経営層のデジタルシフトと新旧のスキルの融合を急げ

 ネット領域にとどまらず、マスメディアを含めた広告全体の知見も加え、「マーケティングをデジタル化する」ためのコンサルティングを行うデジタルインテリジェンス。代表取締役の横山隆治氏は、「デジタルデータを操る若手と広告プランニングのノウハウを持つベテランのスキルを融合し、新たなスキルを創造する。そんな視点がないと世界に立ち遅れる」と語る。デジタル化するメディアの現況や広告界の課題について聞いた。

データを知る編集者発のネイティブ広告に可能性

横山隆治氏 横山隆治氏

──広告の世界にもデジタル化の波が押し寄せています。こうした流れをどう見ていますか。

 あらゆる事業領域でデジタルトランスフォーメーションが起こっており、先を行く欧米では、デジタル人材の獲得を目的とするM&Aが活発化しています。トップダウンでデジタルにかじを切り、テクノロジー改革の方向性を見通せる若きCEOが新たな経営を担う企業も少なくありません。

 一方、日本企業の多くはデジタルマーケティングの専任部隊の編成にとどまっています。デジタル化とグローバル化はコインの裏表で、いかに共通のプラットフォームで国境を越えてマネタイズできるかがカギ。日本語コンテンツをベースとするメディア企業や広告会社はそれだけでもハンディがあるわけで、CMO(※1)はもとより経営層のデジタルシフトを急ぐ必要があると思います。

──広告ビジネスを取り巻くデータ群は、どのようなものがありますか。

 「広告配信結果データ」「ファーストパーティデータ」「セカンドパーティデータ」「サードパーティデータ」、以上4つのデータ群に大別できます(図)。広告配信テクノロジーが普及し、広告主をまたいでその仕組みが適用される可能性もある中、4つのデータ群をいかにひもづけるかという発想が不可欠です。

図 4つのデータ群

図 4つのデータ群

 そういう意味で存在感を増しているのが、あらゆる時空間に対応できるスマホです。テレビや新聞など、広告展開のタイミングや場所がある程度限定されてしまうメディアは、自分たちのコンテンツの本質はいったい何のか、改めて見つめ直す時期にきていると思います。

──広告主企業が自社保有データの整備を進めています。マスメディアのデータやコンテンツは、企業のマーケティング活動において、どのような価値があるのでしょうか。

 企業のオウンドメディア戦略は、自社サイトにいかに人を呼び込むかが重視されてきましたが、それが変質しています。メディアが分散化し、自前のコンテンツだけでは対応しきれなくなっています。さらに、検索連動型広告などは、顕在化したニーズの刈り取りに強い半面、顕在化する手前の動機づけやテーマ設定に弱い。そこは一次情報を持つ新聞や雑誌の得意分野で、広告主や消費者の期待も大きい。

 カギとなるのは、コンテンツのマネタイズ。例えばネイティブ広告は、編集者自身がオーディエンスを分析し、コンテンツのマーケティング価値を把握し、広告主に魅力的な記事を提案してこそ意味がある。これは広告会社ではできないことです。アメリカのパブリッシャーはその市場をうまく育てていますが、日本のパブリッシャーの多くはマーケティング部隊と編集部隊が完全分業で、「ネイティブ広告=記事広告」という安易なとらえ方しかしていない。ネイティブ広告の可能性を真剣に追求していく必要があるでしょう。

若手とベテランの突然変異によるコンテンツ創造を

──DMP(※2)を活用してテレビCMを最適化する、さらにその効果をシングルソースパネルで測定するなどの動きが始まっています。マスメディア広告の今後をどう見ていますか。

 私見ですが、テレビCMの一部は入札制にしたらいいと思っています。新聞広告の一部も、部数単価で入札制にしたほうがいいかもしれない。マスメディアの広告効果の検証がテクノロジーを駆使することで可能になっている中、「枠の手売り」がいつまで通用するのか。今求められているのは「広告の民主化」です。見えにくかった広告効果を可視化し、視聴者や読者、つまり購入側にとって理にかなった提案をすることです。

 ネットの世界では広告や記事の民主化が進み、ゴシップに流れるという懸念がある一方で、キュレーションメディアが成長を遂げています。マスメディアも広告のみならず、あらゆる面で自分たちの生産物を民主化することで、再編の道筋が見えてくるのではないでしょうか。

──メディア企業や広告会社のビジネスは、どのように変わっていくのでしょうか。

 買い物やイベント参加などのオフライン行動も、今やデータ化できる時代です。ただ、それだけ持っていても意味はなく、他のデータと串刺しにすることで、マーケティング的な価値が生まれる。その上で重要なのは、データアナリストとマーケティング実施者のスキルの融合です。新聞社や雑誌社であれば、マーケティングデータを操る若手と、広告プランニングのノウハウを持つベテランが一緒にコンテンツを創造する。スキルを持つ個が刺激され、突然変異が起こるような環境を組織的に作るのです。

 メディアがこれをやり始めた時、広告会社はどうあるべきか。広告会社の役割は主にコンサルティング、分析、運用に集約されますが、あらゆるデータを串刺ししてプランニングからエグゼキューション(実施)まで一気通貫にできる体制が一層求められます。いずれにせよ、旧来の体制をリセットするくらいのイメージを持たないと、日本のメディアのデジタル化は世界に遅れを取ることになるでしょう。

(※1)CMO(チーフ・マーケティング・オフィサー)
(※2)DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)

横山隆治(よこやま・りゅうじ)

デジタルインテリジェンス代表取締役

青山学院大学文学部英米文学科卒。旭通信社入社。デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム代表取締役副社長、ADKインタラクティブ代表取締役社長を経て、2011年より現職。主な近著に、『CMを科学する─「視聴質」で知るCMの本当の効果とデジタルの組み合わせ方─』(宣伝会議)、『広告ビジネス次の10年』(翔泳社)。