学生と社会をつなげる自立支援がキャリア支援のスタート

 “やりがい”や“自分らしさ”に縛られて、膨大な情報に翻弄(ほんろう)される学生。採用段階から、自立心や個性を求める企業。社会のIT化が進んだといわれながら、企業と学生のミスマッチが問題化している昨今、両者の橋渡し役である大学の役割が重みを増している。立教大学キャリアセンターの加藤敏子事務部長と西崎大氏にお話をうかがった。

就職の「常識」に縛られる学生

加藤敏子氏 加藤敏子氏

── 就職動向をどのようにご覧になっていますか。

 私は現状を、「第二バブル」ととらえています。今は景気動向と企業の求人数がリンクしていません。その最大の原因は、少子化と団塊世代の大量退職による、労働力人口の減少です。大量採用が始まったのは2005年度あたりからですが、産業界が明るい将来像を描き、それに向かって採用しているという印象はありません。数年で辞めてしまう数も考慮して、とりあえず若い人材を確保しておこうということだと思います。(加藤氏)

── 立教大学では1年生向けにキャリア教育科目があるなど、進路・就職に対する意識付けを早い段階からされています。

 豊かさの中で育った学生たちの、自立の遅れや均質化は深刻です。私たちが寄り添って、一人で動く喜びを知ってもらうことからはじめなくてはいけません。

 企業側も、「育成はうちでやるから、色をつけないでほしい」と言っていた昔とは様変わりし、今は「学生を自立させてから送り出してくれ」と大学に要望してきます。グローバル化の中で企業が求めているのは、課題を自ら発見して、解決していくコミュニケーション能力です。キャリア支援の前に、学生を社会とつなげる、自立支援が重要になっています。(加藤氏)

── 具体的な就職活動の中で、企業側の新しい動きは。

 3年生の夏休みを利用した、ワンデーインターンシップを行う企業が増えました。これは学生に実務を知ってもらうというよりも、多くの学生に早くから企業を直接アピールする、広報的な色合いが強いものです。就職サイトの情報開示は10月からですが、よい学生はその前からコンタクトしておこうということでしょう。(加藤氏)

西崎 大氏 西崎 大氏

── キャリアセンターとしてはどのような支援をしていますか。

 企業を招いての業界研究セミナーなど、色々な取り組みがありますが、重要なのは個別のキャリア・カウンセリングです。悩んでいる学生は、「自己PRと志望動機は結びつかなければ、発言してはいけない」など、彼らが就職活動の常識と思いこんでいることに縛られ過ぎています。その点をいかに解きほぐして、ありのままの自分でいいのだよということを理解してもらうのが最大の仕事です。(西崎氏)

情報の「行間」を読む力の再生を

── ネットの登場によって、飛躍的に増えた就職情報を、学生たちは使いこなせていますか。

 昔の学生は、企業はいいことばかりを言うものであるのは承知の上で、「本当のところを見抜いてやるぞ」という姿勢がありました。今は情報収集は得意でも、文章の行間を読むような能力は弱まっていると感じます。大学教育の中で、環境経営やCSRなどの新しい視点から学生の関心を掘り起こしても、その関心と企業の選択がつながらず、結局は人気企業ランキングに頼ってしまう。企業サイトの先輩インタビューを、当人の本音だと素直に思ってしまう。ある企業の採用担当者は、「今時、OB訪問を10社やった学生なら、その行動力だけで内定」と半分冗談で言いました。(加藤氏)

── 企業の情報提供のあり方に求めることはありますか。

 ネガティブな情報も含め、積極的に情報開示をしてほしいと思います。昔は「まず志望業種を絞りましょう。業界研究や面接対策で応用が利きます」と学生に言えました。しかし企業が多角化し、思わぬ企業がその学生にマッチしているといった現象が生まれ、個々の企業情報の重要性が増しています。かつて求人情報は、大学の求人票の書式に則(のっと)ったものでしたが、今は企業が学生に直接伝える情報が膨大で我々はチェックしきれきません。(加藤氏)

学生サポート窓口 様々な就職に関する相談を受けている 学生サポート窓口 様々な就職に関する相談を受けている

── 就職活動における新聞の役割を、どうお考えですか。

 ネットは、情報の9割を捨てる能力がなければ、有益な情報を得ることができません。その能力を養うには、多様な経験と、多様なメディアに接することです。「天声人語を読んで、読む力や書く力をつけろ」と言われた時代がありました。精選された文章や情報に接し、行間にある意味を自ら考えることは新聞の効用であり、今こそ大切だと思います。

 また企業側から見た場合では、企業の実態や信頼性を社会全体に示したい場合に、新聞の役割は大きいと思います。

 かつて脚光を浴び、その後過労死が社会問題化した情報産業業界のような就労環境は、現在かなり是正されたところもあります。しかし一度ついた玉石混交のマイナスイメージを払拭(ふっしょく)しきれていません。その理由のひとつは、「どんな仕事をしているか」という社会認知がないまま、当時新産業として人気が先行したことにあると思います。社会の一員としての企業を理解してもらうことは非常に重要ですし、これは新聞の持つ特性が生かされる分野だと思います。(加藤氏)