潜在意識と本人の発言による違いはあるか?

 アンケートやインタビューなど従来の調査手法では消費者の本音がとらえきれないといわれる今、朝日新聞社では、新聞読者の潜在意識に迫る取り組みを始めている。第1回では、自動車の新聞広告を題材に行ったニューロマーケティング調査の概要を紹介した。アイトラッキング(視線計測)と脳波測定の組み合わせにより、視線の動きやエリア別の注視時間、「もっと見たい、もっと知りたい」という興味関心度を測定。読者がどの部分をどのくらいの時間見たか、どの部分を見ているときに興味を示したかなどを検証した。調査結果から、クリエーティブ要素では「文章(ボディーコピー)」「値段・パッケージ」「車の写真」「キャッチコピー」が長く読まれ、これらの部分を見ているときに興味関心度が高まる傾向が確認できた。
  それでは、潜在意識の現れともいえるニューロ調査の評価と、顕在化した本人の発言による評価とでは、違いがあるのだろうか? 第2回となる本稿では、同時に実施したインタビューの発言を参考にしながら、ニューロ調査の結果を考察してみたい。

対象者Aさんのケース

 まず、前稿でも紹介した対象者Aさん(50歳、男性)のニューロ調査の結果から見てみたい。
  今回の対象広告は「アウディ ジャパン」の全15段広告。内容はアウディがルマン24時間耐久レースで優勝したことを告知するものである。左上にキャッチコピーと文章が、中央やや下に車の写真が配置され、余白を生かしたクリエーティブが洗練された印象を与えている。文章の部分では、アウディが追求してきた理念や革新的な技術についての説明が表現されている。
  図1は注視時間をエリア別に比較したものである。もっとも長い時間見られたのは、左上の文章(ボディーコピー)で23.8秒、続いてキャッチコピー(11.6秒)、車の写真(6.3秒)の順となっている。今回の広告の一番のニュースともいえる、左下のルマン優勝告知の部分(実績紹介)は4.1秒であった。

 それでは、視線はどのように動いたのであろうか? 動画1から、脳波測定による「興味関心度」の変化とともに見ていこう。まず、目に留まったのは車の写真で、すぐにルマン優勝告知も確認。広告を見始めてから5秒後には興味関心度が100%に達した。「人がどこまで走ってきたか、で、車がどこまで走っていけるか、が決まる。」というキャッチコピーが高い興味関心を引いたようだ。その後、視線は会社のロゴやサブコピー、実績紹介などを行ったり来たりしたが、26秒あたりから文章の部分にとどまり、約20秒間にわたって、アウディのメッセージをじっくりと読んでいる様子がうかがえた。いったん下降していた興味関心度も文章を読むことで上昇に転じ、キャッチコピーに再び目が留まったとき、興味関心度は80%を超えた。前稿で触れた日本新聞協会「2011年元日新聞広告 脳波&アイトラッキング調査」の報告書で提示されたように、コピーを読むことで興味関心度が上昇する傾向が見て取れる結果となった。

●動画1

「自動車新聞広告ニューロ調査」

<グラフの見方>
・縦軸:興味関心度(0~100%)の推移を表す。
・横軸:時間の流れ(0~60秒間)を表す。
<興味関心度の定義>
「もっと見たい、もっと知りたい」という欲求を興味関心度と定義し、80%を超えたときを「興味あり」とした。

 Aさんのニューロ調査の結果は全般的に好意的なものであったといえるだろう。キャッチコピーや車の写真を見ているときに興味関心度が高い値を示しており、脳波が反応するクリエーティブの要素にも一貫性があった。
  それでは、Aさんはふだん、新聞や新聞広告をどのように見ているのだろうか? ニューロ調査後に行ったインタビューでは、自ら「新聞の大ファン」と語っている。新聞の読み方は、1面の大きな見出しから。全部見て興味があったら読み、社会面、経済面と一通り、約1時間をかけてじっくりと見ている。自動車の広告については、「ドーンと出ていれば目に留まる。車があり、新登場など大きな文字があると見る。細かい文字はあまり読まないが、オッと思う」と話す。自らエコカーを運転することもあり、ハイブリッドカーの話題など「興味があるものであれば全部読む」とも。今回のニューロ調査の結果にあてはめると、最初に車の写真に目が留まったこと、ルマン優勝告知やキャッチコピーなど大きな文字を見ていることは本人の発言通りといえそうだ。もっとも長く読まれた文書の部分については、「細かい文字は読まない」との発言と異なるものの、この部分を読んでいるときの興味関心度が上昇していることから、「興味があるものは全部読む」という言葉を実証する形となった。

