ものづくり企業のB to S for S 社会的意義の発信が重要に

 BtoC企業と異なり、商品を通じて生活者とのコミュニケーションが取りづらいBtoB企業。企業を取り巻くステークホルダーが多様化する中で、ものづくり企業のコミュニケーションのあり方も変化している。日本BtoB広告協会副会長(関西支部長)で、クボタコーポレート・コミュニケーション部シニアスペシャリストの山﨑方義氏は、「BtoB企業でも、持続可能性のために、きっちりと社会的意義を発信する必要がある」と話す。

多様化するものづくり企業のステークホルダー

──ものづくり企業を取り巻くステークホルダーはどう変化していますか。

山﨑方義氏 山﨑方義氏

 ものづくり企業をBtoB領域の製造業だと解釈すると、コミュニケーションの対象として重視するステークホルダーが多様化してきたといえます。これまで、企業間におけるビジネスが中心のBtoB企業は、品質の高い製品を適正な価格で供給すれば、比較的安定した経営が維持できたことから、情報発信の対象を「顧客」と、限定的にとらえる傾向がありました。もちろん顧客を重視するのはいつの時代でも変わりませんが、今は他のステークホルダーとの関係構築が以前にも増して求められています。インナー(従業員)はもちろん、社会全般とのリレーションシップが重要になっているのです。

 BtoC企業は顧客と生活者が重複するので、「生活者で構成される社会」を、顧客から独立したステークホルダーに位置づける必要にそれほど迫られません。いわば社会と顧客を一体として見ることができるわけです。一方BtoB企業の取引先は法人や組織で少数限定的ですから、顧客と生活者が分離しており、社会を顧客とは別のステークホルダーだと認識しています(図1)。

図1 社会と顧客の重複性

図1 社会と顧客の重複性

図2 コミュニケーション領域の拡大 図2 コミュニケーション領域の拡大

──それに伴い、企業の評価基準も変わってきたようです。

 ステークホルダーの多様化は、企業評価の多様化と表裏一体でもあります。評価軸として売上や利益といった経済性に加え、地球環境保全への配慮や社会、さらには地球といったグローバルレベルの共益に対するチェックがされるようになってきました。それに連動してBtoBコミュニケーションの概念も拡張して考えるべきです(図2)。

 企業に対してマルチステークホルダーが評価するようになると、社会とのインタラクティブな関係が大切になってきます。クボタでは、若い世代に科学分野に興味を持ってもらう機会を提供しようと、高校生を対象とした「クボタ・アクティブ・ラボ」など、教育分野での社会活動に取り組んでいます。

──ものづくり企業が展開する企業広告の特質には、どのような点がありますか。

「クボタ・アクティブ・ラボ」の様子 「クボタ・アクティブ・ラボ」の様子

 BtoC企業に対するBtoB企業の決定的な違いは、顧客以外の受け手において企業や事業の認知レベルが格段に低いということです。ですから「我々は何者です」とか「こういう仕事をやっています」という情報が企業広告の訴求点として成立してしまうのです。一般消費財の会社ならスキップできる内容です。それが理解されてはじめて、企業の存在意義や社会的価値の伝達というステップに移れるのです。これらを達成する方法はいろいろと考えられますが、BtoB企業ならではの問題でしょう。

 また副次的な効果として、インナーへの影響が挙げられます。広告はあくまで社外向けの活動ですが、社外で流通する自社の情報量が少ないため、広告と従業員のモラール(士気)向上を関連づけることができると思います。それ以外に新規市場への参入を支援する「オープン・ザ・ドア効果」や、人材確保への活用などを挙げることができます。

社会的意義を伝えるB to S for S

──「B to S for S」という概念について教えてください。

 BtoB企業は、社会(Society)に向けたBtoSコミュニケーションを強化する方向にあります。これに「何のために」という目的を加え、「BtoSforS」、すなわち「B(Business) to S(Society)for S(Sustainability)コミュニケーション」という概念を提唱しています。企業と社会の双方にとって持続可能性の確保に向けたコミュニケーションです。今注目されている(CSV:Creating Shared Value=共通価値の創造)にも通じるフレームだと考えています。

──B to S for Sを考慮したクリエーティブ上の示唆があれば教えてください。

 BtoB領域の生産財や産業財は、一般消費財と違って直接使うものではなく、見ただけでは価値がわかりにくいという特徴があります。そこで生活者視点で社会的な意義を発信し、受け手にとって「自分ごと」として受けとめてもらえるような工夫が必要です。企業側が言いたいことをそのまま伝えるのではなく、相手に「知ってよかった」と思ってもらえるような情報に変換することがポイントです。

──ものづくり企業のコミュニケーションの課題は。

 B to S for Sコミュニケーションの課題は、効果測定が難しいということです。そうはいっても経営資源を投入していますので、KPI(注)を設定して成果を測る必要があります。私は指標を2段階に分けたらよいと考えています。例えば円滑な経営に寄与するものとして、その企業の「社会的意義の理解度向上」をゴールにします。そしてその前段階の指標として、「広告のリーチ」を設けるというアプローチです。手段が目的化しないように、これらの二つの指標を見比べながら成果を測り続けないといけません。設定目標である達成指標と、それに対する成果測定の開発は、常に課題だといえるでしょう。

(注)重要業績評価指標

山﨑方義(やまさき・まさよし)

クボタ コーポレート・コミュニケーション部シニアスペシャリスト

日本BtoB広告協会副会長(グローバル委員長・関西支部長)、ACジャパン大阪運営委員長、日本広告審査機構関西分科会幹事・業務委員会委員、日本BtoB広告賞審査委員。
著書に『広告表現 倫理と実務』(分担執筆、宣伝会議)、『リレーションシップ・マーケティング』(分担執筆、五絃舎)。