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「トキ消費」

博報堂生活総合研究所 上席研究員 酒井 崇匡氏
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同じ志向を持つ人々と一緒に、その時、その場でしか味わえない盛り上がりを楽しむ消費。モノ消費、コト消費の次の消費スタイル。ハロウィーンやアイドル、クラウドファンディングのムーブメント、各種の総選挙イベントなどが代表的な事例。

 「トキ消費」は、スマートフォンとSNSが浸透した現在、広がりつつある新しい消費スタイルである。モノからコトへの消費の変遷が提唱されて久しいが、トキ消費はその次に来るものと位置づけることができる。

 モノからコトへの変遷は1990年代後半から本格化したと言われている。その背景には、生活が豊かになるにつれモノが行き渡ると、希少性など所有欲を刺激するアプローチでは生活者の消費が喚起されにくくなったことがある。

 「モノより思い出。」という99年の広告コピーに代表されるように、モノを売るにしても「心に残るコトをしたい」という体験欲をいかに刺激するかが重要になった。

 しかし、スマートデバイスが登場し、特に2010年代に入ってからは人々の体験に関する情報がSNSなどに氾濫(はんらん)し、誰もが疑似体験できるようになった。その結果、様々なコトに既視感が強まって、人々の「それ、やってみたい!」という欲求が生まれにくくなっている状況がある。何とかその欲求を喚起しようと、企業はインスタ映えする商品やその他の施策を必死に考えているが、近年のヒットはそれだけでは本質を捉えきれない事象も現れてきている。


 例えば、ハロウィーンの時に仮装した人々が渋谷のスクランブル交差点周辺に自然と集まり、見知らぬ人とハイタッチを交わす行動。今そこにしか生まれない「トキ」を楽しむという意味で、同じ体験が何度でもできる従来のコト消費とは一線を画している。

 これは、メンバーが一人前になっていく成長プロセスがファンの心を捉えている近年のアイドルグループや、映画『この世界の片隅に』を制作・公開するためのクラウドファンディングの盛り上がりにも共通の要素が見て取れないだろうか。

 博報堂生活総研の調査では、このような行動は特に若年層に顕著に現れ始めており、例えば「同じ趣味嗜好(しこう)を持つ人達が集まるイベントへの参加経験」は、20~60代全体で28%だが、20代で38%となっており、「今後の参加意向」も半数を超えている。

トキ消費に関する行動

(博報堂生活総合研究所調べ:20~69歳/男女1500名/東名阪3都市圏/2018年1月調査)

 これらのヒットに共通しているのは、どんな要素だろうか。

 まず一つ目に挙げられるのは、「非再現性」である。無作為的な人の集合や、アイドルの成長や映画の製作など、その時を逃すと同じ盛り上がりや同じ感動は二度とできない、という点が従来のコト消費と大きく異なっている。

 二つ目は「参加性」だ。先に挙げた事例では、コスプレ好きやアイドルファン、映画の原作となったマンガのファンなど、同じ志向を持つ人々が同じ目的やゴール意識を持って集い、全体を盛り上げているという構造が共通している。単なる来場者、傍観者としてコンテンツを消費するのではなく、生活者が主体的に参加できる運動体としての側面が強いのだ。

 そして三つ目は「貢献性」である。ハロウィーンの仮装やアイドルの総選挙への投票、あるいはクラウドファンディングへの出資など、運動体に参加するために行う行動が明確に設定されている。参加者は自分がその盛り上がりに貢献していることがはっきりと実感できる。

 「非再現性」「参加性」「貢献性」という3つの要素を併せ持った仕組みによって、モノもコトも氾濫(はんらん)する時代の中で、今この瞬間にしか起こらない大きなムーブメントを生み出す「トキ消費」が立ち上がってきている、と捉えられるのだ。


 広告コミュニケーションでも、トキ消費のアプローチが生まれてきている。例えば、某ハンバーガーチェーンが実施した「ハンバーガー生き残りキャンペーン」は、スタッフからの人気が高いものの売り上げは最下位というハンバーガーを、「約2カ月の期間中に、売り上げランキングで8位以上に入らないと販売終了」と打ち出した。結果は、多くの人がそのハンバーガーを食べるためにお店に足を運び、見事にランクインしたことで販売存続が決定。さらに店舗への客数増にもつながった。「もう食べられなくなるかもしれない、スタッフに一番人気のハンバーガーの生き残りをかけた投票」という非再現性と参加性、貢献性が分かりやすい好例だろう。

 これからの時代、生活者の欲求はどこへ向かいどのような消費行動をするのか。「トキ消費」の研究をさらに進め、その行方を探っていきたい。

酒井 崇匡(さかい・たかまさ)
酒井 崇匡氏

博報堂生活総合研究所 上席研究員

2005年博報堂入社。マーケティングプラナーとして諸分野でのブランディング、商品開発、コミュニケーションプラニングに従事。
2012年より博報堂生活総合研究所に所属し、日本およびアジア圏における生活者のライフスタイル、価値観変化を研究。
専門分野はバイタルデータや遺伝情報など生体情報の可視化が生活者に与える変化の研究。
著書に『自分のデータは自分で使う マイビッグデータの衝撃』(星海社新書)。

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