食料・水・環境の分野で、10年先のグローバル企業の姿を描く

 クボタ創業120周年の節目を託されたトップは、技術イノベーションの重要さを知る技術畑出身。益本康男社長は、「食料・水・環境という21世紀の課題に向けて、グローバルに挑戦する」と語る。

――2009年1月に社長に就任以来、「若い社員は新しいことにチャレンジしろ。お前たちが失敗したくらいではクボタは潰れない」と挑戦心の重要性を強調されていますね。

クボタ 益本康男社長 益本康男氏

 それについては、僕もいいかげんなことを言ったなとも思っていましてね。この1年間、社内を見ていますと上司がチャレンジしていない。これまでの成功体験の中で、これは失敗しないだろうということをやる大企業病に陥っています。その下にいる部下に「10年先を見ろ」といっても、上司の背中を見たらやれないですよ。まずは部下に言う前にお前たちがやってみろと、今は改めて上司の教育をしているところです。
トップの仕事も同じで、すでに成長が見えている市場を後追いするだけなら楽です。しかしそれでは企業は衰退してしまう。クボタは昨年、「技術開発戦略会議」と「品質・モノづくり戦略会議」という、10年先を見据えた技術開発やモノづくりを議論する場を社長直轄で設けました。水や環境の分野で世界に出ていくとなれば、従来のように国内需要の範囲で技術開発コストを考えていたら戦えません。国際市場に対応した技術力をいかに磨いていくか。そして、昔やっていた緑化プロジェクトをもう一度復活させるなど、いかにビジネスとしての広がりを持たせられるかがこれからの勝負です。

――微生物を利用して排水を浄化する水処理膜技術や上下水道プラントなど、クボタには先進的な水処理・環境技術があります。

 水の汚染、飲料水の不足は環境問題でも特に重要なテーマです。基本的に飲み水に困るというのは、生活排水がさらに川下へと悪影響をおよぼし、自然の循環を損ねていることが大きな要因です。使った水を浄化して戻すことができれば、再利用ができ、環境全体にもよい影響を与えることができると思っています。

――アジアを中心に販売を伸ばしている農業機械に関しては。

 これも農業の機械化が目的ではなく、機械化で地球規模の食料増産に貢献することがクボタの社会的使命だと思っています。今後はいよいよ、畑作用機械の分野へ本格的に参入して、アメリカの大手メーカーに勝負を挑みたいと思っています。まだ今の技術力では太刀打ちできませんが、アジア市場の稲作用機械で培った沈まない機械の軽さや小回りのよさといったクボタの強みは、畑作でも武器になると思います。少なくとも10年後には、アメリカ大手メーカーに対抗できるような大型機械で、アフリカや南米にクボタが進出している。そんな構想を持っています。

――最後に愛読書をご紹介ください。

 ハーバードビジネススクールのクレイトン・クリステンセン教授の『イノベーションのジレンマ』です。大企業というのは、新しい事業や商品の先をどうしても今までの成功体験の中で見てしまいがちです。ところが新しい市場を生み出すのは、過去の技術とは比較できない技術や、従来とはまったく異なる需要を掘り起こす商品です。この本では、さまざまな分野の優良企業が既成事実や既成概念にとらわれ、次の成長市場に乗り遅れた事例が紹介されており、非常に興味深く読みました。

文/松身 茂 撮影/長尾 純之助

益本 康男(ますもと・やすお)

クボタ 代表取締役社長

1947年生まれ。71年3月京都大学工学部卒業、同年4月久保田鉄工株式会社(現株式会社クボタ)入社。内燃機器工場、生産技術分野に長く従事。97年2月建設機械製造部長。99年4月宇都宮工場長。01年10月作業機事業部長。02年6月取締役。03年4月産業インフラ事業本部製造統括本部長。04年4月常務取締役。06年4月専務取締役。07年4月水・環境・インフラ事業本部長。産業インフラ、環境の両事業を総指揮。08年4月取締役副社長。09年1月から現職。

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広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.14(2010年5月18日付朝刊 東京本社版)