第1部の応募総数は1,501点。候補作品が35点に絞られた段階で中間講評が行われ、各審査委員から推薦作品が挙げられたほか、
「あまり難しいことは考えず、直感的に目に飛び込んでくる作品を選びたい」(上田義彦氏)
「各作品について個人的な好き嫌いもあるが、面白いアイデアか、使えるアイデアか、ということを考えて審査したい」(佐々木宏氏)
「もし実際に新聞に掲載されたら、手元に取っておきたくなるようなものに票を入れたい」(森本千絵氏)
といった審査基準も述べられた。最高賞に輝いたのは、YKK APの課題を扱った作品。
【朝日広告賞】
(1) YKK AP
〈「窓を考える会社YKK AP」〉3点シリーズ
齊藤智法、三島邦彦、岡本誠、竹内彰、宮崎悠、朝鍋健太郎
ビジュアルの主役はミノムシ。正確には、越冬のためミノムシがこもる“巣”だ。そこに窓がついている。コピーはなく、外界への旅立ちを巣の中でじっと待つミノムシの気持ちを見る者に想像させる。「ミノムシにとって窓があるのがいいのか悪いのかはともかく、春はまだかな、と外を見ることができたら楽しいかも……と思わせる」(児島令子氏)
「写真がとてもよくできていて、ほほ笑ましくて、ミノムシにとっては迷惑かもしれないが、ファンタジーやイマジネーションをかきたてる広告」(原研哉氏)
「感覚的に伝わってくるものがあった」(前田知巳氏)などの意見が寄せられた。
【準朝日広告賞】
(2) 新潮社
〈新潮文庫〉3点シリーズ
戸川進之介、河西智彦、水本光一、矢木重治、細川直美、宮原由紀子、山田和史、永橋正輝、遠山桜王
文庫本で新幹線や飛行機やクルーズ船をかたどり、交通移動の時間を忘れさせる本の面白さを表現。「本に夢中になっていたら、もう目的地に着いちゃった、という感じをすてきなビジュアルで表している。オリジナルな感じがいい」(児島氏)
「ビジュアルの完成度が高い」(佐藤可士和氏)
「本を読む行為を時間で表すというのが、シズルの伝え方として新しかった」(前田氏)
(3) 出版共通課題
〈ハッピーブック・キャンペーン〉3点シリーズ
栗波亮、半澤未奈子
本を贈る人、贈られる人のあふれる気持ちを自然体のコピーとさわやかなビジュアルで伝えた3点シリーズ。 「30段のシリーズというのはリアリティーがないが、表現は好印象」(佐々木氏)
「本を読みたくなる感じがした」(佐藤氏)
(4) YKK AP
〈「窓を考える会社YKK AP」〉
江連有美、三島伸康、村上賀子
「窓は、教室の左側にある。キミの文字が手の影で隠れないように。」というコピーに多くの審査委員から「そういえば!」との声が上がった作品。 「コピーライターが偉いのか、発見した人が偉いのか、なるほどそうかもしれない、と思った。“YKK APらしさ”はあまりないかもしれないが、“窓”を感じ、発見があった」(佐々木氏)
「写真の完成度は高くはないが、確かに必ず教室の左側に窓があって、そういう配慮だったのかと知った。教えてもらった喜びがあった」(副田高行氏)
【入 選】
(5) 大日本除虫菊
〈キンチョール〉
野中正之、津久井尚
愛らしい少年の姿を描いたイラストと、「ボクにだって、にがてなムシもいる」というコピーが高い評価を得た15段。
「イラストにかわいらしさだけでなく強さもある」(上田氏)
「絵がかわいいだけでなく、コピーもすばらしい。殺虫剤というと虫を“殺生する”というアプローチが多いが、“虫が大好きな男の子”を主役に持ってきたというのは、今までなかった視点」(児島氏)
「キンチョールという課題はユーモアに走る傾向が強いが、この作品はのどかな雰囲気を丁寧に伝えていて好感が持てた」(森本氏)
(6) 小学館
〈小学一年生〉3点シリーズ
内田伸哉、多田明日香
小学1年生の時に親しんだもの、覚えたものはいくつになっても忘れないということを、ランドセルを背負ったシニア世代の“日常風景”で表現。 「今、自分は小学◯年生なのか、と考えたりした。楽しい感じがいい」(副田氏)
「現実には小学一年生よりこの作品に登場する世代のほうが圧倒的に多いのだろう。シニアが元気にならなければ……などと考えさせられた。好きだった作品の一つ」(原氏)
(7) 森林文化協会
〈森林文化協会のイメージを高め、認知度を上げる企業広告〉3点シリーズ
大竹雄樹、久武正直、池山千尋、株式会社アフロ
身近な野生動物や自然の写真に、「飛んでいるのではなく、逃げていた。」「向かってくるのではなく、逃げていた。」などのコピーが意味を与え、環境問題について考えさせた作品。
