父の日を前に新聞広告で、人と人を結びつけるウイスキーの価値を訴求

 「父の日」前日の6月20日、サントリースピリッツは朝日新聞に15段カラー広告「乾杯しよう、はなれてたって。」を掲載した。俳優の小栗旬さんと火野正平さんが父と子を演じるウイスキー「メーカーズマーク」のCMの世界観を踏襲しながら、コロナ禍で会うことができない父と子へエールを送るこの企画は、SNSなどでも大きな反響を呼んだ。企画の背景や狙い、反響についてサントリースピリッツ宣伝部の堀江雄太氏、企画制作を担当したSIXクリエ一ティブディレクターの野添剛士氏に聞いた。

2020年6月20日サントリー新聞広告

2020年6月20日付 朝刊379KB

父と子供がゆったりと話す時間をつくってくれるウイスキー

 「メーカーズマーク」は、1本1本丁寧に施した赤い封蠟(ふうろう)のキャップデザインが印象的なプレミアムクラフトウイスキーだ。2018年から小栗旬さんを起用したCMを展開してきたが、今年は父の日に向けて「父の日」篇(へん)を制作・公開した。

 CMでは父の日に、小栗さんが火野正平さん演じる実家の父に会いに行く。二人で「メーカーズマーク」を傾けながら、「うまい?」と小栗さんが尋ねると、「お前も、息子にウイスキーもらったらわかるよ」と火野さんがボソリ。普段は離れて暮らし、言葉を交わすことも少ない父と子が、ウイスキーを媒介に心を通わせ合う。そんな心温まるシーンが描かれている。サントリーがこのようなかたちで、父の日に合わせたウイスキーのプロモーションを大々的に行うのは7年ぶりだという。

サントリー公式Twitterより

 「ウイスキーは父と子など人と人とのつながりを深め、その関係に寄りそう飲み物です。今年はそんなウイスキーの本質的な価値を、父の日に合わせて大規模に訴求することになりました。そのうえで、1本1本丁寧に心をこめて作り上げる『メーカーズマーク』は、父への思いを込めて贈るプレゼントとして最適なブランドだと考えました」(堀江氏)

 CMとともに、自分の父親の名前が入ったラベルが当たるキャンペーンも実施。当選者1万人に対して7.5万人の応募と、想像以上に大きな反響があった。父の日に感謝の思いを伝えたくても、気の利いたプレゼントを選ぶのはなかなか難しい。そんな人たちに、父親の名前が入った世界で一つのウイスキーを贈れるキャンペーンは、うってつけだったようだ。

サントリー公式Twitterより

 「父と子は本音を言うのがどこか照れくさい関係です。そしてお父さんが子供から贈られて一番うれしいのはモノやコトではなく、子供とゆったりと話をする時間ではないでしょうか。ウイスキーはそんな時間をつくってくれます。CMではそうしたウイスキーがつくる父と子のかけがえのない時間を表現しました」(野添氏)

 すでに完成していたテレビCMが、今の世の中に受け入れられる可能性を強く感じ、社内ではこの世界観をさらに幅広い層に、より深く届くかたちで発信すべきではないかとの議論が起きた。そして父の日の前日に、全15段の新聞広告を掲載することが決まる。

 「新聞読者は毎朝、その日のニュースを読むために新聞を広げ、日付や時節を強く意識しています。父の日直前の、父親への思いが最も高まる瞬間に広告を掲載することで、我々のメッセージがより深く、強くみなさんの心に届くのではないかと考えました」(堀江氏)

変化と不安の時代には、本質的かつ普遍的なメッセージが心に響く

 その後、新聞広告の制作が本格的に始まる。緊急事態宣言が解除され、少しずつ世の中が動き始めたとはいえ、まだまだ多くの人が不安を抱えていた時期。大切な人と会えない状況は相変わらず続いていた。

サントリースピリッツ 宣伝部
堀江雄太氏

 「人と会うというこれまで当たり前だった価値観が、これだけ揺さぶられたことはかつてなかったと思います。そんな状況のなかで、具体的にどのようなメッセージを出すことがベストなのか。サントリーさんと幾度となくやりとりを重ねて、コピーも何度も書き直しました」(野添氏)

 最終的にできあがったのは、真っ赤な背景にウイスキーが入った二つのグラスとボトル、そこに「乾杯しよう、はなれてたって。」のコピーを配したシンプルなクリエーティブだった。新型コロナの心配はもちろん、遠くで暮らしていたり、仕事で忙しかったり、さまざまな事情で父の日に会えない人たちに向けて、「それぞれの父の日を、できる範囲で、幸せな時間にしてください」と投げかけるものだった。

 「会いたいけど会えない。会いたいけど会うべきではない。そんな矛盾した感情を抱えて悶々(もんもん)としている人たちの気持ちが楽になり、ゆったりした時間とともに父親への思いを馳(は)せる。広告を見た人には、そんな気持ちになってほしかったのです。だからコピーも、まずは『乾杯しよう』というポジティブな言葉から始めることにしました」(野添氏)

 あえて人物や背景を入れず、二つの傾けたグラスのみのビジュアルは、見た人を自然な感情移入に誘う。シズル感あるグラスの写真からは、乾杯の音まで聞こえてきそうだ。公式SNSでも掲載前日に告知したが、この新聞広告に対しては同社が行った調査でも「父にひさしぶりに感謝の思いを伝えたいと思った」「それぞれの価値観で父の日を迎えればいいんだと安心した」など賛同するコメントが多く寄せられた。

 「今はコロナ禍で世の中が大きく変わっています。それだけに親子の絆や人と人とのつながりといった、本質的で、かつ普遍的なメッセージが多くの方の心に深く響いたのだと思います。今回の出稿で、新聞広告は、広告メッセージを真摯(しんし)に、深く読み取ってくださる方に、しっかりと届くことが改めてわかりました」(堀江氏)

SIX クリエ一ティブディレクター
野添剛士氏

 「新聞は自分の手でめくり、読みたい記事を自分で探して読む、能動的なメディアです。機械的にレコメンド情報が届くネットと比べて、いい意味で ‘遅い’ ( ‘深い’ と言ってもよいと思いますが)メディアかもしれません。例えれば、飛行機ではなく、豪華客船で世界をゆっくり回るような贅沢な時間を過ごすことのできるメディアといった感じでしょうか。何でもスピード優先の時代に、知りたい情報にゆっくりと巡り合っていく。それって何だかロマンティックですよね。(笑) 僕らは広告の作り手として、クライアントの情報や広告を、単なる情報ではないブランドメッセージとして伝えたいと、常に思っています。今回の『父の日』や、お正月、『母の日』など、そうした時に新聞広告を出したいと思うのは、それがブランドの情緒や思いをより深く伝えることができる機会でもあるからです。そうした意味でも、‘その日に出せる’ 新聞広告は非常に有効だと思います」(野添氏)

 変化と不安の時代だからこそ、信頼性や本質が問われる。そんな中で、新聞広告や、普遍的なメッセージを込めた広告の役割はますます重要性を増していくだろう。サントリーでは今後も、さまざまな機会を通じて、家族の大切さ、人と人のつながりといった人間にとって普遍的な価値をウイスキーとともに訴求していく予定だ。

 「人と人とのつながりを意識する瞬間は、一年のなかでたくさんあります。その時々の人々の思いや気持ちにしっかり寄り添いながら、ウイスキーの価値を感じていただける活動を今後も続けていきたいと思います」(堀江氏)