新聞広告の特性を生かし もっとポジティブに挑戦を

 巻頭特集は、日本アドバタイザーズ協会新聞委員会専門委員長を務めるトヨタ自動車宣伝部長の蔵敷大浩氏、日本広告業協会メディア委員会新聞小委員会委員長を務める博報堂DYメディアパートナーズ執行役員新聞局長の岩本昭治氏、朝日新聞社取締役広告担当の川原徹郎の3人による座談会を実施。広告主、広告会社の視点から見た新聞広告の課題や可能性、新聞社への提言などをうかがい、新聞広告のさらなる活性化に向けて、活発な意見交換を行った。

川原 今回の座談会では、広告主、広告会社のお立場から、新聞広告の課題や新聞社に期待することなど、「新聞広告の未来」に向けたご意見をうかがえればと思います。蔵敷さん、岩本さんはそれぞれ、日本アドバタイザーズ協会、日本広告業協会で、新聞広告活性化に向けた取り組みをされていますが、まずは、各協会の活動についてお聞かせください。

蔵敷 日本アドバタイザーズ協会では、新聞広告の活性化と、新聞広告データの整備拡充が、現在の大きなテーマです。媒体が増える中で、広告主は新聞というメディアをもっと活用できるのでは、と考えています。でも、そのためには裏付けのデータが必要です。
 たとえば、新聞広告の総出稿量は落ちています。読者が広告を見ないからとか、原因がはっきりしているならいいのですが、原因がわからなかったり、効果が明確になっていなかったりといった理由で落ちているのだとしたら、もっとできることがあるはず。データ整備への取り組みには、そうした背景があります。

岩本 日本広告業協会では、新聞を取り巻くデジタル化やオンライン化といった環境の変化に対してしっかりとした対応をしていこうと考え、日本新聞協会が策定したカラー広告の標準色見本「日本新聞アドカラー(NSAC=エヌザック)」の運用ガイドラインを整備しました。また、「新聞広告デジタル制作送稿ガイド」を3年ぶりに改訂しました。全国の新聞社の状況を検証し、各制作会社、広告会社の制作担当、製版会社に向けて発行しました。これらの取り組みは、新聞広告の環境をどう整えるか、が目的です。

川原 新聞社もカラー品質の向上については努力をしていますが、新聞各社が独自で取り組んでいるため、NSACのように共通化できるガイドラインがあると非常に便利になり、広告主、広告会社の利便性も上がると考えています。
 さて、委員としてだけではなく、仕事の上でのそれぞれの立場から、新聞広告の魅力や特性をどうご覧になっているかお聞かせください。

岩本 最も信頼のあるメディアであり、ブランド価値を高める最大の媒体であるととらえています。クライアントに新聞広告を提案する広告会社の立場としては、そこは一番の特性であり、魅力です。
 多メディア化が進み、インターネットの普及による危機が言われますが、インターネットと新聞は相対するものではなく、協調、共生するものであるというのが、私たちの基本的なスタンスです。クロスメディアの時代と言われるように、いかに新聞とインターネット、新聞とテレビなど、新聞と他メディアをうまくコラボレートして、クライアントにキャンペーンを提案するか、またクライアントとの絆(きずな)を強くしていくか。それを考えるのが、われわれ広告会社の役目です。

蔵敷 確かに信頼性は、新聞の大きな特長ですね。新聞記事に対して、異論反論はあったとしても、それを疑ってかかる人はいない。さらに、新聞全体としてみれば、世帯カバー率が非常に高く、その上、即日性があります。たとえば世帯カバー率が80%だったら、80%の世帯に即日に届く、ということ。
 もうひとつ、広告紙面の大きさも新聞ならではの特長です。15段広告を出稿したら、書こうと思えば、ありったけのことを書くことができる。もちろん読んでもらわなければならないので、デザインなどは考慮しますが、それでもその紙面を自由に使えるのです。
 信頼性、即日性、そして紙面の自由度が、ほかの媒体と比べたときの特長であり、広告主としてのメリットです。これをどう活用するかが、今後の課題ですね。

若者の活字離れが問題の根ではない

川原 では、新聞は現在、どんな課題や問題を抱えていると思われますか。

岩本 若い世代の新聞離れ、活字離れが言われますが、クライアントからすると、実際に彼らがどのように新聞と接触しているか、非常に気になるところのようです。対策として、やはりインターネットとの連携など、クロスメディアでの展開を考えていかなければならないと思います。
 もうひとつ、使い勝手がもう少しよくなれば、とも思います。編集、広告、販売など新聞社には様々な機能がありますが、たとえば販売店との協働で、読者にきっちりと伝わるプロモーションが可能になることも考えられます。編集については編集権の問題があるので簡単ではないとは思いますが、もっと柔軟になるといいと感じています。

