トライブは「見つける」から「呼びよせ、増やす」時代へ

 SNSを活用したオンラインコミュニティーをはじめ、様々なコミュニティーが日々生まれている。企業はコミュニティーに対してどのようにアプローチすべきなのか。多くのコミュニティー・マーケティングに携わっている、博報堂コンサルティングの喜馬克治氏、横田康平氏に聞いた。

フェアなコミュニティー運営 ポイントは企業の中立性

──コミュニティー・マーケティングが注目されています。

喜馬克治氏 代表取締役社長 共同CEO 喜馬克治氏

 デジタル化、ソーシャル化を背景に、人々の価値軸が、企業やメディアが編集した情報から、生活者同士が交わした情報へと移ったことの表れで、私自身、ビジネスのコアコンピタンスとして注目しています。(喜馬氏)

 働き方の多様化に象徴される「組織から個人へ」という時代の流れのなかで、個人を軸とするトライブ(人の集まり)がオンライン上に無数に生まれています。トライブ化が進むなかでイケてるトライブはどこかということに人々の関心が集まり、この現象に企業が反応し始めているのだと思います。(横田氏)


── コミュニティー・マーケティングの成功事例について。

横田康平氏 プロジェクトマネジャー/クリエイティブディレクター 横田康平氏

 コミュニティーに参加したい生活者は、企業の中立的な関与を重視しています。CtoCコミュニケーションは、興味を共有する人が結束していく一方、排他的になりやすい。そこを企業がうまくフォローしていくと、参加者はコミュニティーに対して安心感や信頼感が持つことができます。例えばトヨタ自動車が主宰するスポーツカーのファンコミュニティーは、参加者がオンラインアプリケーションを活用してサーキット走行の仲間を募ったり、お花見ドライブを企画したりと、ネットでもリアルでもつながれる仕掛けを作っています。もし個人がSNS上にスポーツカーのファンコミュニティーを作り、その個人の志向が「サーキットを走りたい」というものなら、同じ志向の人同士は盛り上がり、「ドライブ旅行を楽しんでいます」という書き込みは浮いてしまうでしょう。企業の公平な視点によってそうしたことが避けられ、すべての参加者が新しい人との出会いや新しい価値観との出会いを楽しむことができるわけです。(喜馬氏)

 コミュニティー構築においては、ユーザーの来訪動機の設計が重要になります。代表的なアプローチとして、ユーザーが抱える課題解決・実利の提供、そのコミュニティーでしか味わえない共感体験の共有、サービスや企業・代表者の圧倒的なカリスマ性といったことがあげられます。前述のトヨタ自動車の事例は共感体験を、近年増えているオンラインサロンの多くはオーナーの魅力を基点にコミュニティーが形成されています。実利提供方向の事例でいえば、格安スマホのmineo(マイネオ)があげられます。マイネオのコミュニティー「マイネ王」では、ユーザー同士がパケットをシェアし合える「フリータンク」という仕組みがあります。パケットの過不足というユーザーが抱える普遍的な課題解決を通してコミュニティーサイトへの来訪動機をうまく作り、さらにサイトに魅力的なコンテンツをちりばめることで、継続的な来訪を促すことに成功している事例です。(横田氏)

コミュニティ運営における考え方

新聞の地域性と社会性が コミュニティーとの媒介に

── コミュニティー・マーケティングの実務上の留意点は。

 コミュニティー運営上のポイントとしては大きく三つ。一つ目は、専任のコミュニティーマネージャーを置くこと。通常業務との兼務の形で人員を配置するケースがありますが、片手間になりがちな運用だとコミュニティーの火種はすぐに消えてしまいます。二つ目は、立ち上げ時にユーザーの期待値を高めすぎないこと。大きな花火を上げるのではなく、熱狂的なコアファンと小さな規模から始めて、魅力的な場を提供していくことが重要ではないかと思います。三つ目は、短期的な成果を追わないことはもとより、量的成果ではなく、質的成果を注視すること。例えば「100人で100ツイート」よりも「10人で100ツイート」の方が参加者の熱量は高い。経営者はそこを見極めなければいけません。(横田氏)

コミュニティーへの来訪動機付けアプローチ
コミュニティー運営時のポイント

──新聞がコミュニティー・マーケティングに果たせる役割とは。

 新聞が持つ社会性と地域性がコミュニティーとの媒介になるのではないでしょうか。社会的イシューを持った人たちが意見を交わす場を提供したり、地域の情報に興味を持った人々を集めたイベントを企画したりと、コミュニティーの主宰者としてのパフォーマンスに可能性を感じます。(喜馬氏)

 マスメディアの強みとしてはリーチとブランド力。さらに、シニア世代や地方・地域は新聞やテレビ等に対する信頼度は相対的に高い。他方で、現状のコミュニティー参加者は都心・若者層が多い傾向にあるが、シニア世代や地方・地域をどうコミュニティー化していくかはまだまだ取り組む余地があります。そうしたことを鑑みると、シニアや地方・地域に密着したコミュニティー生成において、マスメディアが担うべき機能は大きなニーズがあると思います。(横田氏)

──朝日新聞社は、様々なコミュニティー ・ マーケティングの試みを行っています。

喜馬克治氏横田康平氏

 「朝日新聞DIALOG」は、学生と有識者や企業の実務者とが議論するリアルな接点を提供している、とても面白く有意義な企画ですね。多くの社会課題に向き合う企業と、そうしたイシューに興味を持ってくれる学生による多彩なコミュニティーが発生している。メディアビジネスの枠を超え、企業と優秀な学生を結ぶ人材ビジネスに発展し得るプラットフォームでもあると思います。(横田氏)

──最後に、今後注力していきたいテーマや課題についてもお聞かせください。

 デジタル化が加速するなか、ここ4、5年であらゆる業態のビジネスの構造が抜本的に変わっていくでしょう。企業のデジタルトランスフォーメーションの取り組みに、マーケティングや人材の育成といった側面でコミットしていきたいと考えています。コミュニティー・マーケティングはそのテコになるはずで、今後も注目していくつもりです。(喜馬氏)

喜馬克治(きば・よしはる)

博報堂コンサルティング 代表取締役社長 共同CEO

ビジョン策定から経営戦略、事業開発、組織運営、ビジネスデザインまでを一貫して手がけるクリエイティブディレクターとして実績を重ねる。2016年より現職。直近では主に「社会イシューとブランドの上質な関係づくり」、「デジタル化社会に起因する事業構造改革」をテーマに、多くの企業を実行支援している。

横田康平(よこた・こうへい)

博報堂コンサルティング プロジェクトマネジャー/クリエイティブディレクター

証券会社に入社後、慶應義塾大学大学院にてMBA取得。在学中に3Dプリンター等を活用したWEBサービス会社を起業し、その後現職。現在は企業・事業戦略の立案のみならず、実行フェーズにおけるディレクション、およびクリエイティブワークまで一括して担い、実成果に繋がるブランディング・マーケティング活動を支援する。