検索を促す3つのクリエーティブインサイトを紹介
これまでの連載((1)『新聞閲読者の検索行動の量的、質的アプローチ』、(2)『新聞閲読者の検索行動の特徴とは』)からの報告を通じ、量的、質的側面から新聞閲読者の検索行動の特徴を報告した。そして、(3)『新聞閲読者を動かす新聞広告の特徴1』では、新聞閲読者の「社会的な興味」といった特徴に着目し、掲載の前後で検索数が上昇した事例について、3つのカテゴリーに整理した。
1、ソーシャルイシュー系:読者があらかじめ関心を持っている社会的事柄や関心事に関するメッセージ(例えば、環境、健康、食料など)
2、事件性・時事性インパクト系:新聞広告の露出のタイミングに意味性が大きく、露出の仕方にインパクトを伴うメッセージ
3、プラスワンニュース系:誰もが一定の関与があるブランドや概念に新しい要素が加わり、周りの人に取り残されないように知っておきたいと感じるメッセージ
今回は、残りの「プラスワンニュース系」の分析事例を紹介する。さらには、この3カテゴリー以外の検索数上昇事例についても数点紹介したい。
「プラスワンニュース系」広告:◎ユニクロ
これまで同様、朝日新聞、読売新聞、日本経済新聞のうち、当該広告が掲載された新聞の閲読者(以下、『当該紙閲読者』)を対象に、「dentsu-CONNECT MEDIA®」(※1)で分析した。広告コピーから検索ワードを抽出し、「広告掲載日前7日間(掲載日含まず)」の1日平均検索数と、掲載後3日間(掲載日含む)の推移を比較した。
ユニクロのブランド「UT」「ヒートテック」の事例では、当該紙閲読者の検索数が大きく増加している。ユニクロがTシャツを専門に扱うブランド「UT」をスタートさせたのは2007年。食品メーカーなどの企業や著名アーティストとコラボレーションしたTシャツを低価格で販売した。
このクリエーティブでは、2008年には1,000を超えるコラボレーション数に達することをコピーにそえ、広告を見る人を圧倒するグラフィックで展開した。コラボレート相手の漫画キャラクターや企業ブランドにより、ニュース性の高い告知となっている。生活者にとってすでに認知があるユニクロの新しいブランド「UT」のプラスアルファのニュースは、新聞閲読者の興味を喚起させたものと思われる。
また、「ヒートテック」は、高性能でありながら手頃な値段で、かつ「インナー」というジャンルにカジュアルなデザインを採り入れたことで爆発的な人気を博した。日本の冬の習慣に革命を起こしたとも言われる当ブランドが、服で変えられる世界があるというメッセージとともに世界展開を開始したことを告知した。すでに認知があるブランドに新しいニュースが加わることで、新聞閲読者の興味を喚起したと考えられる。
本広告が掲載された時期は、世界同時不況に見舞われていた。世間の論調として、日本企業が世界に通用する技術力・ブランド力が求められていた時期と重なっており、ユニクロが世界展開を始めるという宣言は、新聞閲読者の関心を刺激したのではないかとも考えられる。
3カテゴリーに属さないクリーエティブインサイト
◎エー・ビー・シーマート、◎「チャレクロ」特集
検索数が増加した事例は、社会的事象に関するメッセージや社会的な興味に関するクリエーティブを中心に、大きく3つの視点で整理できた。しかし一方で、3カテゴリーに分類できないが、検索数が大きく増えた事例も散見されたので、いくつかの事例を紹介したい。
まずは、エー・ビー・シーマートである。クリエーティブに商品のキャンペーン金額を提示し、直接的に当該紙閲読者の購買意欲を刺激した。新聞広告への接触が購買行動を直接うながし、結果として検索が誘発される、「購買直前系」ともいうべき事例が少なからず確認できた。
次に、広告特集である「チャレクロ(※2)」を示した。クリエーティブにURLを明記し、回答受付サイトへと誘導を図っている。このようにクリエーティブに検索ワードやURLを明記して、詳細な情報はインターネットで取得するといった導線を意図的に設計している。こうしたクリエーティブでは、他にも多くの事例で検索数の増加が確認できた。このように、すべての情報を新聞広告に載せず、情報が分断されていることによりインターネットでの検索をうながすクリエーティブのインサイトは、「メッセージスプリット系(購買直前系)」とも類型できるだろう。
新聞閲読者を動かす新聞広告の特徴とは
これまで「新聞の検索行動への影響を探る」と題する4回の連載を通じて、新聞閲読者の検索行動を切り口に、様々な角度から新聞広告のメディアインサイトについてみてきた。新聞閲読者と非閲読者の違いを問わず、インターネットによる検索行動はすでに一般化しており、検索行動の質的なインサイトも考慮した「社会的な興味」や、クリエーティブにおける「ソーシャルイシュー系」「事件性・時事性インパクト系」「プラスワンニュース系」などのインサイトが確認できた。
世論形成や議題設定の機能をもつ新聞という社会インフラに集う新聞閲読者に対して、社会的・時事的な情報への関心を、しかるべきタイミングかつニュース性を持つメッセージで刺激することは、マーケティングにおいて有効だという示唆を得ることができた。
生活者の価値観やメディア接触の多様化により、生活者がより「個」になりつつある。本分析は、新聞広告による検索行動を促進するための方法論のみに主眼を置いたわけではない。むしろ、新聞メディアのインサイトを、新聞閲読者による主体的行動である検索行動から把握することを目的にしてきた。マスメディアを通じて効果的なコミュニケーションを行う上で、今後は読者や視聴者などのオーディエンスを多面的に分析し、メディアのインサイトを徹底的に分析することが欠かせない。
さらに、生活者を動かすために、どの様なメッセージの切り口が「刺さる」のかを的確につかむことも重要である。本報告だけでは、新聞閲読者をとらえる知見としては不十分な面もあろうが、検索行動など新たな分析視点に着目し、メディアインサイトをとらえる必要性に改めて触れて本連載を終えたい。
(※1)全国1万数千人パネルの自宅パソコンにソフトをインストールし、ウェブ行動を24時間365日追跡可能なビデオリサーチインタラクティブの「WebReport/WebPac」をデータソースとして、インターネットでのサイト接触や検索履歴データを基点とした分析が可能
(※2)ゴールデンウイーク期間中にシリーズ掲載された読者参加型のクロスワードクイズ企画
(電通 ビジネス統括局 プラットフォーム・ビジネス開発室
マーケティング・スーパーバイザー 春田英明/チーフアナリスト 魚住高志/リサーチャー 廣田周作)
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