言うまでもなく、着物は日本の伝統衣装。「その着付けを有料で習わねばならないのは、おかしいと思いませんか」。87年、古い商習慣が残る呉服の世界に飛び込み、無料着付け教室を開講。着物を楽しみたい人と、メーカーや問屋とをつなぐ販売仲介ビジネスで、日本和装は大きく成長した。逆風の業界から需要を掘り起こした吉田重久社長は、「普段着として着物を楽しむ方が増えてうれしい」と語る。
──着物の世界は門外漢だったそうですね。
以前、私が海外のファッションを扱う商売をしていた時、着物を買う方がいないと聞き、「そんなことはない、それは新しい市場を開く努力をしていなかったのだろう」と思いました。着物ほど日本人の体形に合い、どのような席に呼ばれても美しく映える服はありません。ただ、車の運転ができない方は車を買わないように、どう着ればいいか、何を選べばいいかが分からなかったのです。
── 情報や場が価値を生む仲介ビジネスは今でこそ一般的ですが、それにしても4カ月間全15回、無料で教えるとは大胆で斬新です。
本来、私は着付け教室というのが、ビジネスとして成り立つのがおかしいと思っています。スーツの着方教室なんて、ないでしょう。自国の伝統衣装を自分で着られないというのは、日本人だけではないでしょうか。
私たちは仕入れをしない仲介業者だからこそ、お客様の立場に立って商品のご紹介ができます。また「支払いは盆暮れ」といった古い習慣を一掃したことで、着物・帯メーカーや卸売業者にも喜ばれました。現在、約50社と業務販売契約を結ぶことができたのも、業界に変化を求めていた多くの方々がいらしたからだと思います。
──これまで送り出した修了生は13万人以上。着物に対する意識に変化はありますか。
一番の変化は、とりあえず教養として習っておくのではなく、本当に着物が着たいから習う方が増えたことです。世代的には、20代、30代の若い方が増えています。即売会を主催するメーカーさんには、「買われるアイテムが、ほかと全然違う」と驚かれます。一般の呉服店で目立って売れるのは、仮仕立てされた仕上がりイメージがわかるものだそうですが、日本和装の受講者には、ものなれた表情で丸巻物(反物そのもの)を購入される方が多いのです。ご自分のイメージをもって着物を選び、装いを楽しむことができるからでしょう。
また、礼装着をお買い求めになる方よりも紬(つむぎ)やお召しといった、普段用の上質な着物を買われる方が圧倒的に多いのも大きな特徴です。「タキシードをはやらせたいのではない、背広をはやらせたい」と言ってきた自分としても、日常的に着物を楽しまれる文化が広がっているのはうれしいことだと思っています。
── 今年5月にはニューヨーク教室が開講しました。海外市場に対するお考えは。
私はアメリカを着物マーケットとして見ていません。むしろ「アメリカで着物が注目されている」という情報を逆輸入することで、日本の方々の興味を喚起したいと思っています。誰かに着物を勧められるよりも、海外の豪華なパーティーで、着物を着た日本人が注目を独り占めしているといった話題の方が、「私も」という気持ちにさせることがあります。
着物をなにがしかの形で海外に伝えたいという思いもあります。それは端切れ布で小物を作るといったことでなく、例えば振り袖をオブジェとしてリビングに飾るような、着物の芸術性を生活に取り入れる新しい提案です。
日本和装の広告は、「着物を着ませんか」「習いましょう」といった呼びかけはしません。例えば「春は、日本和装から。」といった、少し突き放した表現を使っています。日本人が着物を着るのは当たり前のこと。そのことに多くの方に気づいていただきたいと思います。
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20代で会社を立ち上げて以来、仕事一本で走り続けたという吉田社長。「ようやく最近、家族や友人と過ごす時間を大切にするようになりました」。休日は購入したばかりの小型船舶の練習に費やす。「子供たちと海で過ごす時間に、最高の幸せを感じます」。45歳。
- 略歴
- 1986年7月
有限会社デリコ(舶来品輸入販売業)設立代表取締役 就任 - 1987年11月
個人事業として九州和装振興協会(2003年1月「日本和装振興協会」に名称変更)を創業 - 2003年10月
「日本和装振興協会」および「日本和裁技術院」の事業を統合商号を株式会社ヨシダホールディングスに変更代表取締役社長 就任 - 2006年5月
商号を日本和装ホールディングス株式会社に変更 - 2006年9月
ジャスダック証券取引所に株式を上場 - 2008年3月
100%出資の子会社である「NIHON WASOU USA, INC.」を米国に設立
撮影/星野 章
(『広告月報』2008年07月号)