ダイバーシティーの実践で「選択肢」を増やし、仕事の結果も出す

 親子の笑顔を妨げる社会問題を解決する──。こうした事業ドメインを掲げ、病児保育や待機児童の問題に取り組むフローレンス。実際に子育て中のスタッフの様々な悩みに耳を傾け、考え、ルール化することで、ダイバーシティーを実践。その事例を広く発信している。ダイバーシティーを目指す企業にとっての課題とは。ディレクターの宮崎真理子氏に聞いた。

ダイバーシティーの実践で働き方を変える

──職場のダイバーシティーのために様々なルールや制度を決めたそうですが、その取り組みのきっかけは。

宮崎真理子氏 宮崎真理子氏

 NPOを立ち上げたころはスタッフもまだ少なく、長時間労働も普通でした。そんな中、女性社員が「このままの働き方では続けられない」と結婚を機にやめてしまったのです。非常にもったいないことですし、何よりメンバーが少ない上に優秀な戦力が減ることは経営的に大きなピンチでした。そこで働き方を変えるプロジェクトを立ち上げ、トライアンドエラーを繰り返しながら解決法を探っていきました。

──具体的にどのようなことを実践しましたか?

 たとえば、会議は1時間半以内に結論を出すというルールがあります。これを実践するために、議事録をフォーマット化しました。会議をしながらそのフォーマットを埋めていくことで、議事は円滑に進み、さらに会議終了と同時に議事録が完成します。また、未就学児の子育て中のスタッフが多いため会議は午後6時以降は設定しません。細かいことの積み重ねですが、こうしたことを実践したことで、現在スタッフの平均残業時間は20分を達成しています。

 対象のスタッフが男女とも100%の取得率を達成している育児休暇に関しても、在宅勤務や、育休期間中も週1回出社するというスタイルを採り入れるなど、個々のスタッフの事情や希望を聞いた上で、その人にとって最良の働き方を決めていくようにしています。

──難しかったことは?

会議室に貼り出しているフローレンスのミーティングルール(※拡大表示します)

 業務をシェアすることのハードルは高かったです。その人がいなくても支障がないように1タスク2パーソンで業務をシェアするようにしたのですが、最初は不評でした。誰にでもできるというのはプライドが傷ついたり、すぐに担当を替えるんじゃないかと感じるスタッフもいて。そうではなく、ピンチの時でも休みやすくし、まわりも助けやすい状況をつくるための制度であることを繰り返し伝えました。その上で、空いた時間でその人らしい価値を出していけばいい、と。理解し合うために丁寧なコミュニケーションは非常に重要だと思います。

企業ブランディングに貢献するダイバーシティー

──日本企業のダイバーシティーマネジメントの課題をどうとらえていますか。

 喫緊に取り組まなければならない課題であることは間違いありません。多様なメンバーが活躍できるマネジメントができない企業は、はっきり言って「負け」です。長時間労働で成果を出していくという画一的な働き方しかできないと、活躍できる人がどんどん少なくなり、企業として成果を出せない。結果、経営が成り立たなくなるからです。

 また、ダイバーシティーができるかどうかは、企業のブランディングにも影響を及ぼします。私たちの組織では本部スタッフの採用に困ることがありません。たとえば子育て中の30代の男性で、大企業のコンサルタントや、ウェブマーケティングの経験がある女性などが「ここなら子育てしながら働けるかも」と自ら転職してきてくれる。そのぐらい働き方というのは人生において非常に重要なことで、若い働き盛りの世代ほどワークライフバランスを重視する傾向があります。有能な人材の活用という点でも、ダイバーシティーは企業にとって取り組むべき課題だと考えます。

──企業は、働き方の多様性にどのように取り組んでいくべきだと考えますか?

フローレンスが運営する「おうち保育園」の保育スタッフが全員集まる全社会議 フローレンスが運営する「おうち保育園」の保育スタッフが全員集まる全社会議

 私たちは、自分たちがやってよかったことを積極的に発信し、ほかの企業や組織にもぜひ参考にしてもらいたいと思っているのですが、そのまま同じことをやったとしてもうまくはいきません。業種や職種、都市圏と地方などの違いもありますし、個々の従業員の事情も様々だからです。企業は活躍してほしい人がどういう人なのかを定義し、その人たちが何に困っているのか、ニーズが何かをヒアリングして分析し、自分たちなりのルールや制度をつくっていくべきだと思います。

 そして、重要なのは「選択肢を増やす」こと。ある時期はペースを落としたいという人にも、育児や介護があっても120%の力で働きたいという人にも、望む働き方の選択肢があり自由に選ぶことができる。しかし自分で選んだからには、その働き方で期待されている成果を出してもらう。組織である以上、利益は出していかなければなりません。選択肢もあるけれど結果も求められる。そうでないと続かないし、続けることによって真の意味でのダイバーシティーが実現できると考えています。

宮崎真理子(みやざき・まりこ)

フローレンス・ディレクター

大手アパレルメーカー、ベンチャー企業を経て、2008年に入社。働き方革命、病児保育、小規模保育などの各マネジャーを歴任し、現在は組織運営全般を担当。働き方革命についての講演や女性のキャリア・チームビルディング研修などの活動も行っている。筑波大学大学院教育研究科カウンセリングコース修了。日本キャリア開発協会(JCDA)認定CDA(Career Development Adviser)。2児の母。