社会課題の解決は「貢献」ではなく自社の潜在能力を発見するチャンス

 ソーシャル・プロジェクトを数多く手がけ、企業・学生・著名人が連携して共通価値の創造を目指す「Blue Table」プロジェクトのファシリテーターを務める電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表の並河進氏。「ソーシャル・プロジェクトのポイントは恒常化」と話す。

自社の将来を考えれば課題解決は不可欠

──企業のマーケティングやCSRなどの観点から、社会課題をどのように捉えていますか。

右寄せ
並河 進氏 並河 進氏

 大きく分けて「気づき」「アクション」「仕組み化」の三つのフェーズで変化すると考えています。例えば、LGBT(性的少数者)やダイバーシティーへの取り組みは、欧米に比べて国内はまだ気づきのフェーズと言えるでしょう。環境対策や夫の育児参加など課題化して久しいテーマは、具体的なアクションや、アクションを恒常的に促す仕組み化が進んでいます。

 アクションや仕組み化の動きをさらに見ていくと、「マイナスからゼロ」「ゼロからプラス」という二つの特徴に分けられます。前者は、CSRなど、自社や自社のいる業界が抱える課題の解決に向けた活動。後者は、コーズマーケティングやCSVなど、ブランディングや販促につながる活動です。

 具体的に企業のコーズマーケティングの例を挙げると、ヤフーは、「Search for 3.11 検索は応援になる」というプロジェクトを展開し、支持を集めています。3月11日当日に「3.11」とヤフーで検索した1人につき10円が東日本大震災の復興支援団体に寄付されるというものです。また、CSVにも積極的な同社が展開する「REUSE! JAPAN PROJECT」では、モノを捨てずにリユース(再利用)することを推奨し、新しいビジネスを生んでいます。

──企業の事業やマーケティングにおいて、ソーシャルな視点の必要性をどのように考えていますか。

 社会課題の解決を「義務」や「貢献」と捉えるのではなく、チャンスと捉えるべきだと思います。例えば、子どもと距離が近い菓子メーカーが教育関連の課題に取り組むことで、事業の新機軸が打ち出せるもしれない。ソーシャルな視点は、自社のリソースや潜在能力を発見するチャンスです。

 CSVなどは、「社会貢献のためか、利益のためか」という2軸で捉えがちですが、長いスパンで自社の将来を考えると違う見方ができます。例えばアフリカは、2050年には世界の人口の半分に達すると言われています。となると、アフリカで社会課題に取り組むことは、数十年後の自社のリソース確保において重要な意味を持ちます。折しも昨年、国連が「SDGs(持続可能な開発目標)」を定めました。貧困や飢餓、エネルギー、気候変動など、これまで途上国の課題としてきたことを世界全体の課題として捉えようという考え方で、ビジネスにおいても欠かせない概念になっていくと思います。

ファンづくりに寄与するコーズマーケティング

──企業が様々なステークホルダーと向き合う中で、マーケティングはどのように変化しているのでしょうか。

 1983年に「自由の女神修繕キャンペーン」で先駆けとなったアメリカン・エキスプレスは、その後もコーズマーケティングをリードしてきました。近年は国内でも、ファンづくりやコミュニティーの育成のために取り入れたいという企業が増えています。コーズマーケティングの肝は、参加したくなるアイデア、人に勧めたくなるアイデアです。

 例えば、イオンは、黄色いレシートを店内の箱に投函(とうかん)すると、買い上げ金額の1%が地域のボランティア団体などに還元されるキャンペーンを展開し、地域のファンを増やしています。肩ひじ張らずに参加できるこうした取り組みは、企業の求心力につながるもので、今後も注目されると思います。

──メディアに期待していることは。

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2014年10日20日付 朝刊「Blue Table」プロジェクト採録紙面

2014年10日20日付 朝刊「Blue Table」プロジェクト採録紙面

 「気づき」を一般市民にもたらすという点で、メディア、中でも新聞メディアは大きな役割を果たしています。さらに期待したいのは、「アクション」や「仕組み化」を促す情報発信です。私が関わる朝日新聞の「Blue Table」もそれを目的としていて、社会課題の解決に意欲を持った企業、学生団体、著名人などが互いの立場の違いや世代差を超えて議論する場を提供し、ステークホルダーを巻き込んだうねりを生み出そうとしています。

2015年3日31日付 夕刊 2015年3日31日付 夕刊

──今後手がけたいテーマは。

 東日本大震災を境に、社会課題に対する企業の関心は急速に高まりました。5年を経過した今、いちばん気になるのは、これまでの取り組みを恒常化できるかどうか。情熱を持った担当者が外れたらフェードアウト、なんてことにならないよう、様々な事例や知見を集合知化し、各方面にソーシャルの意義を発信していけたらと思います。

──ソーシャルという観点から、これからの企業に求められることは。

 自分が所属する電通も含めて、自社の資産をいかに長続きさせるかという視点ではなく、世界で求められていることを見つけて、自社でできないことは、他の誰かと手を組んで解決に向かう。そうした謙虚さが大事なのかなと思います。

並河 進(なみかわ・すすむ)

電通ソーシャル・デザイン・エンジン代表 コピーライター/クリエーティブディレクター

「nepia 千のトイレプロジェクト」をはじめ、社会課題と企業をつなぐプロジェクトを多数手掛ける。著書に『Social Design 社会をちょっとよくするプロジェクトのつくりかた』(木楽舎)、『Communication Shift 「モノを売る」から「社会をよくする」コミュニケーションへ』(羽鳥書店)他多数。TED×Tokyo Teachers 2015スピーカー。 2016年度グッドデザイン賞審査委員。