ターゲットの嗜好(しこう)を見極め情報を最適化する

 配布エリアを選択し、ターゲットに応じた情報を提供するエリア広告。予算やクリエーティブに合わせて用紙やサイズが指定できる他、FMスクリーンでは高精細のビジュアルも実現できる。こうした特性を最大限に生かしたうえで、さらにコミュニケーション効率を上げていくには何が必要か。「進化する紙メディア」(宣伝会議刊)の著者であるグラファイン代表取締役の赤羽紀久生氏にうかがった。

増しているエリア広告の価値

赤羽紀久生氏 赤羽紀久生氏

――エリア広告の価値をどのようにとらえていますか。

 エリア広告の長所はターゲティングができること。その価値は年々増しています。これだけ情報が氾濫(はんらん)した世の中になると、欲しい情報を効率的に得たいというニーズが当然出てきます。そのニーズをいかに的確にとらえ、個々の興味にアクセスできるかが、エリア広告に最も期待される役割だと思います。

――エリアによるターゲティングの意義をどのように考えますか。

 IT化により地域性が薄れたと言われますが、実際は色濃く残っていると思います。最近テレビで、自分が常識だと思っていたことが、その県にしか通用しなかったという発見を楽しむ番組がありました。それを見ると、広告も「エリアでセグメントする」価値は大いにある。エリア固有の意識を共感につなげることができれば、メッセージはより強まると思います。

――ターゲティングをしていくうえで重要なこととは。

 「高級消費財の広告は富裕層の多く住むエリアに」というざっくりした枠組みでセグメントしていた情報を、子どものいない夫婦、一人暮らし、など世帯構成によって変えていけば訴求力は高まります。また、今の時代は、シニアでもファッションに敏感な人や男性でも料理に関心のある人など、嗜し好が多様化しており、M1層、F1層といった従来の物差しが通用しなくなっています。そのため、よりきめ細やかなターゲティングが重要になってきています。

情報を最適化し個人に届ける

――ターゲットの分析が十分になされていると思いますか。

 まだまだだと思います。一番大事なのは、マス広告の考え方から脱却すること。マス広告は、種々の情報を削(そ)ぎ落とし、核となる情報を集約して伝えていくコミュニケーションですが、これからは、ターゲットに応じて情報を最適化し、いかに多くの選択肢を持たせられるかがポイントです。技術的にもそれが可能になっていて、例えばデジタル印刷機を使えば、情報を容易に差しかえることができ、数千パターン、数万パターンを作ることができる。しかも、印刷精度はオフセット印刷と変わらないレベルにきています。そうした新しい技術に明るいマーケターはまだ少なく、意識改革を進めていく必要性も感じています。

――情報の最適化という意味で具体的な成功例は。

 アメリカの百貨店のDMの例で、購入履歴や来店頻度によって、紹介する商品やメッセージ、デザインまでも変えて顧客に送っています。そうした取り組みはエリア広告にも応用可能です。ワン・トゥ・ワンとまでいかなくても、1パターンしかなかったものが5パターンに増えるだけで訴求力は格段に増すと思います。

――エリア広告にはどんな情報が適しているのでしょう

 こういう商品だからこういうターゲットに売ろうと一方向から決めてかかってしまう広告主が多いのですが、この商品をAさんには価格でアピールする、Bさんにはデザイン性でアピールする、というような柔軟性を持つべきです。そもそも商品の価値は一つでなく、いくつもの側面があります。その伝え方を相手に応じて変える。

 アプローチに柔軟性があれば、どんな情報でも人々の心に届けることはできるはずです。ただ、「朝日新聞」という題字が入っていると、不動産や医薬品など信頼性を重視したい広告主にとって価値が大きいと思います。

――パノラマワイドなど贅沢(ぜいたく)な紙面使いもエリア広告の特性です。

 パノラマワイドの規格を最初に見た時は、こんなすごいことができるのかと驚きました。朝日新聞はFMスクリーンなど印刷技術レベルも高く、ブランドの世界観をスペースをふんだんに使って打ち出すことができる。紙面の大きさを生かしたクリエーティブは、他にもいろいろ考えられます。わかりやすい例で言えば、アイドルの等身大ポスター。ファンは喜びますよね。また、子ども向けの世界地図など張っておける情報や、一覧性のある情報にも適していると思います。

デジタル化により拡大する可能性

――ジェイヌードなど、記事が楽しめるタブロイド判も好評です。こうした広告メディアについてご提言があればお聞かせください。

 いろんな広告主が集える工夫があっていいのでは。例えば「引っ越し」をテーマに、引っ越し業者、家具店、転居案内を依頼できる印刷店などの広告を載せる。テーマが一つあるだけで、小さな商店もエリア広告を使うチャンスが広がります。チラシの領域を奪ってしまうという懸念もあるかもしれませんが、生活者の視点に立って検討してみる余地はあると思います。

――ご自身でエリア広告を作るなら、どんな提案をしたいですか。

著書「進化する紙メディア」 (宣伝会議) 著書「進化する紙メディア」 (宣伝会議)

 離島に向けたタブロイド判の広告など、面白いのではないかと思います。情報は離島の人の関心事を取り上げ、広告は島で調達できない商品を扱う通販業者を載せたり。あとは、災害に備えた周辺地域の情報と災害用品の広告が入ったエリア広告なども、有益なツールになっていいと思います。

――紙メディアのコンサルティングを始めとする現業を通して目指していることは。

 紙メディアは、デジタル化によって、コストダウン、スピードアップ、品質アップをはかることが容易になっています。その体制づくりを広告主の立場で行うと同時に、市場関係者の意識を引き上げていきたいと考えています。

――デジタル化によってエリア広告の可能性も広がる?

 そうです。紙メディアの未来を考えた時、究極はデジタル技術を駆使した「マイ雑誌」だと思っています。事前に自分が興味のある項目を登録しておいて、コンビニなどに置かれたオンデマンドのプリンターで必要に応じて出力するようなシステムです。コンテンツの提供者は、新聞社だったり、企業自身だったり。現時点でそれに近いことをできるのが、エリア広告ではないかと思っています。