リカちゃんにおばあちゃん! 調査やモニタリングを重ねて時代を先取り

 1967年に登場したタカラトミーの着せ替え人形「リカちゃん」。初代「リカちゃん」の発売から46年、今では祖母から孫まで3世代で「リカちゃん」の楽しさを共有できるロングセラー商品だ。2012年4月には、リカちゃんのおばあちゃんと、おばあちゃんの家も登場した。タカラトミーのドール・ガールズ事業部リカちゃんグループマーケティングチーム エキスパートの上田喜美代氏に、3世代化するリカちゃんの市場における新商品開発の背景などについて聞いた。

初期のリカちゃん世代が祖母に 孫と遊ぶために「おばあちゃん」も登場

――2012年4月に「リカちゃん」のおばあちゃん「だいすきなおばあちゃん」と、おばあちゃんの家「リカちゃんハウス グランドドリーム」が発売されました。

上田喜美代氏 上田喜美代氏

 「リカちゃん」は、常に時代や流行を反映しながら、少女たちの憧れや夢の暮らしを形にした商品を販売しています。1969年に登場したリカちゃんのママ、織江の職業はファッションデザイナーで、専業主婦が主流だった時代の先端を行くビジネスウーマンという設定でした。パパのピエールが登場したのは、89年で週休二日制が導入されてからのこと。モーレツに働く日本の父親像から「マイホームパパ」へと変化していった時代です。そして、昨年新たに登場したおばあちゃんは、現代の「おばあちゃん像」を象徴するように若々しく活動的で、職業は「ロイヤルローズ」という花屋&カフェのオーナー。リカちゃんの家よりも大きい一戸建て「リカちゃんハウス グランドドリーム」に住んでいて、孫のリカちゃんがいつも遊びに行く身近な存在という設定です。

――「リカちゃんのおばあちゃん」を発売した背景は?

 共働き夫婦の増加により、育児を祖父母に協力してもらう世帯が増えつつあり、「祖母と孫が一緒にリカちゃんで遊ぶ機会があるので、おばあちゃん役の人形を作ってほしい」というお客様の声がありました。実際、玩具売り場の店頭に立っていると、祖母、娘、孫の3人という組み合わせのお客様や、祖母と孫の2人で買いに来られている方も見かけます。親子連れだと思って声をかけたら、お孫さんだったということもあるくらい、今どきの祖母世代は若々しい方が多いんです。初代リカちゃんの発売から46年が経過し、母親だけでなく祖母も、子どもの頃にリカちゃんで遊んでいた世代。売り場で見聞きしたり、モニター調査の結果などからも、祖母世代は孫とリカちゃんで「ごっこ遊び」をすることに抵抗が少なく、むしろ積極的に遊んでくれていることもわかりました。

 祖母世代により親しみを持ってもらえるように、祖母の名前は、初代「リカちゃん」が発売された1967年当時、女児の名前で多かった「洋子」と名付けました。年齢も、1967年当時のメーンユーザー年齢であり、リカちゃんと同じ11歳だったと想定して、昨年の発売当時は56歳に設定しました。

――商品化までの道のりは。

 発売の約3年前から商品開発をスタートさせました。名前や年齢、職業など、祖母の設定やストーリーを決めると同時に、人形本体の顔の形や、しわの有無、瞳の色、髪形など「おばあちゃんらしさ」をどうにじませるか、何十体も試作し、専門家の方やモニターの方々にご意見をうかがいながら決めていきました。

 また、現代の子どもたちと祖母との関わりについて探るアンケートも実施しました(調査対象:日本全国の3歳から12歳の子どもを持つ母親6,587人、3歳から12歳の孫がいる祖母259人)。育児を祖父母に協力してもらっている方は全体の74.6%。具体的には「保育園や習い事などの送り迎え」や「ご飯の支度」などがありました。祖母世代で「働いている」、もしくは「働いていないがボランティア活動をしている」人は44.1%、65歳未満の年齢に絞ると56.5%。心掛けていることは「健康」「美容」「食生活」。現代の祖母世代はとても活動的で子どもにとっても身近でつながりの深い存在となっていることがわかります。

店頭での情報収集やモニター調査などからニーズをつかむ

上田喜美代氏

――モニターはどのように選ばれているのでしょうか。

 弊社独自のリクルーティングリストから抽出、直接連絡をしてご協力をお願いしています。月1回、15組ほどの方々に弊社に来ていただく場合もあれば、家庭訪問をすることもあります。モニタリングは商品開発の上で必須事項の一つ。社内でも「子どもから目を離してはいけない」という伝統のようなものがあり、子どもの意見を吸い上げたり、親への聞き取り調査を実施するなど、地道なマーケティングを行っています。

 また、2012年3月に、特定非営利法人東京学芸大こども未来研究所との共同研究プロジェクト「リカちゃん ごっこ遊びラボ」を発足し、「リカちゃん人形によるごっこ遊び」が、子どもの発達にどう影響するか、その効果の調査・研究を行っています。その結果、「ごっこ遊び」の経験を持つ子どもは、「自我・他我認識」「協調性」や「社会性」の会得に寄与することがわかりました。(※)

――現在の玩具市場の動向は。

 2011年度の調査では、玩具の市場規模は店頭価格ベースで6,921億円、前年比103.4%と2年連続で前年実績を上回っています(日本玩具協会HPより)。おかげさまでリカちゃんの売り上げについては、ここ近年大変好調です。

玩具の売り上げには季節変動もあります。クリスマス商戦の他、夏休みの帰省シーズンは、久しぶりに会った孫に祖父母が玩具を買ってあげるケースが多いようです。近年、日本百貨店協会が提唱している「孫の日」(10月の第三日曜日)は、運動会シーズンとも重なるため「運動会でがんばったご褒美」として孫にプレゼントするというケースもあるようです。

――今後のプロモーション展開や商品開発について。

 ウェブでの商品の購入比率が上がってきています。親世代はもちろん、祖父母世代もウェブを利用する方は、今後ますます増えてくると予測していますので、ウェブを使ったプロモーション展開も検討する必要があると考えています。もう一つ、重要な販促手段である店頭プロモーションでは陳列が課題になります。人形やドレスだけでもそれぞれ30種類以上、それにファミリーや友達、家やショップと商品展開も幅広く、全てを陳列できない店については、季節や商品の入れ替え時期を踏まえてセレクトしています。箱に入っている状態ではわかりにくいハウスやショップは、ショーケースで展示をし、初めてリカちゃんを買う人からリピーターの方まで、いろいろな方が楽しめるように気を配っています。

 3世代を魅了するリカちゃん市場についても、孫と祖母との結びつきが強く、一緒に活動する時間が増えているということで、今後も売り上げが期待できると考えています。これまで蓄積してきた「リカちゃん」における知見を資産と捉え、新商品や新しい遊び方を含め、時代をリードする形で提案をしていきたいと考えています。

(※)「ごっこ遊び」が子どもの育ち・自我の発達へ与える影響に関する共同開発プロジェクト「リカちゃん ごっこ遊びラボ」

調査手法:参与観察調査・インタビュー調査・配布による自記入式アンケート
調査対象:2~7歳女児とその母親(定性調査)
東京・兵庫・福岡在住の小学5年生と中学2年生女子(定量調査)
調査期間:2012年3月~2013年3月

◆タカラトミー ウェブサイト http://www.takaratomy.co.jp/