新聞広告のスケール感とデジタルデバイスの広がりで、生活者に振り向かせるメッセージを発信する

 博報堂DYメディアパートナーズは、4月に組織を改編し、「統合コミュニケーションデザインセンター」を設立した。これまでの組織を進化させ、クライアント、媒体社にとって急務な新しいビジネス構築に対応するのが目的だ。同社統合コミュニケーションデザインセンター センター長の内田哲也氏とクリエイティブディレクターの島崎昭光氏にこれからのコミュニケーションの方向性について聞いた。

クライアントが求めているのは 「右脳的アイデア」と「左脳的分析」

内田哲也氏 内田哲也氏

――「統合コミュニケーションデザインセンター」が創設された経緯、目指す方向性についてお聞かせください。

 博報堂DYメディアパートナーズは2003年の発足以来、メディア枠の迅速で的確な買い付けはもちろん、情報に目線を置いたコミュニケーションをクライアントに提供すること、つまり「メディア効果をデザインする」ことを企業理念としてきました。今回の組織改編は、技術革新によってメディア環境のデジタル化が急速に進む中、媒体社やコンテンツホルダーと協働しながら、さらに高度な統合コミュニケーションを企画、提供するためです。統合コミュニケーションデザインセンターは、クリエイティブ、プラニング、マーケティング、プロモーションの4部を集約。統合コミュニケーションを進める上で連携すべき4部門がひとつのセンター内にそろったことで、クライアントにワンストップでソリューションを提供できる体制が整ったのです。

 さらに、例えば「これまでにない新しいコミュニケーションプランニングを」と理想を語ることはできても、現在のビジネス環境でできることとできないことがあるのが現実です。その点において、当社のクリエーティブ部門は「メディアに精通した制作部隊」なので、クライアントのニーズに応じて、テレビCMにしたり、テレビ番組にしたり、新聞の純広にしたり、雑誌のタイアップにしたり、あるいは媒体社と協力してイベントにしたり……と、本当の意味で実現可能な手口とそれをプロデュースできる人材がそろっています。そういう意味では、「理想的な連携体制」と「現実的な実働力」を兼ね備えた組織になったと言えます。

――クライアントからの要望の変化、最近の潮流などはありますか。

 「トータルの予算と伝えたいことは決めた上で、その予算を最大に生かすためのコミュニケーションプランを一緒に考えたい」という依頼が増えてきています 。さらにその際、「コンテンツを軸にキャンペーンを作ってほしい」といった要望がよく聞かれるようになりました。ここで言うコンテンツとは、「広告自体を話題化するアイデア」を指します。

 一つの事例として、現組織になる前から私たちが手掛けている、通信講座「ユーキャン」のコミュニケーションが挙げられます。「タレントの木下優樹菜さんが実際に資格試験にチャレンジする」というのがコンテンツアイデアで、そのコンテンツを軸に、マス広告からウェブコンテンツまでを総合的に展開するコミュニケーションを設計しています。ストレートに商品やサービスを宣伝するのではなく、商品を題材にしたエンタテインメントで生活者を引き付けながら、最終的に商品やサービスの価値を理解・体感してもらうのがゴールです。

 そうした「おもしろそう」と感じられるようなコンテンツを重視しつつ、一方では、広告投資、マーケティング投下への「説明力」を求めるクライアントが増えています。費用対効果などを検証してPDCAサイクルを回していくといった、ロジカルなメディア評価が求められているのです。

 統合コミュニケーションデザインセンターでは、クライアントに提供するソリューションには「右脳的アイデア」と「左脳的分析」が重要と考えています。感覚的に「おもしろい」と思われるようなコンテンツをクリエイティブ部が考えながら、数値的な部分をプラニング部が検証し、クリエーティブと企画の合理性をセットで提案する。それができるのが強みであり、よりクライアントのニーズに合った最適なソリューションにつながるものと自負しています。

新聞ならではのスケール感をどう生かすか 大事なのは見ている人を引き付け、動かす「ストーリー」

島崎昭光氏 島崎昭光氏

――現在の新聞広告の力をどのように評価されますか。また、活用の可能性は。

 相対的に部数が減っているとか、ウェブよりも効果が見えにくいとか、新聞は比較論で語られることが多いのですが、依然として圧倒的な部数を持っていますし、クリエーティブのインパクトには見るものを強く引き付ける力があります。そうした新聞だからこそのメディアの価値やポテンシャルは矮小(わいしょう)化せずに、スケール感は前面に出していったほうがいい。問題は、手に取ってもらうまでのプロセスです。そこで重要なのが、まさにコンテンツであり、それをどのように生活者に接触させるかといったコミュニケーションのストーリー作りだと思います。

 新聞社からも新しい手法や試みが次々と打ち出されており、それをいかにしてビジネス的な「価値」にしていくかはわれわれの課題でもあります。広告局はもちろん、編集紙面でどんな特集をするのかといった情報交換をすることで、新たな新聞広告の可能性は探れると見ています。また、クライアントは新聞広告を単発で終わらせるのではなく、そのコンテンツを他のメディア、デバイスなどでも展開したいと考えています。統合コミュニケーションが求められている時代において、コンテンツの2次利用、3次利用は必須で、それができるようになった瞬間に、新聞広告の価値は新聞広告単体の2倍、3倍と感じるクライアントは少なくないはず。私たちもそうした企画を設計する中で新聞広告を検討していきたいですし、そのための数々のハードルを新聞社と一緒にクリアしていければ、と思っています。

――改めて、新時代のコミュニケーションプランニングに求められることを聞かせてください。

 これまで、広告枠や到達率を確保すれば、生活者とのコミュニケーションはある程度担保されてきました。ところが、ネット環境が進化し、デバイスが多様化した昨今、今まで以上にクリエーティブ自体が魅力的でなければ見る者を振り向かせることが難しくなっています。しかし、振り向かせることさえできれば、SNSなどで一気に波及し、新聞広告やテレビCMといった単体の表現の何倍もの効果を上げることも可能にもなってもいます。そうした時代状況において、生活者の情報行動の中で、どのタイミングでどんなメッセージを発信し、どのように引き付けていくのかといった「ストーリー」までをも統合していく。さらにクライアントが納得できる数値的な裏付けを鑑みながら、コミュニケーションをプランニングする必要もある――。私たちはそのように考えています。

内田哲也(うちだ・てつや)

博報堂DYメディアパートナーズ 統合コミュニケーションデザインセンター センター長

84年博報堂入社。マーケティング職、営業職、研究開発職などを経て、同年12月、博報堂DYメディアパートナーズ設立に伴い、i-メディア局ソリューション部部長に就任。2012年4月、統合コミュニケーションデザインセンター長に就き、現在に至る。2012「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル」メディアライオン審査委員

島崎昭光(しまざき・あきみつ)

博報堂DYメディアパートナーズ クリエイティブディレクター/メディアコンテンツプロデューサー

大手通信会社を経て、2006年博報堂DYメディアパートナーズ入社。i-メディア局にて、クリエイティブとコンテンツプロデュースの両輪でクライアント課題を解決する独自のクリエイティブワークを実践。メディアコンテンツソリューション局、統合コミュニケーション推進プロデュースチームなどを経て、2012年4月、統合コミュニケーションデザインセンター。少数精鋭のディレクター/プロデューサー集団、コンテンツ&クリエイティブユニット(concreat)を発足し、様々なクライアントへのソリューション提供を行っている。