新入社員のメッセージをモザイクアートで発信 新聞広告でつくる一生に一度の思い出

 第40回新聞広告賞(日本新聞協会主催)において最高賞である新聞広告大賞に選出された、アウトソーシングテクノロジーの広告「会えなくても、一生同期だ 2020.4.1」。SNSやメールで集めた新入社員からのメッセージをモザイクアートにしたユニークな紙面は、新入社員はもとより、多くの読者の感動を呼んだ。

2020年4月1日付 1.8MB

 今回の企画の発案者である同社の広報ブランディング室 室長 山根弘行氏と、アートディレクションを担当した広報ブランディング室の林 昌輝氏に、出稿までの経緯や狙いを聞いた。

新聞全15段広告の出稿が新入社員との「初の共同作業」に

山根弘行氏

 入社式は新社会人にとって特別なイベント。しかし今年度は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、やむを得ず入社式を中止や延期、またはオンラインに切り替える企業が相次いだ。今年、グループ合計約2,000人の新入社員を迎えたアウトソーシングテクノロジーもそのなかの一社。感染拡大防止のため、4月1日に予定していた入社式をオンデマンド方式に切り替えることを、比較的早い段階で判断した。エンジニアなどの派遣を行う人材サービス企業である同社にとって、入社式が持つ意味は、他社よりも重いと言える。配属先に同社の社員がいることはあっても、同期全員の顔がそろう機会はほぼ入社式のみ。同社の茂手木雅樹社長が「入社式の代わりに何か記憶に残ることを新入社員に届けよう」と提案したのは、こうした人材サービス企業ならではの背景があったためだ。

 「記憶に残る何か」が新聞広告に決まるまでの経緯について、山根氏は次のように話す。「新入社員に上を向いて明るい未来を見てもらいたかったので、当初は花火や気球を上げられないかと考えていました。しかし花火は申請が必要で4月1日に間に合いませんし、気球もドローンの規制法で今は上げるのが難しいということで、両方白紙に。何かいいアイデアはないかと様々なキャンペーン事例を見続けるなかで、ふと新入社員からメッセージを集めてモザイクアートとして新聞紙面で展開し、それを新入社員が力を合わせた初仕事にすることを思いついたのです。ひとつの仕事として世の中に出すのであれば、展開するメディアはWEBではなく、社会への影響力が強い新聞がいいだろうと判断。また新聞が“物理的に残せる”メディアであることにも価値を感じました」

林 昌輝氏

 しかしこれまで新聞広告を出稿したことがなく、アイデアが出た段階では掲載が可能なのかどうかも未知の状態。山根氏から相談を受けたアートディレクターの林氏は「スケジュール的に無理だと思いました」と笑いながらも、次のように振り返る。「スケジュールがタイトすぎるとは思ったものの、よくよく聞いてみると、新入社員のメッセージをモザイクアートにするのはおもしろい試みだと感じ、これは無理をしてでもチャレンジする価値があるだろうと腹をくくりました。デザインでとくに難しかったのが色味。絵がくっきりと浮き出て、なおかつメッセージも読みやすいという色のバランスには本当に苦労しました」

 さらには新聞を手に取ることができない人もいるだろうと、紙面と同時に「会えなくても、一生同期だ」をテーマにした動画制作も進行。紙面、動画ともに4月1日に間に合うよう、山根氏と林氏はもちろん、新入社員とやり取りを行う新卒採用部、送られてきたメッセージを精査する広報ブランディング室が一丸となり、必死で取り組んだという。

第40回新聞広告賞「新聞広告大賞」を受賞

 4月1日、アウトソーシングテクノロジーグループの2020年度入社式がオンデマンド配信にて執り行われた。その際、社長より、朝日新聞朝刊に新聞広告が掲載されている旨を発表。メッセージの使用用途について詳しく伝えられていなかったため、新入社員にとっては大きなサプライズとなった。入社式後に新聞をコンビニ等で購入し、自身のメッセージとともに紙面をSNSにアップする新入社員も多かったという。

 掲載から数ヵ月後、新入社員を対象に社内で行ったアンケートによると、新入社員の94%が「会えなくても、一生同期だ」の紙面、および動画に接触。また60%が「不安な気持ちが払しょくされた」、90%が「長く働きたいと感じた」と回答した。この結果に林氏は、「圧倒的なリーチ力に驚きました。想定していた以上に効果的なインナーブランディングになったと思います」と喜びを見せる。また意外な効果があったと話すのは山根氏だ。「多くの新入社員から“親が喜んでいました”という声を聞いたのです。この状況下で社会的なメッセージを新聞で発信することの重みは、社会で揉まれた経験を持つ親世代の方が実感しやすかったのかもしれません」

 新聞初出稿ながら、新聞広告賞(日本新聞協会主催)の最高賞に選出という快挙を成し遂げた今回のキャンペーン。受賞をきっかけに社外からも「いい広告だった」「気持ちが伝わってきた」という意見が届くようになったという。受賞についての感想を伺うと、山根・林氏ともに、「新入社員のメッセージのおかげです」と声をそろえる。「メッセージがなくては成立しなかった広告。最高賞の受賞は新入社員たちとの初の共同作業が評価された結果です」(林氏)

 山根氏は、「新聞広告賞の受賞で、次のハードルが上がってしまいました」と笑いながらも、「今回のキャンペーンで新聞の持つ力がよく分かりました。現在当社は上場を目指して準備している段階。今後、社会的認知の拡大や、メッセージの発信などで、新聞を活用したい場面はかならず出てくると思います」と話す。その横で林氏はうなずきながら、「新聞広告はWEBと違い、俯瞰で大きく見えるのが利点。企業がきちんとメッセージを伝えたいときにはもっともフィットするメディアだと思っています。また個人的にもインクの匂いや紙の触り心地が好き。これからも折を見て活用していきたいです」と言葉をつないだ。

 リモートワークが定着し、大規模イベントの開催が難しいコロナ禍の状況にあって、組織の一体感を強固にする機会の創出は、多くの企業が抱えている課題だ。そんななか新聞広告を一生に一度の思い出づくりの場とし、高い評価を得たアウトソーシングテクノロジーのプロモーションは、インナーブランディングにおける、新聞広告の新たな活用法を示したと言えそうだ。