インターネットの浸透を受けて、マスメディアの価値が問い直されている。新聞はここ数年「元気がない」とも言われるが、どうなのだろうか。むしろ、今こそ新聞にしかない価値が生まれているのではないか。博報堂DYメディアパートナーズは、それを調査データから検証するべく「新聞メディア価値調査」を実施。調査結果をも「世 (よ)メディア」プロジェクトを開始した。今回、活動内容・結果概要について、新聞局開発部部長の原口誠氏、メディア・コンテンツマーケティング局メディアプランニングディレクターの田中淳氏にお話を聞いた。
強みは「一覧性」と「出会い頭効果」
──「新聞メディア価値調査」の目的、調査ポイントは。
新聞の魅力を掘り下げる上で、「信頼性」という従来から言われてきた特性だけでなく、コンテンツも広告も活性化するような新しい価値を見つけたいとの思いがありました。また、企業の広告戦略においてインターネットとかけ合わせで新聞が採用される可能性が高まっていることをふまえ、ネットとの対比を明らかにする狙いもありました。
──「世メディア」という言葉が生まれた背景は。
ネットを通じて興味のある情報はどこまでも探索でき、個人がメディアの発信者にもなれるというメディアの「パーソナル化」が進む一方で、「世の中は今どうなっているのか?」ということは、かえってわかりにくくなっています。 情報過多の時代だからこそ、新聞のメディア価値は「世の中の全体像が一目でわかる」「世の中の話題の起点になる」ということではないかと考え「世メディア」と名付けました。
── 調査設計のポイントは。
まず、一般紙の定期購読者(20〜49歳男女/1グループ8人、計4グループ32人)を集めてグループインタビューを実施。「新聞=世メディア」という視点で質問をしました。その際に出てきた「投稿欄の質が高い」「モバイル型メディアである」などの新たな発見を加味した上で、首都圏・京阪神圏の15〜69歳男女を対象に、定量調査を実施しました。
── 調査を通じて分かった新聞メディアの特性や役割は。
新聞、雑誌、テレビ、ラジオ、インターネット(PC)、インターネット(モバイル)を比較し調査したところ、「世の中で何が起こっているかを知ることができるメディアは?」「新しい問題を多く投げかけているメディアは?」「誰と話しても恥ずかしくない話題が入手できるメディアは?」といった問いに対し、新聞は軒並みトップでした。中でも、「世の中の流れを手っ取り早く把握できる」という「一覧性」と、「自分の想像や興味の範囲を超えた発見がある」という情報の「出会い頭効果」(図1)は、目的を持った情報検索に優れるインターネットと対極にある価値として注目の結果でした。また、若者が新聞を読まなくなったと言われる中、親からの 「自分の子ども(孫)に新聞を読ませたいと思う」という回答、一方、子ども(孫)側の「大人になったら新聞を読んでいたい」(図2)という回答はともに高く、親 から子へと読み継がれていく、世代を超えた普遍性も魅力の一つだと確認されました。
広告との垣根が低い「地続きメディア」
── 調査を通じてわかったコンテンツと広告の関係は。
従来から新聞広告のセールストークであった「信頼」「安心」は-依然として全メディア中トップでしたが、新たな発見として、「広告が邪魔にならないメディアは?」(図3)、「コンテンツに接している時と広告に接している時とで気持ちや態度が変わらないメディアは?」という問いの答えもトップは新聞でした。このことから、新聞は広告に対する垣根が低く、記事の隣にある広告にもつい見入ってしま「地続きメディア」であることが明らかになりました。
── この調査結果を活用した今後の展開は。
この調査結果を受けて、広告特集「わかるわかる運動」を、朝日新聞社と進めています。10年前に発足した企画で、もともとは企業の情報開示や自己責任を問う世の中の風潮に呼応したキャンペーンでしたが、今年から「世メディア」の結果をあわせ、リニューアルすることになりました。自分にとって価値のある情報がわかりにくくなっている中、「わかりたい生活者」と「わかってほしい企業」をつなぐアイコンとして、新聞メディアの価値を広告主にアピールしています。
── 今後の課題は。
次の段階としては、今回抽出された新聞メディアの価値を生かした広告企画の開発が必要です。クリエイティブと一体になり、効果的な事例を一つでも多く生み出していきたいですね。
── 新聞に期待することは。
広告と販売とがもっと一緒になって新聞の活性化に努めていく姿勢が大事だと思います。各紙とも拡販のためのテレビCMや交通広告などを実施していますが、「新聞を読まない男性とは自分の娘を結婚させたくない」(72%)など、「世メディア」のデータを生かせばよりアピール度の高いメッセージになるのではないでしょうか。また、雑誌のように読者の声を紙面に反映するような工夫にも期待しています。