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「BOP マーケティング」

電通 マーケティングソリューション局 第3マーケティングディレクション室 室長 尾股 宏氏
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 BOP(注1)はボトム・オブ・ザ・ピラミッドの略称。一人当たりの年間所得(購買力平価)が3,000ドル以下で生活する階層のこと。世界のおよそ40億人がこの階層にいる。BOPをターゲットにしたマーケティングをBOPマーケティングと言う。

 機会と脅威はコインの表裏のように常に一体関係にある。グローバリゼーションにもまた機会と脅威がある。グローバリゼーションという不断の運動により、購買力を持った中間層が新興国に誕生していることはマーケティング上の大きな機会である。反面、それにより格差問題・貧困問題が生まれていることは世界にとっての大きな脅威であろう。発展や繁栄の影で置き去りにされる人々が常にいるということである。

 BOPマーケティングはC.K. Prahalad(注2)の著作『THE FORTUNE AT THE BOTTOM OF THE PYRAMID』(Wharton School Publishing,2004年)から生まれたマーケティングコンセプトである。同著のテーマでありBOPマーケティングの根幹を成すコンセプトは、こうした人々に真剣に向き合い「利益を追求することで貧困をなくすことを目指す」という崇高な哲学である。

 私が最初にこの考えに触れたのは2001年スイスのビジネススクールIMD におけるNimalya Kumar 教授(当時)によるマーケティングのケーススタディーだった。同著にも登場するケースは、Dr.Govindappa Venkataswamy(1918-2006年 通称、Dr.V)が設立した南インドのAravind Eye Hospital(タミルナド州マデュライ)を題材にしたものだった。

 インド在任中にこの病院を一度訪ねたことがある。同病院が実践しているのは、白内障を罹患(りかん)したすべての人に差別なく治療を提供する医療である。貧しい人にも豊かな人にも医療を提供することが同病院の卓越した提供価値(Product)である。秀逸なのは価格設定(Price)。貧しい人には無料で、裕福な人には有料で治療を提供している。病院施設も有料・無料どちらの患者にも対応した運営が行われている(Place)。病院に通うことができない患者のためには、Eye Campという移動式簡易治療キャラバンも実施しており、無料での診療・治療も用意されている。キャラバンを通じてできるだけ多くの患者に白内障の治療機会を提供するとともに、「白内障は治療で治る」という啓蒙(けいもう)活動(Promotion)も行っているのである。

 Dr.Vが目指した究極のゴールは白内障による失明を撲滅することで「視力と職を失わない世界」をつくること、そしてそれにより貧困の撲滅を目指すことである。

 BOPマーケティングとは実は特別なマーケティングではなく、マーケティングの4P(Product, Price, Place, Promotion)を忠実に実践することに他ならない。従来のマーケティングと大きな違いがあるとすれば、それは、究極目標が「利益を追求することで貧困をなくす」ことに据えられている点である。一見、二律背反しそうなテーマの追求を通してマーケティングで世界を救おうとする優れた試みなのである。

(注1)BOPについてはベース・オブ・ザ・ピラミッドという言い方もある。

(注2)C. K. PrahaladはGary HamelとのHarvard Business Review誌での共著『The Core Competence of the Corporation』(1990年)で、コア・コンピタンスというコンセプトを世に問うたことでも有名。

尾股 宏(おまた・ひろし)

電通 マーケティングソリューション局 第3マーケティングディレクション室 室長

1988年電通入社。国内子会社、営業部門、スタッフ部門などを歩んだ後、2009年10月~2013年11月までインドの電通子会社・電通マーコムで副社長・社長(COO、CEO)を歴任。帰国後、2014年7月に現在の局が設立されると同時に現職。電通の基幹クライアントのマーケティング4P課題全般に対応する室を経営。2002年、会社派遣によりスイスのビジネススクールIMDでMBA取得。

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