コミュニケーションを続けることで得られるもの

 先日、新聞広告の効果について、「新聞広告は漢方薬と同じ」という言葉を耳にした。2つに共通しているのは「効果がジワジワとやってくること」。なるほど、言い得て妙である。他のメディアに比べて、しっかりと着実に構築することに適したメディアだと考えられる。時間をかけて継続して訴えることにより、企業と生活者の間に、より堅いきずなを結ぶことが可能になるはずだ。
 回転寿司店を展開する「くらコーポレーション」(くら寿司)の事例を見ていく。

◆ 夕刊テレビ面広告が読者に定着したくら寿司

2月12日付 夕刊 大阪本社版 2月12日付 夕刊 大阪本社版

 くら寿司は、3年ほど前からほぼ毎月、夕刊テレビ面を中心とした出稿を続けている。2006年10月、2008年3月、2009年2月の掲載に合わせて、それぞれ広告モニター調査を実施してきた。

 継続した広告の効果は、広告接触率のスコアに表れている。2006年10月は71.6%だったが、2008年3月には75.3%、2009年2月は80.6%と着実に上がってきた。

 今回(2009年2月調査)の自由意見には、「時々今回のような広告が出ているように思います」(62歳男性)や、「いつも『くら寿司』の新聞広告は大きな写真入りなのでよく目立つと思います」(52歳女性)といった声が散見され、これまで出稿されたくら寿司の広告が読者の記憶に残っていたことがうかがえる。また、「いつもデザートが2~3種類掲載されているのに、今回は1種類しか掲載されていないのが気になった」(36歳女性)という具体的な声もあり、くら寿司から届く定期的なメッセージが、読者にきちんと受け止められていることが分かった。

◆ 継続的な出稿がブランド価値向上につながる

 くら寿司を始めとする、11店の外食店について、「おいしいと思う店」「雰囲気や接客がよい店」「『お得だ』と思う店」をそれぞれ尋ねたところ、いずれの項目でもくら寿司は1~2位に挙がった。実際の利用状況をみても、くら寿司を利用する人は増加傾向にあるようだ。

 また、広告接触後の利用意向についてを、「ぜひ利用したい」と「機会があれば利用したい」を合わせたくら寿司の来店意向率は、2008年の72.3%から2009年は77.5%へと上昇している。特に、「ぜひ利用したい」人は21.5%から30.0%と大きく伸びており、積極的な来店意向者が増えていることが分かった。

 くら寿司はお得なキャンペーンを前面に出すなど、即時的な販促効果を狙った広告展開をしているが、継続的に夕刊テレビ面という定位置で訴求することによって、ブランド価値向上につながっていることが分かる。

◆ 環境活動の熱心さが伝わりつつあるJR西日本

 JR西日本は10月下旬から3月にかけて、自社の環境への取り組みを紹介した全15段多色広告を4本掲載した。それぞれの掲載翌日に、JR西日本など環境への取り組みを進める5社に関して、モニター調査や面別接触率付帯質問調査で、各社がどの程度環境への取り組みが熱心と思うかを尋ねた。JR西日本の環境広告掲載の翌日のため、JR西日本が高くなりがちなのは否めないが、調査対象者を4回とも変えることにより、バイアスがかかることは防いでいる。

 3回目の掲載までは、「非常に熱心だ」と「まあ熱心だ」を加えると、A社(家電)、B社(自動車)、C社(エネルギー)、D社(食品)、JR西日本の順だった。JR西日本以外の4社のスコアは横ばいか微減傾向が続いているが、JR西日本はスコアを伸ばしてきて、2009年3月調査ではD社を抜いて4位に浮上した。

 「ずっと青い空と走るために。」をキャッチフレーズとして、環境コミュニケーションを始めたJR西日本。同社では2011年春を目指して大阪駅を環境に配慮した駅へとリニューアルしていることもあり、今後も環境コミュニケーションの継続を検討しているようだ。継続したコミュニケーションにより読者に蓄積されていくイメージの変化について、今後も注目していきたい。

JR西日本

2008年12月14日付 朝刊

2008年10月26日付 朝刊

2009年3月1日付 朝刊

2009年2月1日付 朝刊

 未曽有の経済危機と世界中で叫ばれ、先の見えない景気状況下では、企業も必要以上に警戒心を高めて、大幅な支出削減をしている。この支出削減の対象としてまず挙げられるのが3大コスト=3Kといわれる「交通費、交際費、広告費」だ。実際、多くの企業が広告宣伝費削減に大鉈(おおなた)を振るっているが、果たして本当に広告はコストだろうか。余剰利益があるから実施するものだろうか。それならば、市場戦略の4Pの1つ「Promotion」は成立しないはずである。

 広告とは「投資」だ。「広告の効果が見えにくい」としばしば指摘されることがあるが、くら寿司とJR西日本の事例から、商品広告でも企業広告でも、継続的なコミュニケーションによって、効果が期待できることが分かった。継続的な投資があるからこそ、顧客とのコミュニケーションは活性化し、ロイヤリティーの高い顧客へと育ち、企業ブランドが確固たるものになるとも言える。厳しい時代だからこそ、一貫したポリシーを持って継続した広告展開こそが広告効果を高めるのではないだろうか。そのような示唆を、今回の2つの事例から得ることができる。