新入社員がみんなで歩いて月を目指し、地球の未来について考えるプロジェクト。体験型企画で、同期の絆を深める

 2020年4月に掲載された新入社員からのメッセージをモザイクアートにした広告で、日本新聞協会「第40回新聞広告賞」新聞広告大賞を受賞したアウトソーシングテクノロジー。同社では今年の4月1日にも、新入社員みんなで歩いて月を目指す「アポロプロジェクト」開始を告知する新聞広告を掲載。世界環境デーの6月5日には、新聞紙面を丸めて地球にし、サステナブルな社会実現のために自分ができることを記入してその写真をシェアするユニークな広告を出稿した。これらの企画の狙いや反響、新聞広告の意義について、広報ブランディング室アートディレクターの林昌輝氏、同室係長の入倉里咲氏に聞いた。

コロナで会えない新入社員が、同期で力を合わせて月までの距離を歩く

 技術者の派遣事業を行うアウトソーシングテクノロジーでは、大々的な新聞広告を打つのは昨年が初めてだった。それが大きな反響を呼び、新聞広告大賞を受賞。昨年に続き今年も新聞での出稿を考えたのも、その反響に大きな手応えを感じたからだ。

2020年4月1日付 朝刊 1.8MB

 「昨年の紙面企画を通じて、新入社員から『同期との絆が深まってよかった』『こんなすてきなことをやってくれる会社に入社してうれしくなった』とたくさんの声があがりました。とくに新聞を活用して良かったと思うのが、社員の親の世代が多く目にしてくださったこと。幅広い方々に弊社のことを知ってもらう、とてもよい機会になりました」と、昨年まで新卒採用担当だった入倉さんは語る。
 「弊社が取り組む派遣事業に対してネガティブな印象をもたれている方もいらっしゃいます。そんな中で歴史があり、社会的権威もある新聞広告を出したことで、派遣事業に対する認識の変化や、弊社の信頼感が増したと感じています。昨年の企画で新聞広告の力を強く感じ、今年もぜひやりたいと考えていました」と、企画やクリエイティブ全般を担当する林氏も語る。
 同社では派遣事業という仕事柄、同期が同じフロアで集まる機会は少ない。それだけに、新入社員たちが同期の絆を深める入社式を大切にしてきた。

林昌輝氏

 「昨年の企画も、直接会えない中で同期の絆を深め、新入社員に記憶と記録に残る最高の思い出をつくってあげたいとの思いから生まれたものです。今年もコロナ禍で入社式はオンラインとなったため、昨年同様、新入社員みんなでなにかをつくりあげるようなことができないか。そう思ってコピーライターや制作会社とアイデアを考えはじめました」(林氏)
 とはいえ昨年、初めての新聞広告出稿で大きな賞を受賞しただけに、「それを超えるものに」とのプレッシャーは大きかった。熟考の末、生まれたのが「新入社員みんなで歩いて月を目指す」プロジェクトだ。もちろん本当に月に行くわけではない。新入社員が日々、歩いた距離をリアルタイムで集計できる専用アプリをつくり、全員で月までの距離を達成しようとの試みだ。
 「入社式からスーパームーンの日である526日までに、新入社員みんなで力を合わせて月までの距離384,400kmを歩き切る。会えなくても同期でつながり、みんなで勇気をシェアしながら、高い目標に向かって頑張る。そんな経験を通して、何事にも挑戦的な気持ちで取り組める人材に成長してほしい、という社長の茂手木のメッセージも添えました」(林氏)

2021年4月1日付 朝刊 986KB

新聞紙を丸めて地球をつくり、宣言を記入することでSDGsを自分ごと化

 今回の新聞広告企画は、当初、4月掲載の1本の予定だった。しかし「せっかく月まで行くのだから、その後のストーリーもあったほうがいいのではないか」との茂手木社長の意見もあり、2本目が企画された。
 「弊社はSDGsの取り組みにも力を入れているため、新聞広告でサステナブル教育のようなことができないかと考えました。そこで月に行き、月から地球を眺めた新入社員たちが、サステナブルな社会を実現するために自分は何をすべきかを考える。そんな企画ができないかと、さまざまアイデアを練りました」(林氏)
 その結果、生まれたのが新聞紙面を丸めて地球にし、そこに自分がサステナブルな社会実現のためにやろうと思う宣言を記入。その地球を写真に撮り、みんなでシェアするというユニークなプロジェクトだ。

