シズル感に2秒でくぎ付けに!エンタメ料理動画メディア「Tasty Japan」の強さとは

 SNS総フォロワー数1,970万超 (2023年8月末時点)。圧倒的なフォロワー数と拡散力を誇るTasty Japanは、アメリカ発祥の料理動画メディアです。料理をする人もしない人も楽しめる、シズル感があり、エンターテイメント性も高い“シェアしたくなる動画”を次々と生み出し、企業からも注目を集めています。そんなTasty Japanを運営するBuzzFeed Japan ビジネスディビジョン ビデオマネージャー 岡田 裕子氏に、Tasty Japanの特徴や、強みについて聞きました。

──Tasty Japanとは、どのようなメディアでしょうか。

 「Tasty」 は2015年、アメリカのインターネットメディアBuzzFeed(バズフィード)が立ち上げた動画メディアです。BuzzFeedでは料理関連の記事の閲覧数が多かったことから、動画での情報発信を開始しました。当時の特徴は、料理に対してカメラを垂直にセットし、一人称の視点(POVpoint of view)で手元だけ撮影すること。早回しの動画でサクサクと調理工程を見ることができ、シズル感のある映像美にもこだわった動画を大量に制作していくメディアとして立ち上げたところ、ローンチ早々に1億人ほどのフォロワーがつき、大きな話題となりました。

 調理する人の顔を映さないのは、出演する人の人気に依存してしまう可能性があるからです。しかし、手元だけなら、たとえ調理をする人が変わっても動画を見ている人たちには影響が少なく、効率性が高いと判断し、このスタイルになりました。アメリカで誕生した翌年の2016年、フォーマットそのままに日本版「Tasty Japan」がスタートしました。

 Tasty Japanは立ち上がった当初から、日本独自のコンテンツに加え、アメリカのコンテンツに日本語訳をつけてローカライズも行いながら、動画を量産していきました。Tasty Japanに海外のフォロワーが多いのは、TastyTasty Japanのコンテンツをシェアしてくれている影響です。それが日本版の拡大にもつながっています。

 映像美やシズル感の他にも、リーチの多さとエンゲージメントの高さは私たちの強みのひとつです。特にInstagramは日本国内の料理系企業アカウントナンバー1(20239月時点)のフォロワー数で700万人以上のフォロワーがいます。日本食の文化は世界からも注目を集めていて、東南アジアや北米など、海外のフォロワーが多いのも特徴です。

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──2016年から現在まで、撮影や編集方法などは変化しているのでしょうか。

 2016年当時は日本でもSNSの動画元年と言われ、フード関連の動画も非常に注目を浴びるようになりました。Tastyは音や言語に頼らず、早回しで人目を引き、今話題の「ショート動画」トレンドの先駆けだったと思います。撮影や編集方法は日々進化しており、特にここ12年で高解像度の携帯電話を持つ人が増えたことで、動画も短尺(ショート)の縦型動画が中心です。それに伴い、1分間のフォーマットを15秒以下にしたり、映像の撮り方も真上からの俯瞰だけではなく、横からのショットを入れたりするなど、視聴者を飽きさせないための工夫をしています。

──SNSの総フォロワー数が1,970万ですが、プラットフォーム別に工夫されている点はありますでしょうか。

 プラットフォームごとに視聴者の視聴特性があり、アルゴリズムを意識した表現の違いなどはあります。ただ、アルゴリズムは一切公開されておらず、日々変わっていくため、社内でも絶えず注力プラットフォームに合わせ、仮説をもとに研究を重ねてコンテンツ作りをしています。ただ、細かい部分を追っていくとキリがないのが現状です。

 Tasty運営元のBuzzFeedではSNSでシェアしたくなるコンテンツの研究をしたところ、動画も記事も、以下4つの要素がコンテンツに入っていると人の心を動かし、SNSで拡散されやすいと言われています。Identity (自分語りしたくなるもの)、Knowledge(知識欲を刺激するもの)、Emotion(感情を掻き立てるもの)、Aspiration(やってみたいという願望)の4つです。

 たとえば、お好み焼きのレシピや年末に食べるものなどは、出身地や自分のアイデンティティーを表現しやすいテーマです。同じ意見の人に賛同したり、自分の意見を伝えたくなったり、自分の【Identity(自分語り)】を披露したくなるようなネタやキーワードを盛り込むことで、拡散される可能性が高まると考えています。

 調理方法や道具の使い方など、知っていそうで意外と知らない料理に関する【Knowledge(知識欲を刺激するもの)】は意外とあります。たとえば、野菜の切り方をまとめて説明する動画などがあったら、思わず保存したくなるはず。そんなかゆいところに手が届くような情報も発信しています。

