「シェアリングエコノミー」

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シェアリングエコノミーとは、モノやスキルなど、個人や会社などが持つ資産を交換やシェア(=共有)することで成り立つ経済の仕組みのこと。最近耳にするサブスクリプションや、MaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス=Mobility as a Service)などの領域においても、効率化の観点からみて、シェアリングエコノミーは相性が良いとされる。

 私個人が「シェアリング」ときちんと意識して利用したのは2015年にスタートしたドコモの電動付き自転車シェアリング「バイクシェア」だったかもしれない。広告会社の営業だった私は、運動したいが夜に急な会食に誘われるときなど、自転車を駐輪場にそのまま置いて帰ることに気が咎(とが)めていた。電動付き自転車を借り、乗り捨てできる仕組みは、駐輪場も自転車本体も、また自分の活動の制約から解放されるという意味でも最適なシステムだったと感じ利用を始めた。シェアリングエコノミーに関しては、シェアリングエコノミー協会はじめ様々な説明がすでに存在するため、今回は広告やマーケティング目線からのさわりとして紹介したい。

 グローバルでも注目される「シェアリングエコノミー」という言葉は「モノ」と「コト」の二つの観点から考えられるのではないだろうか。日本においても下記のような領域マップが示されていることからも、その範囲が拡大していることがわかるだろう。

(資料:シェアリングエコノミー協会/2019年1月7日)

 まずモノに関しては、車のレンタルや洋服や嗜好品(しこうひん)などの共有、レストランの余った食品の活用などがここに入る。シェアリングエコノミーの導入で先行する米国の事情を考えると、人口増加による食料や資源不足、居住スペースの縮小化、通勤時の渋滞や混雑への対応などが背景にあり、それらを解決する手段として様々なサービスが現れたといえる。たとえば、「nearMe.」というタクシーの相乗りアプリがある。タクシーの実車率が40%台で、合わせてドライバーが不足しているという現実に対して、通常のライドシェアとは異なり、ユーザーにとっての便利さやお得感はもちろんのこと、タクシー資源の有効活用という形で需給バランスの最適化に貢献しようとしている。ここで強調したいのは、既存資源の効率的な活用法が、モノのシェアリングの一つの側面であるという点だ。レストランの閉店間際に余った食事を安く提供する「Tabete」もそうだ。彼らのサービスを初めて知った時、フードロスの多い日本で、廃棄されるもので他の誰かがハッピーになる仕組みだと感動した覚えがある。

 ではコト目線での背景はどうか。上記のマップにおけるスキルシェアに、コトのシェアリングが匹敵するだろう。これは特に今後労働力が減る日本においては重要な概念になると考えられる。パーソル総合研究所と中央大学が今年3月に発表した「労働市場の未来推計2030」によると、時給換算で平均賃金を240円上げたとしても、労働需要と供給を考えると2030年には644万人の人手不足が発生するという。

(参考:2020-2030年は「労働市場の未来推計2030」における研究の推計結果。2017年実績は厚生労働省「雇用動向調査(未充足求人数=人手不足数)」、「賃金構造基本統計調査(所定内賃金、所定内実労働時間)」、総務省統計局「消費者物価指数」)

 この場合の計算は2030年ではあるものの、加速する日本の高齢化を考えると人手不足は今まさに顕在化している問題でもある。一連の働き方改革や女性、シニアの雇用・就業支援、外国人労働力の活用など様々な方策が唱えられているが、子育て環境や雇用形態などの問題もあり、現状では決定的な処方箋がないと思われる。そうした状況を解決する術として、特に労働力人口が減る日本においてスキルシェアは新たな経済、そして経済圏を生むことになるのではないか。能力や意欲を持った人材を適切に配置するスキルシェアリングにより、一人ひとりのやりがいや得意不得意、好き嫌いなど個々人の価値観に寄り添った新たな働き方も生まれるのではと考える。

 広告業界でも、様々な出来事があったことも踏まえ、昨今強く働き方改革が推進されているように感じる。その働き方改革、そして実際のマーケティング活動においても、市場の独占や販売、境界線を作る「囲い込み」の発想だけではなく、「シェア」することで経済が活性化されるという新しい価値観へのシフトがはじまっている。そうしたことも念頭に置き、人々のユーザーエクスペリエンスをプランニングしていくべきだと強く感じている。

【 参考文献 】
  • パーソル総合研究所・中央大学(2019)「労働市場の未来推計2030」
  • シェアリングエコノミー協会(2019)「シェアリングエコノミー領域map」※野村総合研究所調べ
  • TAXI Today(2018)※タクシー実車率とドライバー不足の割合
  • 石山アンジュ(2019)「シェアライフ」株式会社クロスメディア・パブリッシング
  • 日高洋祐、牧村和彦、井上岳一、井上佳三(2018)「MaaS モビリティ革命の先にある全産業のゲームチェンジ」日経BP社
寺西藍子(てらにし・あいこ)
寺西藍子氏

ADKマーケティング・ソリューションズ SCHEMA プロジェクト マネジャー

日本、グローバル企業の国内外のマーケティング活動を担当。ラグジュアリーブランド8年、ロボティックスプロジェクトにも携わり、2017年より新規事業開発に従事。日本のスタートアップと大企業のエコシステムを成長させるべく、ブランディング×テクノロジーの目線で事業開発を担う。
講師:亜細亜大学経営学部、理化学研究所、ADFEST Young Lotus