ブランドアドボケーツとは、「当該企業やブランドに対してロイヤルティーを有しているがゆえに、自発的にかつ金銭的にも無報酬で、推奨したり擁護する人たち」(注1)のことである。
昨今のソーシャルメディアの普及により、消費者からのクチコミの影響力が増すにつれ、マーケティング業界においてブランドアドボケーツへの注目はますます高まっている。
この用語がマーケティング業界で使われ始めたきっかけには、Rob Fuggetta(ロブ・フュジェッタ)が2012年に出版した「Brand Advocates: Turning Enthusiastic Customers into a Powerful Marketing Force」がある。タイトルを直訳すると「ブランドアドボケーツ 熱心な顧客を強力なマーケティング力に変えること」となる。(注2)
ブランドアドボケーツが、他の人に商品やサービスを推奨するのは、基本的には利用経験に満足したがゆえで、その経験を他人に知らせるのが他人の役に立つと思ったからである。一方で、例外的に当該商品やサービスを購入していない人からも、推奨がなされる場合もある。例えば、フェラーリなどの高級スポーツ車には、その魅力について積極的に伝えるファンが多く存在するが、そのファンの多くは必ずしも顧客ではないであろう。あるいは、誰かに進学先について相談された際、その人に推奨する学校は必ずしも自分の母校であるとも限らないであろう。推奨は、必ずしも自分の顧客としての経験からだけではなく、フェラーリであれば憧れ、学校であれば偏差値や就職先など客観的な実績や評判からも生み出されることがあるのである。ブランドアドボケーツの推奨の源泉は、そのブランドや企業に対する強い好意、愛着などすなわちロイヤルティーなのである。
それでは、ブランドアドボケーツはどのようにしたら発見できるのであろうか。同書では、ブランドアドボケーツを発見する方法として、ソーシャルメディア上で自社やブランドについて推奨や擁護をしてくれる人をモニタリングする方法やネットプロモータスコア(NPS)の調査(注3)のように、消費者に直接、推奨意向について質問する方法を紹介している。NPS調査では、「あなたはその企業(ブランド)を人に薦めたいと思いますか」といった推奨意向の質問に対して、「薦めたくない~薦めたい」までを11段階で回答してもらい、10~9点の集団を「推奨者(Promoter)」、8~7点の集団を「中立者(Passive)」、6点~0点の集団を「批判者(Detractor)」と定義しているが、10~9点の集団である「推奨者(Promoter)」をブランドアドボケーツとみなしてよいとしている。
そして、このようなネットプロモータスコア調査からブランドアドボケーツを発見し、彼らに対して、一般にはなかなか公開されない情報や新製品アイデア会議などに参画できる機会を提供することで、当該企業、ブランドに対するますますのロイヤルティーの向上と自発的なレピュテーションを促進させたプログラムが実際のケースとともに紹介されている。企業と消費者との共創マーケティング、協働マーケティングを実践する上で、このようなマーケティングプログラムを開発することは、有効な方法の一つといえるだろう。
(注1) アドボケーツは、advocateの複数形である。advocateは、新英和大辞典第6版(研究社)では、唱道者, 支持者(upholder), 擁護者(defender)とある。
(注2) 訳著のタイトルは『アンバサダー・マーケティング 熱きファンを戦力に変える新戦略』となっている。Rob Fuggetta (2012), Brand Advocates : Turning Enthusiastic : Customers into a Powerful Marketing Force, Wiley(『アンバサダー・マーケティング 熱きファンを戦力に変える新戦略』ロブ・フュジェッタ・著、藤崎実・監修、徳力基彦・解説、土方奈美・訳/日経BP社 2013年)
(注3) NPS自体は、全体に占める推奨者の割合から批判者の割合を引いた数値のことである。 Reichheld, Frederick F(2006), The Ultimate Question : Driving Good profits and True Growth, Harvard Business School Press(『顧客ロイヤルティを知る「究極の質問」』フレッド・ライクヘルド・著、堀新太郎・監訳、鈴木泰雄・訳/ランダムハウス講談社 2006 年)