2021年6月5日付 朝刊 1.3MB

入倉里咲氏

 「新聞は紙というリアルな物体で、触って体験できるメディアです。この企画では、そこをうまく生かしたかったんです。また裏のコンセプトとして『捨てることをためらうような広告』を意識していました。普通はすぐ捨ててしまうものを活用することで、すこし立ち止まって消費社会について考えてもらいたい。そんな発想から生まれたのが、新聞広告で地球をつくるアイデアでした。ただ読むだけでなく、自分で地球をつくり、宣言を書き込む体験を通して、未来に向けた決意をより深く心に刻んでもらえるのではないかと思ったんです」(林氏)
 紙面制作にあたってはデザイナーとともに、どのくらいの地球の大きさや色が適切か、何度も実際に新聞紙を丸めて検証を重ねた。一時期、オフィスには丸めた新聞紙が山積みになっていたという。
 「4月1日のオンライン入社式ではアポロプロジェクトの説明をし、SDGs研修も行いました。さらに新入社員50人が実際に新聞広告を丸めて宣言を書く、オンラインイベントも実施しました。それにより、研修をさらに自分ごと化できたのではないかと思います。参加者からは『SDGsや地球の未来についてしっかり考えるとてもよいきっかけになった』との声があがりました」(入倉氏)

毎年、4月1日の新聞広告を世の中の人が心待ちにするような風物詩にしたい

 このようにこの企画では、新聞広告とイベント、動画、アプリなどを連携させ、新入社員を巻き込んだ、体験型のプロジェクトになるよう工夫している。新入社員が出演し、ナレーションも担当する動画も制作。全国に散らばる新入社員から自撮り動画を送ってもらい、編集した動画を入社式で放映したところ、大好評だったという。

 「今回のプロジェクトを通し、新入社員からは『同期と会えない中、一体感がもてて良かった』、新卒採用の担当からは『新入社員の思い出に深く残るイベントになった』との声がありました。昨年同様、親御さんの大きな安心にもつながったのではないかと思います。今年はグループ会社のみなさんからの反響も大きく、新聞広告をラミネートして会議室に飾ってくれているところもあります。グループとしての一体感を強めるうえでも大変有意義でした」(入倉氏)
 世界環境デーに合わせて出稿した2本目の広告は、社会全体で環境への意識が高まり、新聞紙面にも環境関係の記事が多いタイミングだっただけに、一般読者からも強い関心と共感を集めた。
 「実は最初に『私のサステナブル宣言』を応募してくださったのは、一般の読者の方だったんです。今回の新聞広告はインナーブランディングだけでなく、幅広いステークホルダーや一般の方への弊社の認知度向上にも大きくつながりました。また同じように社員にメッセージを送るにしても、私どもが直接発信するのと、新聞という報道メディアを通じて伝えるのでは、社員の受け止め方が大きく変わります。パブリックで社会性の高い新聞メディアを使ったことで、社員も今回のプロジェクトを社会的に意義のある取り組みとしてとらえてくれたように思います」(林氏)

 そう語る林氏に、最後にクリエーターとして感じる新聞広告の魅力や可能性、今後、新聞広告でやりたいことをうかがった。
 「僕はもともとグラフィック出身なので、新聞広告をつくるとなるとやはりワクワクします。また僕が新聞メディアの最大の特性だと思うのが、タイムリーに、シンボリックにその日の大切な出来事を伝えられることです。それもあって4月の新聞広告では『4月1日を、世界で一番大切にする会社でありたい。』とのコピーをいれました。個人的には、毎年4月1日には弊社の新聞広告を読者が心待ちにしている、といった風物詩的なものとして続けていきたいと思っています。今回、新聞広告を使った社員教育的な試みも行いましたが、今後も新聞メディアの特性を生かしながら、新しいことに挑戦していきたいですね」(林氏)