高まる情報発信力と家庭内の影響力 女性のシェア欲求を刺激するのが有効

 家庭における購買行動のカギを握る女性。
SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)など情報発信ツールの普及・活性化で、その影響力は勢いを増す。女性視点のマーケティングに詳しい女ゴコロマーケティング研究所所長の木田理恵さんは、「ターゲットを意識したメッセージで、女性のシェア欲求を刺激することがポイント」と話す。

SNSで共感欲高まる

── 購買行動において男女を比較すると、どういった違いがありますか。

木田理恵氏 木田理恵氏

 男性は多くの場合、商品の性能などスペックを調べて価値を見いだし、客観的に判断します。一方で女性は、その商品を使う自分の幸せなイメージが浮かぶかどうかなど主観的に見て購入します。今、家庭での購買決定権は、その7割程度を女性が握っている感があります。昔は食材など日常的な消費のみでしたが、最近はクルマや住宅など大きな買い物も、裏で女性の一言が決定打になっていることもあります。今まで夫に何でも聞いていた女性も、インターネットで企業の評判など簡単に情報を得られるようになり、購買決定の際に大きな影響力を持つようになりました。

── SNSが活性化する中、女性のコミュニケーションのあり方はどう変化しましたか。

 現代の女性は多忙です。本当は人と会って話がしたくても、なかなか余裕がありません。もともと女性は、自分の感情や有益な情報を人と共有したい性質があり、物のスペックではなく雰囲気やイメージを重視します。よって、画像を簡単にシェアできるInstagramなどは好きなものをイメージで共有できる格好のツールです。SNSが盛んになり、女性のシェア欲はますます高まっています。家事に育児に仕事にと忙しい女性でも、都合のよい時間帯にレスポンスできますし、便利だと思います。

── 女性が情報をシェアしたいという心理はどこから働くのでしょうか。

 自分がいいと思った物は、周りの人も好きになるはずという主観的な一面と共感思考であるという一面からです。例えば、私が何か買ったとします。ニコニコしながら「見て!これいいでしょう!」と言うと大多数の女性は、ほめ言葉で返します。「共感してほしいんだな」「ほめてほしいんだな」と相手の気持ちを察しての行動です。共感され、褒められた本人はうれしいからまた人に話す。このような感覚が女性特有の「クチコミ」の原点にもなっていると思います。

── 人気ブロガーなどカリスマ的な人の情報発信が、女性、ひいては家庭や男性の消費にも影響しているようです。

 モノも情報も過剰気味な今、選択肢が多すぎて、自分で有益な情報を選ぶのに労力がかかります。自分に合ったぴったりの物を見つけるのが難しい。また、これだけ選択肢があると、「失敗したくない」というプレッシャーも大きいはずです。そうすると、ライフスタイルや価値観などで信頼のおける人の選択を信じた方が確実で効率がよいのです。特にSNSでは、自分と価値観の似た人とつながっているので、個人の間でもこうした現象は顕著に見られると思います。

ターゲットを絞った訴求がカギ

── マスメディア広告において、女性をターゲットにした場合、どういった工夫が必要でしょうか。

 例えば同じ30代でも独身、専業主婦、ワーキングマザー、DINKSなどライフコースや価値観が多様化しています。消費の原動力となる、「不満」「不便」「不快」といった「不」の感情も当然異なります。こうなると、従来のマス広告のように、浅く広く打ち出しても届きにくくなっています。同じ商品でも、「誰の」「どんな共感を得たいのか」を明確にし、深く、強く伝えないと伝わりません。マスといえどもターゲットを意識して、深く刺さるようなメッセージを伝えることが大切です。それぞれがリアルやSNSなどでコミュニティを持っているので、自分に刺さった情報を周りに伝えてくれるメリットもあります。まずはしっかりと、伝えたい相手をイメージし、深く、強く訴求することが重要です。

── 女性のコミュニケーション力を生かしたマーケティング活動で、注目している事例を教えてください。

「昆布大使」は女性のコミュニケーション力を有効に活用している 「昆布大使」は女性のコミュニケーション力を有効に活用している
※画像は日本昆布協会「昆布大使がゆく!」へリンクします。

 日本昆布協会が運営する、「こんぶネット」というHPがあります。昆布の良さを主に女性会員の声で伝えようとする取り組みです。会員には、昆布検定に合格した「よろこんぶサポーター」、さらにコアなサポーターの「昆布大使」がいます。従来、こうした場合には、企業自らが商品の良さを語っていました。昆布大使は、日ごろの活動で名刺を与えられており、報酬目当てではなく、使命感を持って自主的に活動しています。もちろん、こうした活動により、見る側に「この取り組みを応援したい」という気持ちが湧いているのです。

 情報発信側も、女性の「好きなモノをシェアしたい」という欲求を刺激することで、情報が広まっていくストーリーを描くことが大事です。また「売ったら終わり」ではなく、同協会のように長期的に関係を構築することで、女性のコミュニケーション力をさらに生かせるのではないでしょうか。

木田理恵(きだ・りえ)

女ゴコロマーケティング研究所所長

1969年生まれ。商業コンサルティング、SPプランニング会社を経て、2013年4月に株式会社レスコフォーメイション内に、女ゴコロマーケティング研究所を設立。女性ならではの視点を生かし、数々の女性向け商品・サービス、店舗の企画、マーケティングを手がける。企画・講師を務める「女性マーケター養成講座」では、女性の企画力やプレゼンテーション力を高め、企業の業績に貢献する人材の育成を行い、受講生は600人を超える。著書に、『~男がわからなかった女が商品を選ぶ本当の理由~彼女があのテレビを買ったワケ』(エクスナレッジ)がある。