ロッテ社員から安室奈美恵さんへ、感謝の気持ちを伝える企業広告

 ロッテは2018年9月16日付朝日新聞朝刊に、同日に引退した歌手・安室奈美恵さんへの感謝の気持ちを伝える全面広告を掲載した。1996年から約3年間、同社のシュガーフリーチョコレート「ゼロ」のテレビCMに出演していたつながりから、当時のテレビCMの印象的なシーンをちりばめた、懐かしいビジュアルが紙面を飾った。同日には、安室奈美恵さんのファンによるクラウドファンディング「安室奈美恵916運動」の支援者の名前とメッセージをつづった新聞広告が4ページにわたって掲載。その次のページにロッテの全面広告が掲載され、さらなる注目を集めた。

2018年9月16日付 朝刊0.8MB

ロッテには安室奈美恵さんファンが多い。その理由

 ロッテと安室奈美恵さんは、意外なつながりがあった。それは、1992年頃に安室奈美恵さんがロッテの社内運動会に、サプライズで訪れたことだ。当時、ロッテでは毎年、社内運動会を開催しており、テレビCMに出演しているタレントや歌手など著名人が挨拶(あいさつ)をするコーナーがあったという。デビュー当時から、いくつかのロッテ商品のテレビCMに出演していた安室奈美恵さんも、そのコーナーにスペシャルゲストとして登場した。

 「当時を知る先輩たちから『安室奈美恵さんは、うちの運動会に来てくれたんだよ』と語り継がれていて、社内ではとても有名な話です。そのため、多くの社員が安室さんに親近感を持っていました」と話すのは、ロッテノベーション本部 宣伝担当 部長の鈴木由美子氏。

 安室奈美恵さんが引退を発表し、カウントダウンが近づくにつれ、「ロッテ社内でも安室さんの話をする人が増えてきた」と鈴木氏。そのとき、ある先輩社員から「安室さんとせっかくご縁があるのだから、ロッテから何かプレゼントができないかな」という話があったという。

鈴木由美子氏

 ちょうどその頃、同社のシュガーフリーチョコレート「ゼロ」が、リニューアルするタイミングでもあった。ゼロは砂糖不使用なのに甘くておいしい、日本初のチョコレートで、同社のロングセラー商品だ。新発売した1996年から約3年間、安室奈美恵さんはゼロのテレビCMに出演。そのつながりから、「新しいゼロをプレゼントして、食べてもらいたい」という話になったという。「安室さんはデビュー直後から、多くのファンに新しい価値を与え続けるカリスマ的存在として活躍されていました。ゼロもロッテの技術革新により誕生したセンセーショナルな商品で、発売当初に安室さんにテレビCMに出演してもらったことも後押しとなり、20年以上愛され続けています。安室さんとゼロは、リンクする部分が多いように感じています。社内でも安室さんと言えば、ゼロという認識が強い。そこで、ロッテの社員から『今までありがとう。おつかれさまでした!』という思いを込めて、ゼロを安室さんにプレゼントする方法はないか、広告会社の方に相談しました」(鈴木氏)

新聞広告でメッセージを発信し、引退当日を盛り上げる

 鈴木氏は、渋谷ヒカリエで開催された、安室奈美恵さんのデビューから25年の軌跡をたどる展覧会「namie amuro Final Space」に足を運んだという。そのとき、最後のコーナーにこれまで安室奈美恵さんが仕事として関わった企業のコーナーを見て、「かつて広告主だった自分たちも、何かできたのではないか」と考えたという。それと同時期に、安室奈美恵さんへのメッセージを新聞広告で掲載することを目指すクラウドファンディング「安室奈美恵916運動」が盛り上がり始め、ロッテとしてもゼロをプレゼントするだけでなく、ファンと一緒に安室奈美恵さんにメッセージを発信したい、という思いが強くなってきたという。

 「広告としてメッセージを発信するなら『安室奈美恵916運動』に合わせて、引退当日の新聞広告がベストだと考えました。ファンはきっと、その日の新聞広告は保存しておいてくれるはず」と鈴木氏。そこで、『安室奈美恵916』運動に協力していた朝日新聞の朝刊に全面広告を掲載することを決めたという。

 広告としても意味があるように、安室さんへのメッセージと一緒に、リニューアルのタイミングでもあったゼロの商品写真も掲載した。だが、企業色が強すぎると、かえってメッセージが伝わりづらいと考え、安室奈美恵さんのビジュアルをメーンに構成した。

 使用したビジュアルは、安室奈美恵さんが出演したゼロのテレビCMの映像シーンだ。紙面には、20年以上前の映像の中から選んだインパクトが強く印象的なシーンをいくつも散りばめ、メッセージも添えた。メッセージは、ゼロとの共通性をつづった長めの文章も検討したという。最終的にメッセージはゼロとの共通点でもある「革新的」という言葉で表現し、ストレートに感謝の気持ちを伝える短めの文章にした。「一番見て欲しかったのは、ゼロのテレビCMの印象的なシーンの数々。あの頃の懐かしい安室さんのビジュアルを見てもらえれば、私たちがファンと同じ気持ちであることが伝わるはずだと。掲載したいシーンはたくさんあったのですが、ファン目線で選びました」

 新聞広告が掲載された当日のツイッターでは、「安室奈美恵916運動」の広告と一緒に、ロッテの広告も写真に撮ってアップしている人や、「ロッテの広告のビジュアルに感動した」といったつぶやきもあった。「安室奈美恵916運動」の支援者の名前を全員分表記した3ページとファンから安室奈美恵さんへのメッセージをつづった1ページ、それに続いてロッテの全面広告が掲載された。「広告の掲載場所については、できるだけ『安室奈美恵916運動』の広告の近くにしてほしい、と希望は出していました。とても良い場所に掲載していただき、感謝しています」

 社内でも大きな話題となり、掲載紙を欲しいという声がいつも以上に多かったという。「営業の現場でも、ゼロの商談で今回の広告が話題となり、取扱いを増やすことにつながったという話もありました。ファンと一緒に安室さんへの感謝の気持ちを伝えられた喜びと同時に、営業に活用してもらえたことも今後の励みになります。プレゼントを贈りたいという思いが発端でしたが、最終的には広告となり、現場とも連動できました。宣伝部ができることを肌で感じ、新聞広告に新しい可能性があることも分かりました」と鈴木氏は結んだ。