メディアの役割はトピックの提供 コミュニティーの形成には全体設計が必要

 商品やブランドのファンやコミュニティーに向けて、プロモーションを行うコミュニティー・マーケティング。ソーシャルメディアの伸長に伴い、その注目度は高まっている。朝日新聞社が展開するバーティカルメディア「ポトフ」のアドバイザーを務める、マーケティングコンサルタントの高広伯彦氏に、コミュニティー・マーケティングの潮流とメディアの意義や目指すべきことなどについて聞いた。

──なぜ、コミュニティー・マーケティングやファン・マーケティングへの関心が高まっているのでしょうか。

高広伯彦氏 高広伯彦氏

 まず、背景にあるのが日本の人口減少です。今後も人口増加が見込めないからこそ、企業は「1人の顧客と長く付き合っていく」ことを重視するビジネスモデルに変わりつつあります。ただ、そのこと自体は、特別に新しいことではありません。顧客が愛用者となってリピート購入し、企業にもたらす利益「ライフタイムバリュー(LTV)」を追求する考え方や、企業が消費者と直接コミュニケーションを図る「ダイレクトマーケティング」などは、インターネットが登場する以前からあります。

 もともと、コミュニティーとは地域や地縁、趣味などを通じたつながりのこと。インターネットとソーシャルメディアが普及した今は、同じ趣味を持つ人や、あるトピックスに関心のある人同士が、簡単に出会い、相互にコミュニケーションがとれるようになりました。そうしたコミュニティーと企業の関わり方は、いくつかあります。特定のコミュニティーに企業が自ら関わっていくという方法や、企業が自社ブランドのコミュニティーを作るといった方法です。

──コミュニティー・マーケティングにおけるメディアの役割は。

 重要なポイントは「メディアそのものは、コミュニティーではない」ということ。メディアは、あくまでもコミュニティーを発生させたり、活性化させたりするための「トピックを提供する装置」という役割です。

メディアとプラットフォームの違いメディアとプラットフォームの違い

 「メディア」と「プラットフォーム」も混同しがちですが、違いは明確にあります。メディアは基本的に制作と配信、どちらの機能も持っています。一方、ユーチューブやインスタグラムなど、ソーシャルメディアのプラットフォームは、そもそもコンテンツは作りません。ソーシャルメディアで話題になるときには、まず、メディアが発信したトピックに反応したユーザーがプラットフォームを活用してコンテンツを自ら作ります。そのコンテンツのテーマに興味や関心のある人が集まってきて、自然と会話が生まれ、コミュニティーが形成されていく、という流れです。

 メディアにおけるコミュニティーは、もう1種類あります。それは、メディアのファンや愛好者によって形成されるコミュニティーです。企業ブランドが作るコミュニティーと同類で、朝日新聞社が運営する「sippo」「DANRO」「好書好日」「なかまぁる」「4years.」といったバーティカルメディアも、その一つ。朝日新聞社はコンテンツをつくる機能があるからこそ、吸引力のあるコミュニティーを構築できる。それは強みだと思います。

 たとえば「telling,(テリング)」では、カテゴリースポンサーであるワコールと手を取り合って、ミレニアル世代の女性に向けたコンテンツを生みだしたり、トークイベントを開催したりしました。「あなただけに言うね」という世界観を有する「telling,」は、読者に語りかけるようなコンテンツによって、読者とスポンサーのコミュニティーを活性化させているのです。

 また、ビジネスパーソンが主な読者の「GLOBE+」では、世界の幅広い視点でいま世の中に起きていることをともに考える場を提供し、コミュニティを通じたコンテンツ作りチャレンジしています。

ビジネスパーソン対象のイベント「GLOBE+ MEETUP Vol.3 /『本屋さんを遊ぼう』」(2019年5月30日開催)

── 特化したテーマで集まってきた読者同士を結びつけるには何が必要でしょうか。

高広伯彦氏

 バーティカルメディアを活用した広告企画をつくるときは、単にページビューや定着率の目標だけではなく、コンテンツについて読者同士が意見交換できる場など、コミュニケーションが生まれる仕組みを含めた全体設計が必要だと思います。メディアと読者の結びつきだけではなく、読者間のコミュニケーションがなければ、マーケティングで有益なコミュニティーとはいえません。

 何らかの共通の趣味や目的を持ち、互いにコミュニケーションの手段があることでつながっている集団は「トライブ」とも呼ばれています。トライブに対してコンテンツを提供し、そのコンテンツによって多くの人がつながり、それがコミュニティーになるという考えがあります。

 現状ではコミュニティーの意味が、拡張されている傾向もあります。コミュニティー・マーケティングやファン・マーケティングに注目が集まっている今だからこそ、コミュニティーやファンとは何か。それが企業のマーケティングに機能するとは、どういうことなのか。そのことをあらためて整理することは、必要なことだと思います。

高広伯彦(たかひろ・のりひこ)

スケダチ代表/マーケティングコンサルタント/社会情報大学院大学客員教授

1970年大阪府生まれ。同志社大学大学院修士課程修了。京都大学大学院経営管理大学院博士課程在籍中。博報堂DYメディアパートナーズ、電通、グーグルを経て、2009年にスケダチを設立。ビジネス開発領域のコンサルティングや各種マーケティングコミュニケーション企画やコンサルティングを手がける。 2012年に日本初のインバウンドマーケティング及びB2Bデジタルマーケティング支援企業「マーケティングエンジン」を立ち上げる。著書に『次世代コミュニケーションプランニング』、『インバウンドマーケティング』(共にSBクリエイティブ)ほか。現在、社会情報大学院大学客員教授も務める。