異文化に適応し、グローバル社会で挑戦し続ける

 2008年6月、21年ぶりにコーポレートマークを刷新し、「おいしい記憶をつくりたい。」(seasoning your life)という新スローガンをグローバルに掲げたキッコーマン。日本の食文化の代表的な存在“しょうゆ”を世界に届け、地域に溶け込むグローバル企業へと導いた茂木友三郎会長は、「グローバリゼーションと多民族化が進む国際社会において求められるのは、異文化への適応性」だと語る。

茂木友三郎氏

――早くから工場進出に着手したアメリカや、市場の成長が続くヨーロッパに続き、近年はロシア、中東欧地域へと事業展開が広がっています。

 キッコーマンの国際戦略の根幹にあるのは、地域に根ざす「経営の現地化」を目指すことです。グローバル化が進む市場で消費者本位の経営を実践するためには、経営者の挑戦的な姿勢が必要であり、社員は異文化に対する適応力が重要です。

 適応とは、相手の変化に応じた対処が適切にできることで、アメリカ的な経営をそのまま日本や欧州に持ち込むこととは違います。これは英語力のように特訓すれば身に着くものではなく、普段から人との交流や知見を広める意欲を持つような素養も必要でしょう。

 挑戦の歴史が知られている海外では、キッコーマンは革新的で、グローバルな企業というイメージが定着しています。しかし日本で強いのは、保守的な老舗(しにせ)のイメージでしょう。企業というのは、常に前に進まなくてはいけないと思っています。国内において挑戦する企業姿勢を強くアピールすることも、コーポレートマークのリニューアルの狙いのひとつです。

――スローガンには、食育、食文化への思いも強く込められていますね。

 食育には、メタボリック対策のような健康と長寿のための情報提供とともに、食という文化が持つルールやマナーを次の世代に継承させていくことも重要だと思います。家族がそれぞれ忙しい時代ですが、お子さんが一人で食事をとる「孤食」や、テレビやゲームに意識がいって食事を楽しまない「ながら食事」は、見直してほしいと思いますね。

 食べるということは、人間の一生の重要な部分をなすものです。生活の中で子どもたちにそれを感じてもらうためには、やはりおいしいものを楽しく食べるという体験が何よりのベースです。例えば当社では、工場見学のコースにしょうゆづくりを体験できる小学生向けのプログラムを新設しました。しょうゆの原料に触れたり、もろみからしょうゆを絞ったりと、香りや手触りを通じて食の世界に触れてもらっています。

――コロンビア大学の経営大学院でMBAを取得された会長は、留学当時、1日100ページの英文を読まれたとうかがいました。推薦図書を教えてください。

 米国留学を決意した契機はドラッカーの本との出会いですが、アメリカの政治学者サミュエル・ハンチントンの『文明の衝突』は、今改めて読まれるべき本です。ハンチントンは、冷戦後の国際情勢はグローバルな超大国アメリカと、いくつかの地域大国とによって構成された「一極・多極世界」へと大きく変化すると指摘しました。そして人々は政治体制の違いではなく、文明・文化の違いによって統合と分裂を進めると説き、まさに今日のような世界の到来を予見しています。

 ことに日本は、地政学的なリスクがこれまで比較的低く、文明の衝突と呼べるような歴史体験がありません。だからこそ私たちは、文明による世界秩序の変遷を知っておくことが必要です。それを理解した上で、日本型のグローバル社会への適応の道を歩むべきだと思います。

文/松身 茂 撮影/星野 章

茂木 友三郎(もぎ・ゆうざぶろう)

キッコーマン 代表取締役会長CEO

1935年千葉県生まれ。58年慶應義塾大学法学部卒業後、同年4月にキッコーマン株式会社に入社。61年米国コロンビア大学経営大学院(ビジネススクール)を卒業、MBA(経営学修士)取得。95年2月キッコーマン株式会社代表取締役社長CEOに就任。同年4月~03年4月経済同友会副代表幹事。03年7月から新しい日本をつくる国民会議(21世紀臨調)共同代表。04年6月キッコーマン株式会社代表取締役会長CEOに就任、現在に至る。

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広告特集「リーダーたちの本棚」Vol.7(2009年9月11日付朝刊 東京本社版)