次の時代のメーンストリームを映し出したアウトドア

 アウトドア部門は、カンヌライオンズで唯一、リアルな場での消費者参加型の作品を審査の対象とする。審査員を務めたドリル取締役でエグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターの細川直哉氏に、審査を通して議論されたこと、そこから見えてきたこれからの広告の方向性や可能性などについて聞いた。

消費者参加、拡散、そしてシェア。 ソーシャルの広まりが前提の作品が元気

――アウトドア部門の応募作品は、今回、どのような傾向がありましたか。

細川直哉氏 細川直哉氏

 今年の応募は4,490作品でした。昨年が3,800くらいだったので、世界的にアウトドアの仕事が増え、さらにカンヌ全体での応募が28,000ほどだったのを考慮すると、アウトドアにいい作品が集中したんだなと、肌で感じました。

 アウトドア部門は、「ビルボード広告、ポスター」と、「アンビエント」の二つのジャンルで作品を審査します。アンビエントとは、既存の広告手法とは違い、生活環境に入りこんだ消費者参加型のコミュニケーション。たとえば道路や壁面などの街角をメディアに見立てたり、ゲリラ的にイベントを開いたりするなど、そのアイデアや形態は様々です。まったく性質が違うジャンルのため、昨年はそれぞれでグランプリを選んでいましたが、今年はアンビエントのほうが明らかに素晴らしい作品が多く、グランプリは審査員の満場一致でアンビエントからのみ選びました。

――なぜそのような結果に至ったのでしょうか。

 ソーシャルメディアの台頭が、その理由です。企業がメッセージを発信するとき、かつてはマスメディアを使って大量にまき散らさないと消費者にリーチしませんでした。しかし今は、どこかでおもしろいアンビエントの広告活動やキャンペーンをすれば、それを見た消費者の誰かがフェイスブックやツイッターで拡散し、どんどん広まっていく。消費者自身がメディアになったことで、膨大な広告予算をかけることなく、今まで以上の効果を出している事例が増えていることが、アウトドア部門の応募作品に如実に表れていました。

――審査ではどのような議論がされましたか。

 消費者が力を持つようになる中で、従来の広告ビジネスは崩れつつあります。かつて消費者は「ターゲット」と呼ばれ、広告会社のクリエーターは「このターゲットをねらうにはどんな広告を打てばいいか」を考えていました。しかし、SNSによって拡散してくれる消費者は、もはや「パートナー」です。いかに参加してもらい、気持ちよく拡散してもらうかを考える必要が出てきたのです。

 審査員の中でよく口にされたのが「Future of ads(広告の未来)」という言葉でした。ただモノを売ればいい、ブランド価値を上げればいいといった、本来の目的や存在意義の中だけで勝負するような広告は、もはや「死に体」になっていると言っても過言ではありません。社会にとって素晴らしいことを提供しようとか、人々に誇りを与えようとか、もっと大きなところを見ている広告こそが消費者から支持され、結果、次の時代のメーンストリームになるはずだろう、と。議論を進める中で審査員の間ではそうした意識が高まり、共有化されました。そして、その視点ですべての作品の審査は進められたのです。

どれだけ人を動かすのか、が問われる時代に
広告は広告でなくなるのかもしれない

――受賞作品の中で印象に残っているものは。

 まず、グランプリに選ばれた、アメリカの「DECODE JAY-Z WITH BING」ですね。マイクロソフトの検索エンジン「BING」と、アメリカの人気ラッパーのJAY-Zの自伝のコラボレーションキャンペーンで、自伝320ページがバラバラに分解され、屋外広告、壁面、プールの底、車のボディ、洋服などが様々な場所に掲示され、ファンがそれらのページの場所を探し、解読していく、というキャンペーンです。この作品はチタニウムでもグランプリを受賞しており、インテグレーテッドキャンペーンをアウトドア中心に作れることを実証した、という点で非常に興味深かったですね。さらに、世界的デジタルの巨人であるマイクロソフトが、リアルなメディアであるアウトドアを選択し、SNSと組み合わせることで大成功を収めている。これは、アウトドア広告の未来や可能性をすごく示している、という点で、満場一致でグランプリでした。

