マルチデバイスへの対応が電子新聞の広告の可能性を広げる

インターネット広告ビジネスも技術革新とともに進化し続けてきた。これまでのインターネット広告の流れや最近のトレンドを含め、新聞のデジタル化と広告ビジネスの可能性について、サイバー・コミュニケーションズ メディア本部 本部長の今野貴博氏に聞いた。

広告在庫がリアルタイムで売買される注目のアドエクスチェンジ

――インターネット広告はこれまでどう進化してきましたか。

サイバー・コミュニケーションズ今野貴博氏 今野貴博氏

 1990年代後半にバナーなどのディスプレー型の広告が登場しました。続いて、2000年ごろから検索連動型のリスティング広告が台頭してきました。ユーザーが自ら入力した検索結果と連動して広告を提示できるので、リーチを稼ぐバナー広告に比べ、より関心や購買意欲の高いユーザーに効率よく広告を露出することができるようになりました。

 そうした動きに対し、2006年あたりから出てきたのが行動ターゲティング型広告です。ユーザーがウェブ上で使った検索ワードや訪れたサイトの履歴などを元に、広告主がターゲットに最適な広告を配信するものです。このターゲティングの技術の進化によって、ディスプレー広告も届けたいユーザーにある程度セグメントして配信でき、より効率的に広告が露出されるようになりました。

――最近の潮流は。

 米国ですでに大きなムーブメントになっているアドエクスチェンジという広告取引の新しいマーケットが、日本でも形成されつつあります。アドエクスチェンジとは、複数のインターネット媒体の広告在庫を集約したうえでオープン化し、オンライン上でそれらの広告枠を売買できるプラットホームです。さらに、「リアルタイムビィディング」という広告配信技術により、広告主はリアルタイムでそのときどきに必要な広告量を1インプレッションずつ購入することができます。

 アドエクスチェンジは、オーディエンスターゲティングを活用している点でも注目されます。オーディエンス(=視聴者)のウェブ上での行動履歴はもちろん、どんなことに興味を持ち、過去にオンラインでどんなものを購買したかといった、より詳細なオーディエンスデータを用い、それと広告をマッチングすることで、よりターゲティングの精度を上げることが可能になります。その結果、広告主はより届けたいユーザーにリアルタイムかつピンポイントで広告を届けることができる。また、高い広告効果が期待できる分、媒体側は広告の単価を上げることができる。需要側と供給側、双方にメリットをもたらすことが期待できるのです。

――日本国内でもアドエクスチェンジの動きはあるようです。

 グーグル、ヤフーなどはすでにサービスをスタートしています。当社でも米国の会社と提携し、アドエクスチェンジサービスの提供を、6月から開始しました。アドネットワーク事業者が持っている媒体の広告枠在庫の共有化を進め、今年度末には月間100億インプレッションの在庫を確保する予定です。また、媒体が保有するオーディエンスデータの収集を進めています。現在、集めたオーディエンスデータと広告をどのようにひもづけていくかについてさらなる分析を進めており、それが整備される今年末から来年頭にかけて、当社のサービスも本格的に動き出す見込みです。

――ターゲティングの精度が増すことで、広告の効果を測定する指標も変わりますか。

 CPA(*1)やCPC(*2)といった効果指標は、特にダイレクト系の広告主については引き続き求められていくと思いますが、広告の露出が購買に結びついたかどうかだけを指標とするのでは、広告枠価格の下落が止まらないというのが現状です。ディスプレー広告が本来もつほかの価値を整理し、正当に評価していく必要があるでしょう。そのひとつがアトリビューション分析です。購買した最後のクリックという直接的な効果だけでなく、その広告に接した人が後になって購買につながった、というような間接効果が、改めて重要な指標になっていくのでは、と考えています。

(*1)コスト・パー・アクイジションの略。1人のユーザー会員登録や購買を成立させるために要した広告コストで、顧客獲得単価のこと。
(*2)コスト・パー・クリックの略。1クリックを獲得するために投じた広告コスト。

デジタル化、マルチデバイスで広がる新聞の広告ビジネス

――朝日新聞デジタルが創刊され、電子新聞の広告ビジネスも期待されています。

 あくまでも私見ですが、デジタル版の購読者の属性に加え、ユーザーが自分のほしい情報を選んで読むという行動履歴を分析することで、趣味や好み、興味、関心を明確に把握することができれば、それに合わせた形での広告商品の可能性はあると思います。広告をよりターゲティングされたユーザーに露出できるとなれば、広告主にとっては高い広告効果が望めますし、媒体社としては広告単価のアップが期待できます。

 スマートフォンやタブレット端末に対応することで、新しい広告表現の可能性も出てくると思います。そして、利用できるデバイスが複数あるということは、読者が色々なシーンで朝日新聞デジタルに接触することになるので、シーンごとに広告を出し分けるといったことが可能でしょう。

――成功のポイントは。

 やはり、まずは購読者数を増やしていくことだと思います。デジタル版になって精度の高いターゲティングが可能になると、広告効果も広告単価も上がるというメリットがあります。一方で、異なる属性のターゲットを含む母数となる購読者全体を増やさないと、結局は広告収入のグロスは減ってしまうことになります。いかに新規の購読者を獲得するかは大きな課題でしょう。

 マルチデバイス対応を十分に活用することも重要です。「紙の新聞は読まないけれど、PCやタブレットなら読んでもいい」という層は、若い人を中心に確実に存在していると思います。こうした層をいかに取り込むか。方法論としては、ソーシャルメディアの活用もあるのではないでしょうか。たとえば、「朝日新聞デジタル」のフェイスブックページを開設し、ファンの数を増やしていくことは有効な手段と思います。企業のフェイスブックページも増えてきていますが、ファンになった人が定期的に訪問しているかというと、そういうページは実は少ない。ひんぱんにファンに来てもらうためには、いかに信頼性のある情報やコンテンツを発信できるかが勝負です。そういう点では、新聞社は信頼あるコンテンツを発信しているという強みがあります。「こういう情報がいつも入手できるなら、有料でも購読してみよう」と感じてもらえるかもしれません。

――有料課金は新聞社にとっても新しいビジネスの領域です。

 朝日新聞ならではの記事、エッジのきいたコンテンツなどを、あえて無料で公開し、多くのユーザーをそこに引き付けることで広告収入をねらう、というやり方も、選択肢のひとつだと思います。有料で提供すべきものと考えられるでしょうが、多くのユーザーを引きつけられ、より広告収入が得られるのであれば、無料コンテンツの広告モデル部分を残し、有料購読と組み合わせたビジネスも考えられるのではないでしょうか。

 有料の購読に見合う記事についても、精度の高いターゲティングを可能にする広告についても、すべてをひっくるめての「媒体力」が、改めて重要になってくると思います。一般紙の電子版の有料化については前例がほとんどなく、大きなチャレンジでしょう。広告ビジネスも含め、収益を上げていく答えを見つけることに、メディアレップとして協力していきたいと考えています。

今野 貴博(こんの・たかひろ)

サイバー・コミュニケーションズ メディア本部 本部長

株式会社USENにて法人営業を担当した後、2003年3月に株式会社サイバー・コミュニケーションズ入社、電通・電通グループを営業として担当。2006年からメディア部でポータルサイト、新聞社サイトなどを担当。メディア部部長、メディア本部副本部長を経て、2011年7月より現職。