新聞広告はミッドファネルをリフトする オンオフ統合キャンペーンで相乗効果を

 ログ解析によってウェブサイトへの来訪や資料請求、購買行動などが計測できるようになった。だが、「無関心」から「関心」や「好意」などに移る心理変容はログでは追えない。電通では様々な実証実験を重ね、消費者の心理変容を可視化。「新聞広告はミッドファネル、特にブランドイメージをリフトする」という結果を得た。電通新聞局マーケティング部長 吉井 尚氏に聞いた。

新聞の媒体特性×クリエーティブ×接触態度が相乗効果を生む

吉井 尚氏 吉井 尚氏

──ブランドリフトへの関心の高まりについて、どのように考えますか。

 デジタルマーケティングの台頭を背景に、広告出稿に対する定量的な成果報告が求められる中、ログで計測できないマス媒体に対して「社内で効果を説明できないから使えない」という見方が出てきています。その一方で、フェイクニュースによるブランド毀損(きそん)問題などを端緒に「顧客との接点がデジタルだけでいいのか」と懸念を持つクライアントも増えており、少し揺り戻しがきている印象です。そうした中で、ブランドリフトへの関心が高まっているのではないかと思います。

── デジタル領域の課題は。

 今日的なコミュニケーションプランニングのベースにあるのが購買ファネル(購買に至るまでの消費行動の流れを図式化したもの)です。デジタルの課題は、購買ファネルの先端「刈り取り」を強みとしてきたはずが、しだいに刈り取れなくなっていること。これは「興味関心〜意向」に至るミッドファネルにおいて、購入予備軍が減っているからです。同じ「いけす」で魚を釣っていれば、いずれ魚がいなくなるのは当然のこと。デジタルだけでいけすに魚を入れたり育てたりするには限界があり、オフラインからオンラインへの送客ルートや顧客接点を失うことにもなりかねません。企業がやるべきは、マスからデジタルへの移行ではなく、マスとデジタルそれぞれの長所を生かした統合キャンペーンです。

今日的なメディア・プランニング 今日的なメディア・プランニング

── 新聞広告がもたらす効果について。

 ログ解析では行動履歴は追えても、心理変容までは追えません。心理変容を可視化することが重要だと考えた当社は、新聞広告の強みはミッドファネルにあるという仮説に基づき実証実験を重ねてきました。新聞は「リーチメディア」と捉えられてきましたが、効果はそれだけでないという実感があったからです。検証の結果、新聞広告がミッドファネルをリフトすることが確認できました。特にブランドイメージ形成における貢献が顕著でした。

── なぜ新聞広告がミッドファネル、特にブランドイメージをリフトするのでしょう。

 新聞広告の「媒体特性」「クリエーティブ」「接触態度」の相乗効果だと考えます。新聞は社会性や信頼性のある媒体と言われ、それは確かですが、ブランドイメージ形成においては媒体特性以上に、クリエーティブの力が大きいことがわかりました。「新聞広告にふさわしいクリエーティブ」、もっと言うと「新聞広告を使って狙ったイメージをリフトさせるクリエーティブアイデア」の重要性を示す結果です。新聞は、目の前30センチの距離で能動的に開く媒体。紙の新聞のみならずデジタル版も、ニュースを知るために、世の中の動きを知るために読むもので、情報摂取態度や情報取得意欲が他の媒体とは明らかに違います。したがって同じ広告メッセージでも、見る人に与える印象やイメージのインパクトが大きいのだと思います。

ミッドファネルにおけるブランドリフト効果 ミッドファネルにおけるブランドリフト効果

ブランドリフト効果に加え ウェブへの送客効果も高い新聞広告

──ブランドリフト可視化の調査手法について。

吉井 尚氏

 当社が取り組んでいる効果検証フレームは2つ。1つは、キャンペーンで設定したKPIに対し、媒体ごとのブランドリフト効果を把握する調査です。ファネルの各段階の指標として、認知、興味関心、好意、意向に加え、ブランドイメージ約20項目のリフト効果を媒体ごとに調査。このポイントは、ターゲット個々人のリフトが把握できることです。例えば好意度なら、「これまで嫌いだった人がどちらでもない」になるのも「大嫌いだったのがやや嫌い」になるのも、心理変容のリフトのはず。「好き」のスコアだけ見ていては、これらのリフトを見逃すことになってしまいます。

 もう1つは、KPIに対する媒体別貢献度や効率を分析するROO分析です。最近はROI(投資対効果)という言葉が多く用いられますが、広告出稿の評価はROIではなくROO(目的対効果)であるべきだと考えます。広告成果は売り上げのみならず、ブランディング、顧客リレーション、流通対策、リクルーティングなど様々で、目的に応じて効果を見ていく必要があるからです。

──新聞広告がブランドリフトにつながった具体事例は。

 ある自動車メーカーの企業ブランディングキャンペーンの効果検証調査を行ったところ、新聞広告は、興味関心、好意、イメージ醸成などミッドファネルにおいてリフトした人の割合が高く、ほとんどのイメージ項目でテレビCMを上回りました。またウェブ誘引効果ではテレビCMは比較的低く、一番高かったのは新聞広告でした。ROO分析では、ブランドリフトへの貢献度だけ見るとテレビの数値が高いですが、メディア投資額に対する効率は必ずしもテレビCMが一番ではなく、例えば「夢のある」というイメージの獲得効率は新聞広告が上でした。「先進的な」「夢のある」など、よく似たワードで獲得に貢献している媒体が異なるのは、クリエーティブ表現による影響が大きいと推察できます。メディアプランニングだけでなく、クリエーティブプランニングにも使える面白い結果となりました。

 このケース以外にも様々な業種やターゲットを設定して実証実験を実施した結果、新聞広告は「ミッドファネルにおける心理変容をリフトする」「特にブランドイメージ項目のリフト効果が高い」「オフラインメディアの中では、ウェブサイト送客効果が高い」という3つの特徴が明らかになりました。

(調査対象:個人全体)
(調査対象:個人全体)
<調査概要>
広告主:自動車メーカーA社
出稿媒体:新聞(全国紙)/テレビ(テレビスポット、テレビタイム)/OOH(都内JR、私鉄 駅貼り、大型フラッグ、ADビジョン)/WEB(ブランドサイト ※WEB 広告はなし)
調査時期/エリア: 2018年8月、関東圏(一都六県)
調査手法:インターネット調査
調査対象者:15歳以上70代までの男女4040ss

── 今後、可視化を目指していきたい領域はありますか。

 ファネルの「再購入」や「推奨」についても新聞広告の効果を検証してみたいと考えています。「リピート率が高い」「ブランドスイッチしない」「離脱率が低い」「他者推奨や拡散につながる」といったことにおいても新聞の強みを可視化できれば、リーチに加えて新聞広告の提案価値がより一層広がっていくのではないかと考えています。

吉井 尚(よしい・ひさし)

電通 新聞局マーケティング部長

1988年電通入社。営業局およびプランニングセクションにて官公庁や民間企業のコミュニケーション戦略やブランドコンサルティングを多数担当。環境や防災などのソーシャルビジネス開発責任者を経て、2018年4月より現職。