新しいブランドビジョンを掲げ、社内の意識改革を目指す

 今年6月1日、住友生命は、26年ぶりに会社のロゴマークを刷新。「あなたの未来を強くする」というメッセージに象徴される新コーポレートブランド戦略を発表した。イメージキャラクターには、人気アイドルグループ「嵐」の相葉雅紀さん、女優の北川景子さんを起用。「対外的なコミュニケーション活動を通じて社内変革を目指す」と佐藤義雄取締役社長は意気込む。

 

対面セールス強化のための営業職員の教育を徹底

住友生命 取締役社長 佐藤義雄さん 佐藤義雄氏

──ブランド刷新のねらいは。

 これは私見ですが、保険会社というのは、必ずしも評判が良くありません。なぜかといえば、新規契約中心主義のカルチャーが長く続いていたからです。特に高度成長期は、新規契約をあげることが会社発展の道だと上層部にハッパをかけられたものでした。

 一方で、当社には優秀な営業職員もたくさんいます。日頃から顧客全般に目を配り、万一お客様がケガや病気をされた場合、連絡をもらう前に情報をキャッチし、保険金の給付に必要な書類をたずさえかけつける。どんな商品に関する質問にも答えられ、公的保障との兼ね合いなど、トータルにお客様の状況を見渡すこともできる。そういうことができる人たちです。

 2007年、生保各社の保険金支払い問題が起きました。生保の信頼は大きく傷つき、当社も抜本的な経営体質の見直しを迫られる深刻な事態でした。ただ、先述したような営業職員たちの仕事には、問題のある案件は見られませんでした。きめ細やかな顧客対応により、「漏れ」がなかったからです。長引く不況の中でも当社の基盤がゆるがなかったのは、優秀な職員たちの支えがあったからだともいえます。私は、そうした職員たちの姿勢を手本とすることこそ、当社の成長において最も重要だと考えています。

 前置きが長くなりましたが、ロゴマークや企業メッセージの刷新の最大の目的は、社内の意識改革です。社外にブランドビジョンを宣言することで、社員一人ひとりの士気を高めるねらいがありました。

──今後、どのような取り組みに注力していきますか。

 対面セールスの強化、そのための営業職員の教育です。教育体系の見直しは積年の課題でした。新しい営業職員をどんどん雇って人海戦術でご契約を頂き、しばらくしてお客様から何か問い合わせがあった時には、すでに担当営業が辞めてしまっているということが、かつてはありました。今は、営業職員を厳選採用し、トレーニング期間をしっかり設けています。また、お客様とのコンタクト実績を資格の昇降格・給与の判定項目に反映する仕組みを導入しました。さらに営業職員の「総訪問運動」を実施。約700万人おられるお客様と1対1のコミュニケーションをはかり、お客様のご要望をすべて社にフィードバックする仕組みを構築しています。

 社員同士の交流も積極的に進め、ベテラン営業職員が若い営業職員に体験談を語る「ハートミーティング」なども開いています。私自身は、在任期間中に全支社を回り、全営業職員に直接ビジョンを語りかけることを目標にしています。

──商品やサービス開発の方向性は。

 当社は「介護と医療のスミセイ」を標榜(ひょうぼう)し、業界の中では先進的な取り組みをしてきました。「Vガード」「千客万頼」「がん長期サポート特約」などの医療関連商品は、日経優秀製品・サービス賞の最優秀賞も受賞しています。今年3月には介護に着目した「Wステージ」の販売を開始しました。ただ、認知度調査をしてみると、思った以上に「介護と医療のスミセイ」というイメージが浸透していないことがわかりました。今後はこれをしっかり訴求していかなければと思います。魅力的な商品とともに、付帯サービスの開発にも力を入れていきます。

──中国の損害保険最大手と提携し、「PICCライフ」を設立するなど、海外展開も進めています。海外展開の展望は。

 従来の海外投資は、主に資産運用目的でしたが、今後は保険業にコミットしていきたいと考えています。特に中国やインドなど発展めざましいアジアに目を向けていきます。日本の市場がシュリンクしているから海外に目を向けるということではありません。我々が海外に投資したお金は、いわば「プライベートエクイティー」。アジア市場に種を巻き、成長を支える。そうして得られた収益は内部留保となり、日本のお客様への支払いを確実にし、サービスに対する投資余力を高めることにつながります。

 アジア市場では、有力なパートナーと組み、弊社からは商品開発や営業システムのノウハウを提供し、パートナーには人脈と営業網を駆使して販売してもらう。うまく役割分担をしながら保険を広めていきます。

──経営ビジョンは。

 新しく掲げた企業メッセージ「あなたの未来を強くする」とイコールです。日本にはすばらしい社会保険の制度があり、セーフティーネットもしっかりしていて、アメリカなどに比べれば恵まれています。ただ、少子高齢化で将来財政的に厳しくなるのは明らかで、税負担も増えるでしょう。そうした時に家計を支え、公的保障を補完する役割を担うのが私的保険です。安心につながる魅力的な提案を続けていきたいですね。

──愛読書を教えてください。

 『決定版 菜根譚』です。17世紀初めに洪自誠が記した数々の人生訓が載っており、この中に、「逆耳払心」という言葉が出てきます。「耳の痛い忠告を聞き、思い通りにならない出来事を抱えていてこそ人間は磨かれる」という意味です。私が初めて支社長職に就いた時、今は亡き新井正明名誉会長に、この心得こそ大事だと教えられました。思想家・安岡正篤氏の薫陶を受け、松下政経塾理事長も務めた新井名誉会長は、支社長クラスの部下を一人ひとり集めては、『菜根譚』や、江戸時代の儒学者・佐藤一斎が重役の心得を記した『重職心得箇条』を渡していました。私が受け取ったのは『菜根譚』で、数ある格言の中で、「逆耳払心」の文言が心に響き、以来座右の銘にしています。

佐藤義雄(さとう・よしお)

住友生命保険 代表取締役社長

1949年福岡県生まれ。73年九州大学法学部卒業。同年住友生命保険入社。91年茨木支社長。93年新宿営業本部営業副本部長兼新宿中央営業部長。94年新宿営業本部営業副本部長兼第1営業部長。95年徳島支社長。98年株式運用部長。99年証券投資部長。2000年本社総合法人本部長。同年取締役嘱本社総合法人本部長。02年常務取締役嘱常務執行役員。04年常務取締役嘱常務執行役員兼運用事業部長。同年常務取締役嘱常務執行役員。07年7月から現職。

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