社内報などリニューアルの準備をしている段階です。各事業部が事業会社となり、広報の対外的なアプローチも調整していく必要があります。ホールディングスは縦の組織が強くなるので、広報に求められることは横のつながりをつくること。そして、三井造船と三井E&Sホールディングスをリンクさせながらグループ各社の活動内容を広く発信し続け、リクルーティングにもつなげていきたいです」