対象者Cさんのケース

 次に、Cさん(42歳、男性)のケースを見てみたい。動画2はCさんの視線と興味関心度の動きを見たものである。

●動画2

「自動車新聞広告ニューロ調査」

 はじめの数秒間、視線はサブコピーや会社ロゴ、問い合わせ先に動き、安定していない。その後、キャッチコピーを見て文章の部分に20秒以上とどまり、じっくりと文章を読んでいる様子がうかがえる。その間、興味関心度は10%~50%で推移。決して高い値ではないものの、キャッチコピーや文章を見ているときは興味関心度が中程度まで上昇した。文章を読み終わると、ルマン優勝告知や最下部の補足情報、会社ロゴを見て、最後に車の写真を改めて確認した。興味関心度は適度に振幅したが、「興味関心が高い」と判断する80%には一度も達していない。しかし、前述した日本新聞協会の調査で確認されたように、興味関心度が上昇局面で終わる「ラストインプレッション効果」が見られた。
  それでは、Cさんはこの広告について、どのように感じているだろうか? 調査後のインタビューから、発言を確認してみよう。
  Cさんは、ふだん自動車の広告について、「全面広告は目に留まる」「デザインがよければじっくり見る」「価格を見る」と話している。アウディの広告の第一印象は、「ぱっと見て文字が多い」という反応であった。さらに、「アウディの広告であることが分かりにくい」という点も指摘。アイトラッキングの結果を見ると、広告を見始めてからいろいろな部分に視線が動き、50秒あたりでようやくアウディの会社ロゴをじっくりと見ており、アウディの広告だと理解するのに時間がかかった様子がうかがえる。また、「文字が多い広告はあまり見ない」という言葉通り、興味関心度は中程度以下で推移しており、本人の発言とニューロ調査の結果はほぼ一致しているといえそうだ。一方で、文章を読んでいるときに興味関心度が上がる場面もあり、潜在意識による関心を示す一端も見られた。
  以上、2つのケースでは対象者の発言と脳波やアイトラッキングの反応がほぼ連関していたが、両者の結果は必ずしも一致するとは限らない。最後に、2つの調査結果の関連について、比較、検証しておきたい。

ニューロ調査とインタビューの発言の比較

 今回のニューロ調査では、対象者12人に対して、それぞれ10点の新聞広告を見てもらった。そのうち、同じ広告についてインタビュー形式で話を聞いたのは、のべ22点である。
この22点に対して、ニューロ調査と本人の発言による評価をそれぞれ、高・中・低に3分類(※)して評価が一致したかどうかを比較した(図2)。

図2 ニューロ調査とインタビューの発言の評価比較 図2 ニューロ調査とインタビューの発言の評価比較

インタビューでは、グループ6人のうち2人以上が最も気に入った広告としてあげた広告を「高評価」、グループ内で2人以上が気に入らなかった広告としてあげた広告を「低評価」、それ以外の広告は「中評価」と定義。ニューロ調査では、興味関心度の平均値を偏差値化し、55を上回る場合は「高評価」、45以上55以下は「中評価」、45未満は「低評価」とした。

 ニューロ調査、インタビューの評価が一致したのは5点にとどまり、残る17点は評価が一致しなかった。前述の2つのケースは、むしろ少数派である。
  両調査ともに高評価だった事例では、電気自動車に関するQ&A形式の記事体広告について、対象者Dさん(45歳、男性)は「興味のあるテーマ」「分かりやすい」とポジティブな発言をし、脳波でも高い興味関心度を示した。逆に、ネガティブな反応が一致したケースもある。Dさんは別の広告に対して、「車の広告ではなく企業広告に見える」「この広告を見ても『はぁ・・・』で終わり」と発言。脳波を確認すると、興味関心度は0~30%と低調で、車の写真やコピーを読んでいるときでさえ興味関心度が下降する結果となった。また、タレントが掲載された広告について、「自分向けの車ではないので見ない。タレントも自分向けではない」と興味を示さなかった対象者Eさん(35歳、男性)は、アイトラッキングでもタレントの部分をほとんど見ることはなく、自分で話すように、自分向けでないものは見ないということが確認できた。
  一方、ニューロ調査とインタビューの内容が一致しないケースは全体の大半を占めている。評価が一致しなかった17点のうち、ニューロ調査のほうがインタビューより高評価を得た事例は11点を数えた。「車の色が派手で好きでない」とインタビューで発言した対象者Fさん(41歳、男性)が脳波では高い興味関心度を示すなど、インタビューでは低評価だった事例でも脳波では好反応を示す場合も目立った。ニューロ調査の結果をどのように読み解くかは課題だが、読者の潜在的な意識を探るきっかけにはなりそうだ。逆に、ニューロ調査ではほとんど反応しなかった広告について、「分かりやすい」「よい印象を受ける」と答えたケースも見られた。
  このように、インタビュー(定性調査)の結果とニューロ調査の結果との関連は様々で、類型化できるまでには至っていない。しかし、一つの結果だけで判断するのではなく、多面的な視点を持つことの重要性を示唆しているといえるだろう。

 ニューロマーケティングの実験的な取り組みはまだ始まったばかりで、まずは知見を蓄積していくことが第一歩であると考える。従来型の定量調査や定性調査と新たなニューロ調査、それぞれの特性を理解したうえで結果を考察し、潜在意識やインサイトを発掘の端緒にしていくことが重要であろう。今後も、調査を組み合わせながらそれぞれの結果を注意深く考察していく必要がありそうだ。

 前稿と本稿では、ニューロ調査の概要やクリエーティブ要素の見られ方を紹介した。次回は自動車広告編から広告の題材を変えて、新たな視点に迫りたい。

(業務推進部・遠藤)

《調査概要》
【調査期間】 2011年3月13日、20日、21日
【調査手法】 脳波測定およびアイトラッキング。自動車の新聞広告10種類を順に閲覧し、脳波(興味関心度)と目の動きを計測した。計測後にはインタビューを実施
【調査対象者】 1都3県に在住する30~50代の朝日新聞購読者12人。自家用車オーナーで主に自分が運転する人、自動車の買い替えにある程度関心がある人を対象とした
【調査企画】 朝日新聞東京本社広告局
【調査実施機関】 大日本印刷