「垂直・水平展開の成長戦略」を推進し、成長軌道に乗っていきたい

 市進ホールディングスは、目下「垂直・水平展開の成長戦略」を掲げて経営革新に取り組んでいる。“垂直展開”では、昨年に学研ホールディングスと業務・資本提携し、幼児教室「ほっぺんくらぶ」の導入や、小学校受験・幼児教育を行う「桐杏学園」をグループに加えるなど、未就学児童からの教育体制を整備している。“水平展開”は、昨年から今年にかけて、日本語学校「江戸カルチャーセンター」、高齢者向け住宅サービス事業を展開する「友友ビレッジ」、茨城県全域に学習塾を展開する「茨進」を相次いで子会社化し、さらに障害者の労働支援を行う会社「市進アシスト」を設立した。代表取締役社長の下屋俊裕さんに聞いた。

 

下屋俊裕氏 下屋俊裕氏

──市進学院や市進予備校など主軸の学習塾事業について、新しい取り組みを聞かせてください。

 市進教育グループは、創業以来、生徒と保護者の目線に立った教育サービスの提供を主眼に置いてきました。最大の強みは、生徒一人ひとりの能力を見極め、力を発揮させていく「めんどうみ合格主義」に基づく教育です。それを維持するために、徹底した研修体制を敷いています。当社の講師は、集団授業でも個別指導でも、専門の指導スタッフによる研修を受け、これをクリアしなければ、現場に出ることはできません。正社員の講師は、3カ月以上の研修を経て教壇に立っています。そこまで徹底する理由は、1つの授業で全生徒が完璧に理解できるまできちんと教えきることを目的としているからです。

 その一方で、新しいニーズも生まれてきました。保護者を対象にアンケートを実施したところ、「本当に自分の子が授業を理解しているのだろうか」という不安や、「理解しているか、個別に見てほしい」という意見が多く上がったのです。そこで、授業の前後に講師が生徒の質問を受けたり個別面談をしたりするための時間を設けることにしました。当社はこれまでも生徒・保護者への対応を十分に行ってきたと自負しておりますので、さらなるめんどうみの充実を図ります。

 集団授業は、複数の中で自分の位置を見極め、競争心や競争に勝ち抜く精神力を養うことができる場です。その利点を享受していただきながら、「個人的に見てもらえる」という満足感を提供できるような授業体制を目指していきたいと考えています。

──昨年11月、学研ホールディングスと業務・資本提携しました。どのような広がりに期待していますか。

 提携によって、幼児教室「ほっぺんくらぶ」を導入したほか、小学校受験・幼児教育の「桐杏学園」がグループに加わりました。市進教育グループは、これまで小学生から高校生までを主に対象としてきましたが、未就学児まで範囲が広がりました。提携の相乗効果だと思いますが、両ブランドを合わせた生徒募集の反応は、昨年の2倍以上となっています。

 また、学研グループは、幼児教育のほか、科学実験教室、英語講座、高齢者福祉事業、出版事業、海外事業など、さまざまなコンテンツやノウハウを持っているので、教材の共同開発や、講師同士の交流、社員同士の交流などを通じてシナジーを最大化していきたいと考えています。

──2007年から外部向け販売を開始した映像配信授業「市進ウイングネット」の取り組みについて。

 ウイングネットとは、市進学院、市進予備校の実力派講師の授業を、インターネット配信によって全国どこでも受講できる、完全個別対応の映像学習システムです。08年から業務提携しているZ会グループの、難関国公立大学を目指す対面授業の指導プログラムも映像化して配信しています。また、在留邦人向けに、台湾、香港など海外への配信も行っており、帰国した際に市進教育グループの学習塾が受け皿になれたらと思っています。

