50年間、「子どもを主語」にして実践し続けた教育

 子ども一人ひとりの学力に合わせたきめ細かな教材で、着実なステップアップを図る独自の学習法「公文式」で知られる、公文教育研究会。創立50周年を迎え、今や国内に1万7400教室、海外に7,700教室を構える教育ステーションだ。14年間にわたる海外赴任から帰国し、今年2月、日本公文教育研究会の社長に就任した児玉皓二氏は、「子どもを主語にした」教育の必要性を訴える。

日本公文教育研究会 代表取締役社長 児玉皓二氏 児玉皓二氏

──日本の教育の現状をどう見ますか。

 子どもの教育に熱心な大人もいれば、そうでない大人もいる。教育の二極化が進んでいると感じます。言葉を換えると、21世紀を担う子どもたちに対して、大人たちが明確なビジョンを描けない国になってしまったような気もしますね。様々な国の教育を目の当たりにしてきましたが、教育面で成果を上げている国は、共通して子どもへの期待や関心が高いことがわかります。国際学力到達度調査(PISA)で実績のあるフィンランドは、子どもが12歳になるまで、親が本の読み聞かせを当たり前に行っていますし、少子化が取りざたされたフランスでは、福祉制度の充実や基礎学力を重視する教育改革で、問題も改善されたと聞いています。

──50年の歩みを続けてこられた原点は。

  昔の寺子屋のように、地域に根ざした教育を行ってきたことです。学校から家に帰ると、子どもは保護者以外となかなか接することがないものですが、公文の教室では異なる年齢の子どもが一堂に会して刺激しあいます。学校の担任制とは違い、学年が上がっても同じ教室で、同じ先生が指導を行い、子どもの成長を見届けられるのが強みです。

 もう一つは「子どものために何が残せるか」というスタンス。公文式は、創始者の公文公(とおる)が、わが子のため手作りの計算問題を与えたことが原型。公文公は生前「子どもがつまずくような教材は、良い教材ではない」と、子どもの学習が円滑に進むように「もっと良い教材」を探求する姿勢を崩しませんでした。実際、多くの子が何度も復習しなければならない教材があれば、現場の声を基に内容を検討し、教材改訂も行います。いわば大人の都合ではなく「子どもをど真ん中に置き」「子どもを主語」に、物事を考える。私にも、創始者のDNAが染みこんでいる気がします。

── 従来の学習塾のように「教え込まれる」受け身の学習ではなく、「自学自習」の形をとるそのスタイルも一貫しています。

 十数年前に読んだ本に、「勉強・学習とは『勘』を体得すること」という言葉を見つけました。わが意を得たりと思いましたね。公文式も同じなのです。例えば「7+8」をぱっと見ただけで、理屈抜きで「15」と答えられること。これが「勘」の体得であり、体に染み込むまで何度も基礎を繰り返すことでしか身につきません。野球でいえば素振りのようなもので、学習の基礎体力ともいうべきものです。勘を身につけた子どもは、応用力や思考力が必ず高いものです。単なる受験テクニックではなく、この「勘」を養うため、小刻みな到達目標を設定し、達成感を味わってもらいながら指導することが、公文式最大の特徴です。この考え方は、習い事やスポーツの上達、そしてその後の子どもたちの人生にも、様々な波及効果をもたらすと思います。

──今後のビジョンをお聞かせください。

 公文式の原点にもう一度立ち戻り、子どもの可能性を「徹底的に伸ばしきる」ことを念頭に、我々も教室の先生方とともに、真摯(しんし)な態度で指導力の強化に励みます。また、世界にはまだまだ公文式を必要としてくれる子どもたちがいます。より多くの子どもたちが世界ではばたく人材となれる、そのサポートができれば、と思っています。

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 シンガポールを皮切りに世界25カ国を訪問し、海外の教育事情にも精通する国際派。単身赴任だったこともあり、現地では料理の腕も磨かれた。「鍋料理だけでも15種類は作れます。リタイア後は子育てに悩む母親を対象に『子育て論と、子どもに作りたい料理』をテーマとした講演を行いたい」と語る。61歳。

略歴
1975年11月
大阪公文数学研究会(当時)入社
1988年12月
第Ⅱ教育本部 横浜事務局長
1993年3月
国際開発部長
1997年1月
アジア公文 取締役社長
1998年1月
公文USA 取締役社長
2005年7月
ヨーロッパ・アフリカ公文 代表取締役社長
2008年2月
日本公文教育研究会 代表取締役社長

撮影/長尾純之助
(『広告月報』2008年12月号)