「戦略PRデザイン」でニュース化をはかる

 2009年4月、マスメディアとネットメディアを連携させた戦略PRサポートプログラム「PR@NET」を発表し、PR視点のコミュニケーション設計を進めている電通。マーケティングサービス事業局戦略PRデザイン室PRプランニング1部プランニング・スーパーバイザーの富田英裕氏に取り組みを聞いた。


商品発表の前に準備期間を設け
社会の興味を喚起する土壌を作る

──昨今「戦略PR」という概念が注目されていますが、その背景をどのようにとらえていますか?

 もともとPRという概念の中に戦略はあってしかるべきですが、あえて「戦略」という言葉をつける現象には、いくつか理由があると思います。まず、ここ数年、食品表示偽装など企業の不祥事が相次ぎ、企業が直接訴えかける広告の情報だけで満足できなくなっているという、消費者の変化があります。また、経済不況を背景に、マスメディアへの露出量に比例して販売効果が拡大するとの単純なとらえ方は通用しなくなっています。確実に消費者の興味喚起や購買行動に結びつき、費用対効果が狙えるコミュニケーションを求める企業が増えているのです。

──御社の「戦略PR」に対する考え方について聞かせてください。

 当社は以前からインターネット時代の消費者行動モデル「AISAS」(Attention→Interest→Search→Action→Share)を提唱していますが、この前段階として、商品発売の前に十分な準備期間を設けて社会の興味を喚起する土壌を作ることが重要だと考えます。商品デビュー時に一気にマスメディアで山を作る手法に対し、「スロー・ビルディング」と言われる手法です。例えば映画業界では、ネット上のクチコミを日々分析しながら広告戦略の修正を行っています。自動車業界では、発売前に試験走行の映像をウェブ上でアップしたり、ブロガーを集めて実車披露を行ったりするなどして事前の商品理解と期待をネット上で最大化し、デビューを効果的に演出しています。近年は、ブログやSNSなど生活者が日常的に情報発信できるコミュニティーが無数にあり、ここでいかに「人に伝えたくなる」ニュースを創出するかが重要だと思っています。

──戦略モデルの具体的な内容とは。

 電通グループでは「戦略PRデザイン」という言葉を使い、PR視点の情報流通戦略モデルを確立しています。まず、流通力のあるニュースづくりのポイントとして、「PR IMPAKT」というフレームを用い、クライアントと一緒にアイデアを考えるうえでの物差しとしています。ポイントは、Inverse(逆説・対立構造)/Most(最上級・初・独自)/Public(社会性・地域性)/Actor&Actress(役者、人情)/Keyword(キーワード、数字)/Trend(時流、世相、季節性)。この6つのうち、ひとつでも強力なフックがあればニュースになる可能性は高く、逆に全くなければ、商品の周辺にある要素や、キャンペーンそのもののニュース化をはかります。

 さらに、ネット上のニュース化を促進するための要素として、「@NET」戦略があります。@ccessible(リンク先、アクセスの受け皿)、Narrow-focused(狭い話題性、ニッチ性)、Entertaining(娯楽性、ゲーム性)、Techno-topical(技術系文脈、ITトレンド)の4要素で、マスメディアでは取り上げられにくい話題に注目していきます。今年4月に発表した「PR@NET」は、この4要素にマスメディアを連携させたプログラムで、クライアントのさまざまなニーズに応えています。


新聞広告をもニュース素材とし
話題を絶やさないPRを推進

2007年 11/3 朝刊 岩波書店『広辞苑 第六版』 2007年 11/3 朝刊 岩波書店『広辞苑 第六版』

──新聞広告を活用した成功キャンペーンを教えてください。

 代表例としては、『広辞苑 第六版』発売にちなんだキャンペーンがあります。まず、予約開始日、発売の当日、贈答シーズンのタイミングに合わせて新聞広告を出稿。予約日から発売日までに約2カ月、発売日から贈答シーズンまでに約1カ月の間があったので、新聞広告をニュース素材にして各方面にリリースしたり、インパクトのある屋外広告を展開したりしました。すると、新聞記事やテレビ番組で取り上げられ、ブログや掲示板でも話題となりました。新聞広告で大きなアテンションを稼いだ後も途切れることなくニュース性が持続し、売り上げは当初の目標を大きく超えました。

 農林水産省が推進している食料自給率向上に向けた国民運動「FOOD ACTION NIPPON」も成功例のひとつです。社会的なテーマということで新聞広告に主軸を置き、活動趣旨を紹介。一方で、ブロガーなどを招いて米粉を使ったお菓子の試食会を実施。多くのブロガーによって写真つきの丁寧な報告メッセージが配信されました。硬軟の情報を立体的に波及させた事例です。

2008年 11/1 朝刊 農林水産省「FOOD ACTION NIPPON」 2008年 11/1 朝刊 農林水産省「FOOD ACTION NIPPON」

──コミュニケーション戦略において、「戦略PRデザイン」と既存のマス広告の連動は新たな潮流になりそうですか?

 広告とPRの連動はますます進んでいくと思います。それを一番敏感に感じているのは広告制作のクリエーターです。キャッチコピーひとつ考えるにしても、よりPR的な視点を取り入れ、社会の文脈にはまるキーワードを探し、ニュースになる広告づくりを目指すようになっています。PRとクリエーティブが合同で会議する機会も増えています。

──新聞広告には、今後どのような可能性があると考えますか?

 タイミングをみはからって情報発信の口火を切ったり、大衆の興味を一斉に喚起したりするという意味で、新聞の影響力は他に例を見ません。多くの情報が交錯するネットに対し、キャンペーンのペースメーカー的な使い方ができると思います。また、大きな紙面を手に取って見るリアル感、情報のメジャー感、公式性、信頼性を最大限に生かすことができれば、ネット上で多量のバズ(掲示板やブログへの書き込み)が生まれ、よりセンセーショナルな効果をもたらすことができると思います。

「FOOD ACTION NIPPON」では、ブロガーなどを招いて
米粉を使ったお菓子の試食会を開催
『広辞苑 第六版』発売にあわせたキャンペーンでは
新聞広告のほか、屋外広告も話題に