──「江戸カルチャーセンター」の事業は。

 1984年設立の「江戸カルチャーセンター」は、日本の大学、大学院、専門学校への進学や、日本企業への就職を目指す海外からの留学生を対象とした日本語学校で、昨年9月に当グループの一員となりました。日本語教育に加え、国際的な視点で日本の文化や社会を学べる質の高いプログラムを提供しています。ウイングネットを通じて「江戸カルチャーセンター」の授業を海外の日本語学校に配信していくことも視野に入れています。市進教育グループが、留学生を28年間預かってきた伝統ある日本語学校を持っていることは、海外展開を進めていくうえで、信頼度を高めることにつながると考えています。

──「友友ビレッジ」の活動として力を入れていきたいことは。

 「友友ビレッジ」は、高齢者向け住宅サービス事業を展開する会社です。そのノウハウを生かしながら、自社ビルの一部を活用してデイサービス事業を開始します。当社の「人に教える」という得意分野を生かし、痴呆(ちほう)予防のトレーニング教室など、高齢者向けの教育サービスの提供などを検討しています。サービス付き高齢者向け住宅の企画・開発・運営などを行う学研グループの「学研ココファン」の指導なども受けながら、成長事業に育てていきたいですね。

──下屋社長は、当初は講師を務めていたそうですね。

 自分が市進の教壇に立つ前に、研修でほかの先生方の授業を見学したのですが、学校の授業とは全く違う教室の熱気に圧倒されました。子供たちに理解させるための創意工夫があって、先生方にはある意味で役者の素養もありました。子供たちはそれぞれに目的意識を持ち、学ぶ意欲が旺盛でした。両者の化学反応を見て、とてもやりがいのある仕事だと感じ、この道一筋でいこうという思いを新たにしました。

──下屋社長の教育ポリシーは。

 私の教育ポリシーであり、市進の教育ポリシーでもありますが、「自立学習」です。例えば、学力向上のポイントは「復習」だといわれます。それは間違いありませんが、復習にもやり方があります。問題集を復習しなさいと言うと、正解した問題でも1問目から見直そうとするお子さんがいます。そばにいる親御さんも、それでいいと思っていらっしゃる方が案外多いんです。でも、学力向上の効率を上げたいなら、間違った問題を集中的に復習し、なぜその問題につまずいたのかを理解しなければ意味がありません。そうした復習のやり方まで細かく指導することで、自分自身で課題を見つけられるようになります。そうなれば、短い時間でも集中的に学力を高められ、残りの時間は心おきなくスポーツや趣味などを楽しむこともできます。自立学習ができるようになれば、小学生から中学生、高校生、大学生、そして社会人になったときにも力を発揮できると思っています。

──今後の抱負について。

 当社はここ数年、少子化による市場全体の縮小により、減収で推移してきました。しかし、いろいろな投資が実を結び始め、ようやく売上高200億円の回復が見込まれます。少子高齢化がますます進む中、従来の枠にとらわれず、「総合教育サービス」企業グループへとかじを切っていきます。そのために、昨年から今年にかけて事業の多角化を進め、布石を打ってきました。「垂直・水平展開の成長戦略」を推進し、成長軌道に乗っていきたいですね。

──愛読書は。

 高木彬光さんの作品群です。中でも『白昼の死角』は、戦後の社会情勢をからめながら、犯罪者視点で手形詐欺の巧妙な手口を明らかにしていくストーリー展開に引き込まれました。山岡荘八さんの『徳川家康』も心に残る小説の一つで、これと高木彬光さんの作品群は、時間に余裕ができたら改めてじっくり読み直したいと思っています。

下屋俊裕(しもや としひろ)

市進ホールディングス 代表取締役社長

1952年鹿児島県生まれ。77年順天堂大学大学院修了。同年市川進学教室(現・市進ホールディングス)入社。97年教育本部長。01年取締役。08年常務。10年副社長・市進ウイングネット社長。11年5月から現職。同年江戸カルチャーセンター社長。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、下屋俊裕さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.44(2012年11月28日付朝刊 東京本社版)