 見た瞬間に「何これ、おいしそう!」と、フードならではの【Emotion(感情)】に訴えかける表現も、誰かにシェアしたくなるものです。また、巨大ホットケーキや手巻き寿司、バケツでプリンを作るなど、やってみたいけど自分ではできない【Aspiration(願望)】のようなことに私たちが挑戦し、「実際やるとこんな風になったよ」と披露する。料理を作る人も作らない人も楽しめるエンターテイメント性の高い動画も制作しています。

▲夢のメガスイーツ!巨大バケツプリン(出典:Instagram/Tasty Japan)

どのプラットフォームにおいても、優良なコンテンツや視聴者に支持されるコンテンツにはこの4つの要素が入っていることが多いです。それを継続的に発信し続けることにより「そのアカウントをフォローする意味」を生み出し、ファンが増えていくというループになっていると考えています。

──最近、特に話題となったコンテンツを教えてください。

 クマ型のクッキーがパイ生地に包まれてオーブンで焼かれる動画  は、反響が大きかったです。オーブンの中でパイ生地が膨らんでいく過程を見せているのですが、既視感のない映像で、とってもかわいい。だからこそ「シェアしたい!」と思われたのだと思います。

▲【寝てる?起きてる?】布団に入っているクマがかわいすぎる(出典:Instagram/Tasty Japan)

──競合となるアカウントも存在していますが、Tasty Japanの強みは何でしょうか。

 「おいしいものを食べたい」という人間の大きな欲求に語りかけるコンテンツを発信していることが、各社フード系メディアの特徴です。そのニーズは今や細分化されていて、大きく二つに分類できると考えています。ひとつが、冷蔵庫の余った材料から、何が作れるかレシピを検索する「インアウト型」。もうひとつが、シズル感たっぷりの表現で感情に訴えて、ストレートに「作ってみたい」と行動を起こすきっかけを作る「アウトイン型」。

 この二つの型はアプローチの仕方が全く違います。Tastyは後者の「アウトイン型」です。通勤途中や眠る前に何気なく見ていたSNSのフィードに、突然画面いっぱいに滝のようにチーズが流れ出てきたり、キャラメルソースがたら〜っとチーズケーキにかかったり、肉汁たっぷりのステーキがどアップで出てきたりする。すると、「なにこれ、めちゃおいしそう! 食べたい、」「(友達に)シェアしよう!」と、偶然見た人の心が動く。こうした行動を起こすきっかけを作るのが、私たちが得意とするところです。

 そのために大切にしているのが、映像の美しさとシズル感です。コンテンツの見映えのこだわりがTastyらしさであり、競合との大きな違いだと考えています。だからこそ、私たちは日々料理をおいしそうに見せる映像のテクニックを模索し、プロデューサーやフード専門のエキスパートとともに演出方法を研究しています。打ち合わせでは各自、ソーシャルメディアで流行している動画や、世の中で話題になっていることを持ち寄り、アイデアを練ってコンテンツを考えています。海外のフード系クリエイターの演出方法を研究するなど、プロデューサー同士で最新の動向もシェアしながら、日々のコンテンツ制作に活かしています。

──「アウトイン型」で注目を集めることは決して容易なことではないと思います。

 動画は冒頭2秒でこのまま続きを見るかが決まると言われており、いかに一瞬を逃さず、手を止めてもらえるかを、常に研究をしています。最近ではTikTokInstagram のリールなど「縦型ショート動画」が主流で、パッとみた瞬間に12秒で引き込まれる没入感のある映像や、面白い動きの映像、続きが気になる映像、冒頭の2秒に何を持ってくるかが重要です。しかし、実際には方程式も正解もなく、人が何を面白いと思うかを完璧に読むこともできません。ただ、不思議なことに、SNSには「再現性」があります。たとえば、数年前に拡散されたコンテンツは高確率で再びバズります。これはフード系のコンテンツに限らず、SNSならではの特徴かなとは思います。

──企業タイアップのコンテンツがメディアに自然に馴染んでいる印象がありますが、Tasty Japanならではの広告制作のノウハウなどはあるのでしょうか。

 編集コンテンツで培った勝ちパターンのノウハウは、広告コンテンツの企画にも応用しています。具体的には、編集コンテンツで良いパフォーマンスだった動画の要素を分析し、そのデータをタイアップの広告商品に掛けあわせる。さらに最新の見せ方や編集方法を掛けあわせることで、“失敗しない”効率の良いパフォーマンスを発揮し、成果につなげることを目指しています。

──具体的には、どういった相談が多いでしょうか。

 SNSのフォロワーを増やすことと、新商品やキャンペーンで打ち出す商品の魅力を伝えるための施策の相談が多いです。また制作した映像のシズル感を評価していただき、お問い合わせしてくださることも多く、制作した映像を、クライアントのホームページやサイネージ、量販店や小売店のモニターで流すなど二次利用のご要望も増えています。