 ちなみに、僕は6年ほど前に、ウェブ上のQ&Aコミュニティー「教えて!goo」のキャンペーンを手掛け、そのとき使ったのが、文字だけのポスターで町中をジャックするというもので、実はまったく同じ手法でした。当時もかなり話題になったのですが、今のほうが圧倒的に効果が高い。なぜなら、僕らがやったときはまだSNSが出てくる前だったので、拡散がなかったのです。「DECODE JAY-Z WITH BING」はまさに今だったから成功を収めた。おそらく来年では遅かったでしょう。広告は時代を映しますが、もっとも適した時期に適した形で仕掛けたと言えます。

「DECODE JAY-Z WITH BING」

「DECODE JAY-Z WITH BING」

 それと、やはり金賞の「祝!九州縦断ウエーブ」です。九州新幹線全線開業のキャンペーンで、2万人もの人たちが、横断幕を作ったり、コスプレをしたりして、250キロもの距離をウェーブで飾りました。その楽しそうな映像が、震災後に落ち込んだ日本人を勇気づけ、ひとつにしたというバックグラウンドを説明したところ、多くの審査員が「すばらしい」と称賛してくれました。もちろん、消費者参加、SNSによる拡散とシェアという点で優れていたのですが、広告で国民を元気にしたというその影響力が、高い評価に値したのだと思っています。

JR九州「THE 250km WAVE(祝! 九州縦断ウエーブ)」

「祝!九州」
「祝!九州」
「祝!九州」
「祝!九州」

――審査員を経験して見えてきたことはありますか。

 広告は「広く告げる」と書きますが、広く告げているだけで人や商品が動く時代はもはや終わりを迎えようとしています。となると、未来の広告は、これまでの広告という概念では語れないものになるかもしれません。実際、アウトドア部門で金賞以上を受賞した作品は、おそらく消費者にとっては「広告」というとらえ方はされていないのだろうと思います。たとえば九州新幹線のキャンペーンにしても、ほとんどが動画サイトで見られており、消費者は「コンテンツ」として体験しているのでは、と。「どれだけ人を動かせるか」という目的ならば、広告である必要はなく、むしろコミュニケーションやコンテンツのような存在になるのかもしれません。そういう意味では、今年のアウトドアは広告が明らかに変わり始めていることを示せたし、僕ら審査員は次の時代の可能性をメッセージとして発信することができた。強い手ごたえと誇りを感じています。

――改めて、カンヌライオンズの意義や魅力について聞かせてください。

 僕はこれまで、カンヌは「勉強の場」であると思っていました。こんなやり方があるんだ、こういうプレゼンテーションをすればいいんだ、と、どちらかというと受け身的に感じていたんです。しかし、今回アウトドア部門の審査員として、まさに時代を映すような多くのチャレンジングな作品を評価したことで、広告の次の時代を作っていける場なんだと気付かされた。一クリエーターとして、本当に勇気づけられました。僕らは広告コミュニケーションを通じて社会にすら影響を与えることができるんです。審査員として集まり、熱い議論を交わした世界のトップクリエーターたちも、きっと同じことを感じているはずです。

細川直哉(ほそかわ・なおや)

ドリル 取締役 エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター

電通にて、アウトドアメディアを中心に「消費者参加型」キャンペーンを企画・実施するdentsu ooh tankを立ち上げる。2011年にドリル、エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクターに就任。 goo、ユニクロヒートテック、トヨタiQ、資生堂THE GINZAオープン、プレイステーションなど、消費者の「体験」を創造/拡散する手法で多くのキャンペーンを成功させている。クリオ、アドフェスト、Spikes Asiaでのグランプリをはじめ、100以上の国内外の広告賞を受賞。日本におけるアウトドア広告の第一人者として、2011年カンヌ アウトドア審査員、2010年アドフェスト アウトドア審査員を歴任。TCC会員。1970年生まれ。 一級建築士でもあり、自ら建築デザイン、空間プロデュースを手掛けている。