パーパスが求められる社会で、クリエーターがメディアと組む意味とは

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 ソーシャルグッド(社会に対して良いインパクトを与える活動)な映像作品を作り続けている高島太士さん。近年では、サステナブルをテーマに企業やイベントでの講演にも活動の領域を広げています。朝日新聞の広告コンテンツ制作で共に組むことが多い高島さんに、パーパスブランディングの潮流やクリエーターがメディアとコンテンツを作る意味について、2022年12月にリニューアルされた朝日新聞デジタル媒体資料に収録したインタビューの全文を掲載します。

パーパスに戸惑う日本企業、根付いている欧州企業

──自分たちの会社の存在意義を示す「パーパス」が、マーケティングでも注目されています。生活者に向けて社会課題に取り組んでいる姿を伝える企業が増えていると思いますが、なぜでしょうか。

 企業に対して「ステークホルダーというのは、株主とか消費者だけじゃなくて、社員含めかかわる人たち全てですよ」といった話をする機会が増えました。企業は、これまでお客さんを見ていたけれど、社員を含めて多方面を見ないといけない。そうすると、企業の側にはどこに行けばいいんだという心の迷いが生まれてきます。その時、「我々の会社はこのような意味で存在しています」というパーパスは、社員にとっても意味があるし、消費者などあらゆるステークホルダーにとっても伝わりやすいメッセージだと思います。

──企業の取り組みについてはどのように見ていますか。

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 私自身、広告制作とは別にサステナビリティを企業に浸透させる活動もしているのですが、日本の企業は、その部分にまだ慣れていません。みなさん困っている感じがひしひしと伝わってきます。あまりにも大きすぎる意識改革なので、理解できる人とそうでない人とのギャップがあります。それはパーパスを置いたからクリアになるわけでもありません。
 今までは上から降りてきたことを作業すればよかったのだけれども、急にパーパスという言葉が出てきて、ステークホルダーという考え方も持たないといけない、とはいえ売り上げは達成しないといけない。結局全部やらないといけない状況になっている。そこをどうクリアにしていけばいいか分からない、というのが各企業共通の悩みとしてあります。
 一方、ヨーロッパの外資系企業にとって、サステナビリティは社会の中に当たり前に根付いているものです。SDGsの取り組みをすることに経済合理性があるとしっかり理解できています。しかし、日本の場合、それが理解できない会社が多いので、舵取りがうまくいってないのではないかと思います。

広告制作よりちょっと手前から

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──映像制作で注目されている高島さんですが、それ以外でいま取り組んでいることについて教えて下さい。

 映像を軸にした活動は、東日本大震災以降この十数年続けています。ソーシャルグッドをテーマにずっとやってきたので、その延長でSDGsとかサステナビリティの領域に広がっていき、かかわる人たちが増えてきました。
 僕の場合、どちらかというとモノを売る広告ではなくてブランディングだったり、世の中に対して企業はどうあるべきなのかというのを示す映像を作ったりする機会が多かった。その流れで、サステナビリティ関連のイベントで企業の広報担当者に対して、今の時代に何を大切にして自社のブランディングを考えていけばいいのかなど事例をもとにお話をしています。

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 以前だったら企業の広報担当者の方々は、広告会社にメッセージの開発から何からお願いしていたのですが、パーパスとかステークホルダーが重視される時代になってくると、企業の中が変わっていかなきゃ意味がないと気づき始めた。企業の社内勉強会では、カンヌライオンズの世界観の中でどういったクリエーティブが生まれているのかという事例の話をするというのも求められています。
 「サステナブル・ブランド国際会議」が2022年2月にパシフィコ横浜で開かれたのですが、そこではファシリテーターやスピーカーとして出ました。国際会議のほか、数カ月に1回程度の頻度でフォーラムがあり、カンヌの話やコミュニティーマーケティング、地方創生で行政とどう関わるか、といったテーマで話をしています。
 今まで広告で映像を作ることをずっとやってきましたけど、最近はそのもうちょっと手前の段階の仕事が多いですね。

広告表現にあふれる「注釈」、変化はあるか

──海外のパーパスブランディングの潮流について、どのように感じていますか。

 カンヌでも部門がいくつかあって、その中の一つにSDGsというカテゴリーがあるのですが、もはや全部がSDGsになっている感じです。取り入れないといけない。昔に見てきたクリエーティブというのは、時に無駄遣いをすることでのインパクトがあったのですが、そういうのは圧倒的になくなっているのです。それが良くないってされているので。その限られた中でみんな必死にやっているな、というのはすごく感じます。映像の仕事を10年ほどやっていますが、変わってきたと感じたのはこの2、3年ですね。

──その変化は新型コロナ禍と関係あるのでしょうか。

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 日本では影響があったと思いますが、欧米はそれより早くから変化をしていました。 昔、カラフルなゴムボールを大量に使った印象的なCMがありましたけど、もうあんなことはできない。やるにしても「これは生分解性です」みたいな注釈が必要で、そうなると「どっちを伝えたいの?」となってしまいます。すごく注釈だらけの表現が増えているのは事実です。今年のカンヌを見ていても、具体的な注釈が入っているわけではないのですが、注釈を回避するような予防線を張った表現が多くありました。ただ、クリエーターたちは賢いので、今後はSDGsをふまえつつワクワクしたものを見せるように変わると思います。

ジャーナリズムと編集力

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──高島さんにとって、メディアと一緒に仕事をすることにどのような価値を見いだしていますか。

 これまでの日本の広告は、表現のアウトプットを広告会社にお願いしていました。今は「商品の売り方」ではなく「あり方」の方が大事になって、メッセージを企業の中の人が考えるようになってきています。自分たちの考えをどう言語化するのか、つまりは編集能力が求められている。コピーもいいけれど、もう少しじわっと来るような考え方を伝えるのであれば編集の力が必要になります。その点では、広告会社よりメディアの方がたけている。また、社会とのつながりが必要な時代なので、ジャーナリズムを理解している会社が編集力を生かしてクライアントと寄り添うのが正しいはずです。クライアントも1回組めば分かると思います。私もそうでしたから。

──高島さんは朝日新聞に何を期待していますか。

 スタートアップメディアに比べ、朝日新聞は大きくて、歴史があって、時代に合わせた急な舵取りをするのは大変だと思います。しかし、大きな歴史ある組織が、1回柔軟性を持つことができれば、また大きな波が来てもすぐ変わることができます。私からは魅力的に映ります。
 私がメディアの中で一番近い距離にいると思っているのが朝日新聞です。目線が生活者に近い印象です。多様性という観点でも親和性を感じます。色んなメディアが並んだときに、一番力が入っているとすごく感じます。コンテンツもWebデザインにコピーを載せただけのものとは圧倒的に違います。きちんと読み物になっています。そのようなコンテンツを一緒に作り続けたいと思います。
 今、世の中では「正義のぶつかり合い」が増えています。倫理観が問われる中、ジャーナリズムと組んでコミュニケーションを考える必要性はますます増えていくと思います。

朝デジ媒体資料

朝日新聞デジタル メディアガイド

高島太士氏のインタビューを掲載したメディアガイドはこちら。読者や朝デジコメンテーター、記者などへのインタビューや読者データ、広告事例も多数掲載。

高島 太士(たかしま・ふとし)

ドキュメンタリスト


1979年生まれ。ソーシャルグッドな内容で、課題解決に特化した演出が持ち味。代表作はP&Gパンパースの「ママも1歳、おめでとう。」パンテーン「#Pridehair」など。国内はもとより海外広告賞の受賞も多数。