蔵敷 私は、若者の新聞離れについては、確かにインターネットの影響は大きいとは思いますが、自分が学生時代のときを思い起こすと、そんなに読んでいたかなぁ、と。そう考えると、もともと新聞と若者というのは、そんなに近くないんじゃないかと思うんです。ただ、私たちの時代は、新聞をとることはとっていた。それが今とは違う点でしょうね。

岩本 確かに、私のまわりでも読んでない人は全然読んでなかったですね。

蔵敷大浩氏 蔵敷大浩氏

蔵敷 だから、そこだけを取り立てて問題視するのはちょっと違うような気がします。それよりも、たとえば新聞の発行部数が、本当に数値として有効なのかな、と疑問に感じています。
 新聞の発行部数は、テレビで言うところの「視聴可能世帯数」と同じようなもの。テレビでは視聴可能世帯数があり、さらに、ある番組、ある時間帯で、視聴率が数値として出る。新聞は、発行部数はわかっていても、今日はこれだけの人が読んだ、とか、この面はこのぐらいの人数が読んだ、とか、そういう情報があまりにもなさすぎるように感じます。朝日新聞のこの面のこの記事は何%の人が読みました、読売新聞ではこうでした、というようなことがわかると、広告主も読者も興味がわくと思うんです。
 あと、テレビではコメンテーターが色々なことを言って、もちろん賛否両論はありますが、「この人がこう言ってる」と、文字通り、顔が見えている。新聞もコラムや連載などがありますが、もっと「この人がちゃんと書いている」というように、顔が見えるといいなと思います。

川原 以前に比べると署名記事は増えましたが、確かに顔やプロフィルまでは出していません。そのほうが親しみが出そうですね。読者と新聞を近づけるためには、「顔が見える」ような工夫が必要かもしれません。

蔵敷 朝日新聞も紙面のつくりを大分変えてきて、読ませる工夫はしていると感じています。ただ、そのときに若者だけを対象にするのは少し違うかな、と。インターネットの影響はこれからもあるでしょうが、若い人たちも40歳ぐらいになると新聞は読むのではないでしょうか。そうやって変化していく世代の人たちに、どう対応していくか。新聞社にはそこをもっと明確に考え、色々なことに挑戦してもらいたいと思うのです。

岩本 ブログを書いている人ほど新聞を読んでいるという調査結果もあります。情報起点は新聞で、情報検索がインターネットと、若い人ほど使い分けているようにもとらえられます。つまり、新聞は読まれている。そこはもっとアピールすべきだと感じます。

川原 新聞は、ある程度の知識や見識、キャリアがないと、理解できにくい部分もあると思います。学生時代には知識も人生経験もないから、理解できなかったり興味がわかなかったり。でも、社会に出てある程度知識や経験を積み重ねてくると、関心も高くなり、読んで理解できるようになるんですね。
 最近、小学校で読書を進める活動が増え、子どもたちの本に対する関心が高まっているというデータもあります。また、朝日小学生新聞は着実に部数を伸ばしています。現在、谷間の世代があるかもしれませんが、読書や活字に関心のある層が成長すれば、また環境が変わるのではともとらえています。

柔軟性と自由度が新聞には足りない

蔵敷 あと、僕らから見ると、新聞はほかの媒体に比べ、フレキシビリティーがないように感じます。

川原 具体的には。

蔵敷 広告を見ない、という現象は、どの媒体でも問題になっています。テレビ番組は録画視聴する人が大半で、そうするとCMは全部飛ばしてしまいますからね。スキップ機能もある。雑誌だって、広告は見ないという人は多い。だから広告は見てもらえないと、広告主はすごく懸念しているわけです。
 それに対して、テレビの場合、番組とのタイアップCMの企画を提案してくる。たとえば、シームレスCMでは、ドラマの出演者がそのまま出てきて、どこからがCMかわからないけれど、ちゃんとCMに入っている。そういうCMは「どこで、いつ見られるのか」といった視聴者の問い合わせがあったり、CM時でも視聴率が下がらなかったり、視聴者の反応がいいんです。雑誌なら、人気モデルが当社の車に乗るような、編集タイアップ企画も多い。すると読者は興味を持って読んでくれるんです。

川原 編集タイアップについては、新聞は一線を引いているところがあります。もちろん、今後は信頼性という特性に基づいた上で、どう越えていくかは研究しなければならないと考えています。
 編集タイアップではないのですが、インパクトを与えるという点では、スペースなどで様々な試みをしています。たとえば、「逆L字型」や夕刊一面の変型広告といった本紙の事例のほか、新聞3~4ページ分が横につながった「パノラマワイド」「パノラマ6」など、エリア広告の事例も増えています。柔軟性という点については、今後も取り組んでいく考えです。

