「良い仕事」という軸をぶらさずに、「より力強い三井物産」「輝いて魅力ある三井物産」へ

 出身は鉄鋼・金属畑。資源・エネルギー部門で手腕を振るい、昨年4月に社長に就任。社内コンプライアンスのさらなる徹底と、世の中に価値を生み、尊敬される会社としての成長を託された飯島彰己さんは、「『良い仕事をする』という企業としての基軸を守りながら、『より力強い三井物産』『輝いて魅力ある三井物産』をつくる」と社長2年目への抱負を語った。

三井物産 代表取締役社長 飯島彰己氏 飯島彰己氏

――この1年で、特に力を入れて取り組んだことは。

 三井物産は槍田(うつだ)前社長時代に「良い仕事をしよう」というスローガンを掲げ、私もこの理念を継承しましたが、「良い仕事」の基本にあるのは「よい人材」です。「人の三井」といわれる伝統は、立場を超えた自由闊達(かったつ)な社員の交流が一人ひとりの心を磨き、個の質を高めて実現できるもの。風通しのよい社風を維持していくために、重層的なコミュニケーションに取り組んできました。

――5月の連休明けをめどに、三井物産としては6年ぶりに中期経営計画を発表すると聞いています。

 単なる数値目標の復活ではなく、より強い三井物産、輝いて魅力ある三井物産になるために何をすべきかを盛り込んだ内容になります。これまでは「良い仕事」を積み上げていけば収益は付いてくるという説明をしてきましたが、それは今の仕事に定量的な目標を持たなくてもよいということではありません。定性的な成果を重視することは今後も変わりませんが、具体的な利益目標を明確に打ち出すという点では、三井物産は来期以降、大きく変わります。

 現在当社の収益構成は、資源・エネルギー事業が7~8割を占めています。社長に就任して以来掲げてきた目標は、資源と非資源事業の収益構成を50対50に近づけていくということです。投資も従来の50対50の振り分けを止め、例えば、資源を3分の1、非資源を3分の2へとウエートを変えていこうと考えています。

 特に非資源分野の核となるのは、インフラ関係です。新興国において特に投資が求められている鉄道、港湾、電力、水事業などの分野に注力していくことになるでしょう。また、ここ数年、「川上インフレ、川下デフレ」といった傾向が顕著になっています。従って肥料分野であればリン鉱石やカリウム鉱石、紙パルプであれば森林資源、食糧であれば農業生産といった領域に進出して、上流での事業を拡大します。そこからバリューチェーンをつなぎ、川中や川下でも収益性の高いビジネスモデルを構築することが重要です。

――忙しい中で朝は4時に起きて読書の時間にあてているそうですが、愛読書は。

 私には、自宅と会社の本棚の両方に並ぶ本が3冊あります。それはP・F・ドラッカーの『ドラッカー365の金言』、松下幸之助の『実践経営哲学』、そして中村天風の『運命を拓(ひら)く 天風瞑想(めいそう)録』です。名著といわれる本には、読み手の人生経験に応じて新たな気づきや教えを授けてくれる魅力があります。ですから私は大切な本は何回も読み直します。人も本も第一印象だけでは分からないものですから、時間をかけてじっくり付き合うのが私の主義です。

 近年の本では、マイクロソフト社のビル・ゲイツ会長が企業と市場社会の未来のあり方を「創造的資本主義」という名で提唱した『ゲイツとバフェット 新しい資本主義を語る』に感銘を受けました。世界が行き過ぎた市場経済への反省に立つ中で、これからの仕事のやり方は、第三者に対する奉仕の視点がなくてはいけないと思います。本業を超えたCSR活動も大切ですが、(ゲイツ氏が述べるように)企業経営は本業の中で社会的責任を果たさなくてはいけません。利益のみを追求するのではなく、コンプライアンスを順守し、「良い仕事」をしながら世界の貧困や格差にも目を向けなければ、企業は持続的に発展することはできません。

文/松身 茂 撮影/星野 章

飯島 彰己(いいじま・まさみ)

三井物産 代表取締役社長

1950年神奈川県生まれ。74年横浜国立大学経営学部卒。同年4月三井物産株式会社入社。鉄鋼原料本部製鋼原料部長、金属総括部長、金属・エネルギー総括部長などを経て、2006年執行役員 鉄鋼原料・非鉄金属本部長。07年4月執行役員 金属資源本部長。08年4月常務執行役員。同年6月代表取締役 常務執行役員。同年10月代表取締役 専務執行役員。09年4月代表取締役社長に就任。

※朝日新聞に連載している、企業・団体等のリーダーにおすすめの本を聞く広告特集「リーダーたちの本棚」に、飯島彰己さんが登場しました。(全国版掲載。各本社版で、日付が異なる場合があります)

広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.13(2010年3月18日付朝刊 東京本社版)