──印象に残っている案件はありますでしょうか。

 ライフスタイルブランドのBRUNOさんの「グリルサンドメーカー」を訴求する事例では、2種のレシピをご提案し「どっちの具材を挟みたい!?お肉VSチーズ」と題した「VS構造」を設定しました。グリルサンドメーカーで作る2種類のホットサンドは、いずれもシズル感たっぷりな映像をTastyで発信し、フォロワーをBRUNO公式アカウントへ誘導しました。BRUNOさんのSNSアカウントフォローと引用RT(現:Xのリポスト)でプレゼントが当たるキャンペーンを実施しました。

 Tasty JapanのフォロワーとBRUNOさんのフォロワーの興味関心のポイントやフォロワー属性の相性の良さもあり、Tasty Japan側の動画再生は合計300万再生を超え、Instagramの「保存」は4,000件以上ありました。

 BRUNOさんのTwitter(現X)では、5,000件以上の引用RTがあり、Instagramも約700件のコメントが投稿されました。BRUNOさんのもとには「外出先で、その動画見たよ」という声も届いていたそうです。Tasty Japanのフォロワーとのシナジーがうまく生みだせたインパクトのあるキャンペーンだったと思います。

──データの分析などクライアントにはどういったフィードバックが喜ばれていますか。

  デジタルの世界は、色々な角度で数字を出すことができます。その数字をどうやって読み解くか、どう比較するかによって数字の捉え方も変わります。そこで、私たちは日々のコンテンツ作成の知見をもとに、多角的に仮説を立て、クライアントと話し合いながら、一緒に数字を分析するようにしています。成功のポイントはどこだったのか、こういう反応があったということは、こういう見せ方のほうが良かったかもしれないなど、各企業のKPIに合わせて考えています。キャンペーンの終了後はクライアント側の担当者が社内で報告することも踏まえながらレポートを作成していきます。

 最近、特に意識しているのは、良かったことだけでなく、マイナスだった部分も分析することです。クライアントに伝えるのは若干言いづらい内容もあるのですが、良くなかった部分には改善の余地があり、ディスカッションによって「次はこうしていきましょう」と次のキャンペーンに活かすことができます。もちろん、良かったことも何がどう良かったのかしっかり考察することで、再現性を高めることができるので、客観的にフィードバックすることは大切にしています。

 ──今後の展望について教えて頂けますでしょうか。

 様々な動画が世の中で発信され、それを見て育ったZ世代は目が肥えていて、広告への目線も厳しくなっています。視聴者にとっていかに有益な質の良い情報として届けられるか、また広告もいかに広告主様の伝えたいことをきちんと網羅した上で、媒体特徴と知見を活かしたクリエイティブにできるかは、引き続き挑戦が必要だと考えています。

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 現代は「1億総クリエイター時代」と言われています。最近驚いたのは、友人の子どもがスマホで動画編集をしていたことです。その子はまだ11歳なのですが、推しの映像を組み合わせて編集したり、SNSへ投稿したりして遊んでいました。それを見たとき、この子たちが驚いたり、楽しんだり、満足できるコンテンツを生み出すことができるかなど、今後のメディアの在り方について考えさせられました。

 メディア側も企業のSNS担当者も、最も大切にすべきことは、投稿を見る画面の先にいる人たちに「知ってもらいたい!」「役立つ情報を届けたい!」という、発信者側の思いやパッションだと思います。

 私たちが重視していることは「伝えたいメッセージ」の部分です。編集コンテンツであっても、広告コンテンツであっても、それは同じです。広告に関して言えば、クライアントが打ち出したいメッセージをくみ取ることを一番意識しています。そして、これまでの知見や研究をもとに、Tastyらしいエンタメ性のある表現を模索していきます。

 料理をすることも楽しくなる、おいしい食べ方のレシピを開発し、シズル感を最大限に映像で伝えることで、人の心を動かしていく。そんなTastyの原点を忘れず、今後も「見て幸せ、作って楽しい」コンテンツを届けていきたいと思っています。

岡田裕子(おかだ・ゆうこ)

BuzzFeed Japan ビジネスディビジョン ビデオマネージャー


2017年、BuzzFeed Japanに入社。「BuzzFeed Japan」「Tasty Japan」の広告部門の窓口としてSNSキャンペーンの企画・実施からレポートまで携わる。2021年に現職へ。動画広告商品の設計、タイアップの制作マネージメントを行う。各プラットフォーム別の広告最適化、クロスメディア型の広告商品のプランニングやプロジェクトマネージメントも担当。動画やSNSの世界トレンドを個人的にもウォッチし、日々の変遷をトレース、次の企画制作にも役立てている。