岩本昭治氏 岩本昭治氏

岩本 新聞もカラーの品質が向上したので、そうした広告が可能になってきましたね。新聞でもポスターのようなクリエーティブが掲載できるようになりました。それが、宅配制度によって即日、同時に家庭に届く。これは非常に大きな新聞のメリットだと思います。「新聞は信頼のあるメディア」という前提を大事にしながら、もっと柔軟性を持ってもらえれば、広告会社としても、クライアントに薦めやすくなります。

蔵敷 もうひとつ、最近ではデジタル送稿が可能になったことによって、リードタイムの短縮がどんどん図られています。関心の高いニュースと連動して広告内容を差し替えることが可能になれば、新聞広告の活用の幅が広がるのではないでしょうか。
 たとえば、先日、野球の北京五輪アジア予選で日本が韓国を下した熱戦がありましたが、それは必ずニュースとして新聞に掲載されます。その記事下の広告スペースを確保しておけば、「翌朝は星野監督の広告で行くぞ」ということもできる。そうした広告は注目度が高く、話題になる。絶対に読まれるはずです。さらに、そのときに、スポーツ面は何%の人が読んでいるというデータがあれば、僕らはチャレンジすることができる。新聞社や広告会社としても、色々な企画が提案できると思います。

岩本 たとえば新聞広告をどんな人たちがどのぐらい見ていたかという視聴率的なデータを、クライアントに提供することにも、新聞社が取り組んでくれるといいと思います。

川原 当社には、モニターを対象に新聞広告の接触状況や印象を聞く「広告モニター調査」のほか、「アスパラクラブ」のネット会員を対象に、「新聞広告イメージ調査」を実施しています。こちらは、1回の調査で平均7~8千件のレスポンスがとれます。

岩本 それを、クライアントにデータとして積極的にフィードバックすることが必要ではないかと思います。

中央紙と地方紙機能で住み分けを

川原徹郎 川原徹郎

蔵敷 私たちも、インターネットが発達したことで、新聞広告にURLを載せるようになりました。消費者は一様ではないので、一人ひとりの顧客が知りたい情報を新聞広告に全部載せていたら大変です。知りたいのは車の色なのか、乗り心地なのか、価格なのか、それともどこに行けば手に入るかといった情報なのか。インターネットは、知りたい情報を選択できるのがメリットです。新聞には、その入り口としての役割がある。そういう意味でも、新聞の利用目的は変わってきているかもしれません。

岩本 インターネットを利用した新聞広告の事例として、ZARDのベストアルバムの広告があります。収録曲すべてのQRコードを掲載し、これを読み取ることで全曲試聴できるという仕掛けです。こうした使い方も新しく出てきました。

川原 まさにクロスメディアでの展開ですね。朝日新聞では、グループメディアを中心にしたクロスメディアの提案を進め、成功事例が増えてきています。今後はグループのメディアにととまらず、広告主のニーズに合ったものをどんどん提案していければと思います。

蔵敷 中央紙は、自社のグループメディアをどう活(い)かすか、どんどんトライアルすべきだと思います。一方、地方紙には地方紙での展開があると考えます。
 当社の昨年の取り組みですが、「プリウス」のタイアップで、各県でプリウスを導入している法人顧客を訪れ、どういう考えでプリウスを使っているのか、環境についてどう考えているかなどを語ってもらう企画を実施し、朝日新聞の地域面のほか、それぞれの県の地元紙に掲載しました。5~7段の広告のうち、8割は取材した内容の記事体。10周年記念の特別仕様車の広告でしたが、その内容は2割にとどめました。このとき、内容がすべて純広のダミー広告も用意し、読者に調査したところ、前者のほうが興味を持たれ、しっかりと読まれていました。それが新聞のいいところで、読者もそのように新聞媒体を見ている。中央紙でも地方紙でも、そうした特性は上手に使ってほしいですね。
 また、媒体が違えばできることに違いがあるわけですから、住み分けし、それぞれのよさをうまく引き出してほしいと思います。

他紙は気にせず「やってみなはれ」

川原 ほかに、新聞社に期待することはありますか。

蔵敷 朝日新聞にとって、競合他社も色々な取り組みをしてくると思いますが、新聞業界にはそういった他社の動きを気にしすぎる傾向があるように感じます。横を見過ぎるというか。そういうことを気にせずに、どんどん進めてほしいなと思います。

岩本 「特ダネ」「特落ち」とか「抜かれ」など、広告局にも、いわゆる新聞の編集局的発想があるように思います。「他紙に載っていてうちの新聞には載っていない」「抜かれたからなんとかしてほしい」などと言われることも依然としてあります。組織もそうですね。部長がいてデスクがいるとか。ビジネス社会の感覚からすると、少し違和感があります。

