「ネーティブアド(ネーティブ広告)」

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 ネーティブアドとは、記事風の広告など広告の形態を指すものではなく、読者が広告をより自然な形で、まるで記事と同じように興味あるコンテンツとして見られるようにするための広告スペースであり、出稿システムである。

 ネーティブアドあるいはネーティブ広告とは、Native advertisingの和表記である。Nativeは、英和辞書では「形容詞:出生の、自国の、 土着の、 固有の、 生まれつきの、 自然のままの、 素朴な」とある(注1)。直訳すれば、ネーティブアドとは、「(当該広告が出稿される)メディアで生み出され、掲載メディアの文脈に合わせて自然な形式で掲載される広告」ということになる。

 一方で、米国のインターネット広告に関する協議団体であるIAB(Interactive Advertising Bureau)は、2013年12月にネーティブアドについてのガイドブックを発行したが、その冒頭には、発行の目的として「ネーティブアドに関する定義についての混乱を排除」あるいは「ネーティブアドについてのガイドラインを提示」といった記述がある(注2)。このことは、Native advertising という用語の定義があいまいなまま使われていることで、米国のマーケティングや広告、メディア業界に混乱や議論がもたらされたことを指し示している。

 日本においてもセミナーなどで、ネーティブアドについて説明される際、必ずと言ってよいほど、定義について質問がなされることが多い。特に多いのが「ネーティブアドは記事体広告と一体何が違うのか?」というものである。確かにネーティブアドが、掲載するメディアの特性や文脈に合わせて自然な形式で掲載される広告であるならば、その形態の多くは記事風となるであろう。そうであるならば、従来から存在する記事体広告と同じではないかという指摘はもっともであるように思える。

 しかしながら、実はそこに大きな誤解がある。ネーティブアドとは、そもそも記事風の広告など「広告の形態」を指すものではなく、広告を掲載する「広告の枠(スペース)」を指すものなのである。つまり「ネーティブアド=記事体広告」ではなく、「ネーティブアド=記事体広告などを掲載する広告枠」なのである。読者が広告をより自然な形で、まるで記事と同じように興味あるコンテンツとして見られるようにするための広告スペースであり、出稿システムである。

 ウェブサイトを閲覧している際に、自分がかつて検索した商品やサービスの広告に、別のページでも追いかけられたという経験はないであろうか。リターゲティングという手法である。これは、ターゲットの過去の閲覧履歴や属性などのデータをもとに、閲覧行動を補足し、まさに行動を追いかける広告掲出方法であるが、広告を掲出する媒体の特性や編集内容を考慮しないため、結果的に、読者は自分が閲覧している記事の内容や文脈と全く関係のない広告を連続して見せられることになる。
  自分が閲覧している記事に関係なく、広告に追いかけられていやな気分にならないのは、よほどその商品やサービスに興味、関心がある場合に限られるであろう。多くの場合は、無視あるいは、むしろ嫌悪の対象になってしまうのではないだろうか。もし、そうであるならば、それは読者だけでなく、広告主にとっても、媒体社にとっても不幸なことである。

 そこで最近、まるで救世主のように注目されているのがネーティブアドである。
  ネーティブアドにおいては、広告は、掲出されるメディアの編集特性に合わせて、まるで当該メディアのコンテンツの一つとして配信される。まさに、「生まれつきの、自然のままの」というわけだ。ネーティブアドは出稿形態ではなく、枠でありシステムであると前述したが、ネーティブアドがネーティブたらんとするためには、その広告は、読者にとって興味を持って読まれている記事のように、興味を持って読まれるコンテンツでなくてはならない。たとえ同じ商品であっても、掲出するメディアの編集特性や文脈に合わせて伝え方をカスタマイズすることが求められる場合もある。

 さらに、そこに読者の属性や履歴データを組み合わせることで、より的確なターゲットにアプローチできるメディアを選定すれば、まさに到達(リーチ)という定量価値と、広告に関心をもって接触してもらえるという定性価値を同時に実現する広告出稿が可能となる。今、ネーティブアドが新しい広告出稿システムとして注目されている理由もここにある。

 なお、記事のように見えるコンテンツとして広告を出稿するというと、それでは、まるでステルスマーケティング(注3)ではないかという疑問がわいてくるかもしれない。当然ながら、ネーティブアドにおいても、それが読者にとって広告であることがわかるようにする「関係性の明示」という大原則は守られなければならない。そのことは、前述したIABが発表したネーティブアドについてのガイドブックにおいても明言されており、日本のWOMマーケティング協議会(注4)においても見解は同じである。ネーティブアドの具体的な手法についても事例とともに、IABのガイドブックで事例とともに紹介されているので、合わせて参照されることをおすすめしたい。


(注1) 三省堂「三省堂Web Dictionary」 http://www.sanseido.net/  (参照 2014年6月14日)
(注2) "Native Advertising Task Force “Native Advertising Playbook”Interactive Advertising Bureau, December 4, 2013  http://www.iab.net/media/file/IAB-Native-Advertising-Playbook2.pdf  (参照 2014年6月14日)
(注3) 特定の商品の宣伝であることを、消費者に隠して行う宣伝、広報活動のこと。 朝日新聞社「kotobank」 http://kotobank.jp/  (参照 2014年6月28日)
(注4) WOMマーケティング協議会。クチコミに関するマーケティングの健全なる育成と発展のために2009年7月に発足した。