「十二国記の日」に、ファンの声を載せた4種類の新聞広告を出稿し、新たな読者を獲得

 18年ぶりの新作が話題を呼び、シリーズ累計発行部数1200万部を突破した『十二国記』。新潮社では2019年12月12日(十二国記の日)、朝日新聞に15段カラー広告を出稿。熱心なファンの生の声を載せ、5地域でそれぞれ紙面を替えて4種類掲載するという異例の試みが話題を呼び、新たな読者の獲得につながった。

東京本社版

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大阪本社版

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西部本社版

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名古屋本社・北海道支社版

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ネットによる情報発信と書店キャンペーンで、新刊への期待を高める

 小野不由美の『十二国記』シリーズは、中国風の異世界を舞台にしたファンタジー小説。1991年に刊行された『魔性の子』以来、長年にわたって多くの読者に愛されてきた。2002年〜2003年にはNHKでアニメ化。2012年から14年にかけて新潮文庫から装丁を新たにした完全版が刊行され、再ブームとなる。そして2019年の秋、18年ぶりの書き下ろし長編全4巻が2カ月連続刊行され、社会現象ともいえるブームを巻き起こした。そのプロモーションについて、新潮社宣伝部副部長の石平聡氏に聞いた。

石平聡氏

 「このシリーズのコアな読者は30〜50代の女性。10代、20代の頃に作品と出会い、新作をずっと待ちわびていた方々がたくさんいます。そんなファンの思いに応えることが第一。加えて、十二国記をまだ読んだことがない層に、この作品の魅力をいかに伝えるか。この二つが、プロモーションのポイントでした。新作発売までの約半年間、ファンにはSNS拡散を、書店には売場の充実を促し続ける。そのためには、本作の人気の大きな要因となっている、山田章博さんのイラストを全面的に活用したいとの思いもありました」

 同社では、2012年からの完全版刊行とともに公式サイトを立ち上げ、ツイッターによる情報発信にも力を入れてきた。2018年12月に新作刊行の予定を発表すると、ネット上で大きな話題となる。その後、1年間にわたって公式サイトから発信される情報は常にトレンド上位に入り、2019年12月「Yahoo!検索大賞2019」を受賞。現在、ツイッターのフォロワーは9.6万人にもなる。(2020年2月28日時点)

 ネットによる情報発信ととともに、2019年の4月、7月、9月と継続的に書店でのキャンペーンを展開。新刊への期待を高めるとともに、新たな読者を開拓してきた。そして10月12日には、新作1巻、2巻を異例の全国同日発売。それに併せて、朝日新聞などの朝刊に「本日発売」と銘打った5段カラー広告を出稿した。新宿駅の地下通路や都内の書店に、山田章博さんのイラストを配した巨大な看板広告も掲出。10月12日は台風だったにもかかわらず、午前0時からの書店でのカウントダウンに行列ができ、書店の早朝販売に朝7時からファンが並ぶという現象が起きた。

2019年10月12日付 朝刊 全5段

2019年10月12日付 全国版朝刊 全5段

 「おかげさまで大変な話題を呼び、平積みの本が次々なくなって行く状況でした。新作はわずか1カ月で250万部を売り上げ、シリーズの累計発行部数は1200万部を突破しました。長年、このシリーズを支えてくださり、新作をずっと待っていてくださったファンのみなさまのおかげです。その感謝の思いを伝えるとともに、このシリーズを読んだことがない方にその魅力をさらに広く伝えたいと考え、十二国記の日である12月12日に、朝日新聞に全面広告を出稿することにしたのです」

異例の新聞全面広告を軸に、書店とともに十二国記の日を盛り上げる

 十二国記の日は、ファンの間で自然発生的に定まったものだという。その日に掲載する新聞広告は、これまでに例のないものとなった。東京本社版は「泰麒」、大阪本社版は「陽子」、西部本社版は「尚隆と六太」、名古屋本社・北海道支社版は「珠晶」と、地域によって山田章博さんが描くキャラクターを変えた4つのバージョンを制作し、出稿することにしたのだ。イラストの背後には、感想ツイートキャンペーンなどで集めた、既存ファンによる作品やキャラクターへのメッセージ、応援コメントを配した。

 「『これは、あなたの物語。』のコピーには、ファンに向けては〝この作品はあなただけのための特別な物語です〟、まだこのシリーズを読んだことがない人に向けては〝この作品はあなたにとって、かけがえのない一作になります〟という二つの意味を込めています。また文芸評論家の北上次郎さんのコメントを載せ、文芸作品が持つ力=読書の力自体をアピールする広告にもなることを目指しました」

 12日の朝、5地域の紙面の写真を載せてツイッターで発信すると、「他の地域の新聞も欲しい!」「全紙揃えたい!」など、大反響を呼んだ。普段、新聞を取っていない人がコンビニで購入し、新聞社へ問い合わせをした。自分が住んでいる地域以外の新聞も、朝日新聞の各本社へ問い合わせ、4種類すべてを購入するファンも続出した。また新潮社が行っている書店売上集計では、広告掲載後、既刊本の売り上げが平均30%も上昇したという。狙い通り、新たな読者の開拓に成功したわけだ。


 「私どもが新聞広告に一番期待したのは、発売日や十二国記の日といった、その日ならではのニュース性の高い情報を新聞広告の形で発信することで、出来事化、社会現象化することです。今は新聞紙面の内容がSNSによって大きく拡散するため、ニュース性の価値はますます高まっています。また今回のエリア版毎に広告表現を替える企画も、他の地域では紙面が違うということがSNSによって即日全国に拡散されることを前提としたもの。SNS時代ならではの、新聞活用法だったと思います」

 この新聞広告はリサイズしてB2判のポスターをつくり、書店で活用してもらった。広告を掲載した12日にはさらに、タブロイド判の「十二国記新聞」を全国の書店で配布。同時に、書店店頭でのディスプレイを競う「ディスプレイ・コンテスト」も実施。120店舗が参加し、優秀な12店舗を公式サイトで紹介した。

 「新聞全面広告を軸に、書店さんとともに十二国記の日を大いに盛り上げることができました。『新聞の全面広告を4種つくるなんて凄い』と書店さんからも大喜びされ、ディスプレイ・コンテストにも意欲的に取り組んでいただけました。『こんなに本が売れる光景は、書店員になって初めて見た』といった声もたくさんいただきました。とくにうれしかったのが、『もともと十二国記のファンで、この本を売るために自分は書店員になりました』というメッセージをいただけたことです」

 SNSと書店、新聞広告を有機的に活用した今回のプロモーション、十二国記の日の盛り上がりは、かつてない明るいニュースとなった。