蔵敷 広告主としては、たとえば15段広告を出すときに、ある新聞には出したけど、他紙には出さないといったことがあります。東京はこっちの新聞に入れて、大阪はこっち、とか。しかし、当社では予算とカバー率を重視したメディアプランニングも変わりつつあります。たとえば今年、5段広告や変型広告なども手がけましたが、出稿の決め手は企画提案があったから。そういう事例が増えました。やはり、企画の勝負なんです。
 新聞がどんどん変わってきていることは、われわれ広告主も感じています。どんどんおもしろい企画提案を、今後も絶やさずに続けてほしいですね。そうしたときに、すぐに効果がわかるとか、効果がわからないのであればデータを整備するといったことも重要ですが、じゃあ、わからないからやらない、ということではなく、「まずはやってみなはれ」の精神で取り組んでほしいのです。

川原 新聞社としてのDNAみたいなものはどうしてもありますが、新聞業界全体としても新聞のいいところは武器として提案していく。今後はそういうところで勝負していきたいですね。

変化のときはチャンスでもある

蔵敷 朝日新聞は、記事部分も含め、紙面をどんどん変えていると感じています。紙面改革をしたときに、それによって読者がどう変わったかということも知りたいところです。そうしたデータが見えれば、その新聞の特性がよくわかり、広告主側としてもプラスになります。
 また、性や年齢といった属性だけで判断すると、朝日も読売も産経も、読者層はほとんど同じような結果になってしまう。もう少し細かく、どういう人が朝日新聞をとっていて、どういう人が読売新聞をとっているか、日経新聞を読んでいる人はどの新聞と併読しているかといった、新聞を横断した比較データが知りたい。というのも、たとえばテレビにCMを出す場合、「この番組には出すけれど、この番組には入れたくない」といった判断があるのです。こういう商品、こういう広告だから、この新聞に出したほうがいい、ということがわかるといいと思います。

川原 昨年の紙面改革では、一面に大きなインデックスを設けたほか、二面、三面も大きく変え、テーマ別に解説、分析など、じっくり読んでもらう紙面にしました。確かにそうした変化が読者にどういう影響を与えているのかを知ることは、新聞社としてはアピールする材料になります。

蔵敷 朝日新聞の場合は古くからの固定読者が多いようですが、そうは言っても浮遊層はあるでしょう。引っ越すときに新聞を変える検討をする人もいます。何が引き金になって新聞を変えるのかを調査すると、それぞれの新聞ごとの特徴が出てくるはず。そういうことを売りにしてもいいのではと思いますね。

川原 社内で調査はしていますが、なかなかオープンにする機会がないのが実情です。

蔵敷 その結果をただそのまま知りたいということではなく、そうした読者の意識が、ある広告主にとってどう役に立つか、といったことが知りたいわけです。そういう意味では、新聞社側にも広告主の商品をしっかりと知っていただきたいし、その商品に合った提案方法を考えていただかなければなりません。

川原 そうしたデータは、これまでどちらかというと紙面づくりの参考にしてきて、広告主に新聞の特性の変化として伝えてきませんでした。努力したいですね。
 最後に、「新聞広告の未来」について、ご意見をお願いします。

蔵敷 とかく「新聞離れ」という言葉だけが独り歩きしていますが、私自身は、逆にチャンスもあるかなと感じています。離れているのは新聞だけじゃない。テレビだって離れています。
 では、世の中の人は何を情報として知りたがっているのか、どうやってほしい情報を得るのかを考えると、新聞のもう一つの特性である「一覧性」が生きてくると思います。ばっと広げて、記事を探すことができ、そのニュースの価値をある程度判断して、自分で選択もできます。インターネットの世界はメリハリがなくて、そんなふうに情報を探せない。そういう意味では、ネットが普及すればするほど、チャンスでもあるのではないでしょうか。

岩本 新聞社の方々は、新聞についてあまりにもネガティブになりすぎているように感じます。信頼性、一覧性はこれからも変わらず、新聞は絶対になくなりません。そこにもっと自信を持って、既存観念にとらわれず、知恵や工夫をこらし、クライアント視点で企画提案できるか。もっとポジティブに挑戦してほしいですね。

川原 新聞広告が持つ特性や機能をいま一度整理し、広告主、広告会社の方にもっと活用していただけるよう、取り組んでいければと思います。本日は、どうもありがとうございました。

蔵敷大浩氏(くらしき・まさひろ)

日本アドバタイザーズ協会 新聞委員会専門委員長(トヨタ自動車宣伝部長)

岩本昭治氏(いわもと・しょうじ)

日本広告業協会メディア委員会 新聞小委員会委員長(博報堂DYメディアパートナーズ執行役員 新聞局長)

川原徹郎(かわはら・てつろう)

朝日新聞社取締役広告担当