審査委員たちの興味をかき立てたApple

 朝日新聞を読み進めながら、読者の多くは写真のインパクトに圧倒されたはずです。

恩藏直人氏 恩藏直人氏

 広告主参加の部で朝日広告賞を受賞したiPhone6の広告が、突然、新聞紙上に現れるのですから。写真を見ているだけでは何の広告なのかわかりません。しかし目を左に向け、「iPhone6で撮影」という文字を見て読者は再び驚かされます。

 今回の審査では、ほぼ満票に近い得票で朝日広告賞が決まりました。デジタルデバイスの最先端を行くAppleが新聞という紙媒体を利用した点や、旅してみたくなるような場所で撮影している点も審査委員たちの興味をかき立てました。この新聞広告はもちろんですが、ウェブサイトに行けば世界各地の写真が見られるというキャンペーンも評価されました。

Apple
東日本旅客鉄道

 準朝日広告賞を受賞した「ウフフ!北陸新幹線」も好印象でした。

 とにかく顔になぞらえた新幹線の絵が印象的です。北陸新幹線の開業を新聞広告で初めて知った人は少ないと思います。多くの人がイメージしたのは新幹線の写真を載せた広告だと思いますが、見事に期待を裏切られた感じです。人間味あふれるイラストを用いたことによって、むしろ親しみがわき、読者の注目を集めることに成功しました。テレビニュースとの対比という点で、審査委員たちは動かされたのだと思います。

 部門賞にも興味深い広告がたくさんあります。食品・飲料部門賞に輝いた 味の素は、 「和食は、引き算。洋食は、足し算。」というコピーで自社商品の守備範囲の広さを伝えています。 メッセージを直球で訴えた 蔦屋書店の 「急募。梅田の流れを変えたい人、100人。」も高い評価を得ていました。

恩藏直人(おんぞう・なおと)

早稲田大学商学学術院教授 

早稲田大学商学部教授などを経て現職。専門はマーケティング戦略。著書に『コトラーのマーケティング3.0』(監訳)『マーケティング』など。商学博士。