「まじめなアプローチではあるけれども、なるほどと思える。動物の気持ちになれた」(葛西薫氏)
「普通に撮った写真だが、コピーの一言で違って見えてくる。ビジュアルとコピーの絶妙な関係が印象に残った」(タナカノリユキ氏)
(8) YKK AP
〈「窓を考える会社YKK AP」〉
川島果菜、脇田賢一、ムクメテツヤ
窓から差し込む“光の布団”に包まれた、幸せそうな子どもの寝顔が審査委員たちの心を和ませた1点。「気持ちよさそう。窓があるといいな、という感じにできている」(佐藤氏)
「視覚的に直接表していないが、“窓”を感じさせる。あたたかみのある表現に好感」(前田氏)
「写真がいい」(森本氏)
(9) 旭化成
〈サランラップ〉3点シリーズ
松尾知恵、太田朝子
用意した食事にサランラップをかけて愛する家族を待つ人のやさしい気持ちを表現した3点シリーズ。「サランラップの特長を写真で伝えつつ、かわいらしいイラストもあり、アイデアとしてすばらしい」(佐々木氏)
「こうした世界観は言葉で伝えたくなるものだが、パッと見の絵でしか伝わらないものを感じ、印象に残った」(前田氏)
(10) 森林文化協会
〈森林文化協会のイメージを高め、認知度を上げる企業広告〉3点シリーズ
竹上淳志、矢木重治、橋本知起、中島英貴、浅井貴行、藤井佳奈子
ビルが林立する都内の中心地もかつてはきっと森だったということを番地標識によってイメージさせたアイデアが評判だった作品。「南青山も六本木も、もとは田舎だったという視点だが、いかにもエコっぽくないところがいい」(佐々木氏)
(11) えひめ飲料
〈「飲みた~い! ポンジュース」〉
中山智裕、大西英也
商品のフレッシュなおいしさを、ポップなパッケージデザインで表現。「30段が多い中、15段でシンプルにまとめている。果肉が下にたまっている感じをうまく表現。きれいだし、すごくおいしそう」(佐藤氏)
「グラフィックデザインとしては完璧に仕事をしきっていて、どこにも無駄がなく感心させられた」(原氏)
(12) YKK AP
〈「窓を考える会社YKK AP」〉4点シリーズ
松岡慶子
さまざまな建築物をとらえ、窓の数を数字で表した作品。「不思議な未来感を感じさせる表現」(原氏)
(13) セリア
〈100円ショップSeriaの約束「Color the days 日常を彩る。」〉 8点シリーズ
森昭太、岡田啓佑、眞野敦
カラフルな100円玉と商品をシリーズで展開し、日常を彩る100円ショップの魅力を紹介。「手軽にパッと買える“生活の中の小さなかわいらしさ”を、楽しいビジュアルで伝えている」(児島氏)
「取りあげた商品を見ると、いいセレクトをしている。1点でなくシリーズにしたのが奏功。100円ショップへの興味を沸かせる」(タナカ氏)
(14) 旭化成〈サランラップ〉
〈サランラップ〉
高野大輔
草原で昼寝しているライオンのかたわらに肉の塊。よく見るとサランラップで包んであり、“新鮮なおいしさはそのまま”と思わせるユニークなアイデア。「ライオンの食べ残しは確かにもったいないという気がするし、シズル感がある」(原氏)
(15) 大日本除虫菊
〈キンチョール〉30点シリーズ
矢部千尋
(16) 資生堂
〈エージープラス パウダースプレーD〉30点シリーズ
岩田英也、高木隆太
【写真賞】
(17) えひめ飲料
〈「飲みた~い!ポンジュース」〉
石原大次郎、荒井透
【イラストレーション賞】
(18) トンボ鉛筆
〈TOMBOW文具のブランド広告〉2点シリーズ
出良雅樹
【企画賞】
(19) えひめ飲料
〈「飲みた~い!ポンジュース」〉
中村征士、野上亮、大松敬和、平塚正男、ムクメテツヤ、十倉寛子
◎総評としては、
「完成度の高い作品が多い半面、個性的な作品、ユニークな作品が少なかった印象。優等生的な完成度の高さは実際の仕事では大事だが、朝日広告賞という何でもトライできる機会なので、ふだんできない挑戦をしてほしい。新鮮な作品に出会えたらうれしい」(佐藤氏)
「言葉の存在感で印象に残る作品をもう少し見たかった。また、“傾向と対策”を考えるのではなく、例年の文脈に埋もれない作品を目指すことが大事。びっくりさせてほしい」(前田氏)
「暗いニュースが多い時代に反し、心あたたまる表現が多かった。実際に新聞に掲載されたら手を止めるだろうと思わせる作品もたくさんあった。デジタル化のせいか、絵の表現も写真表現もクオリティーが高くなっている。一方で、もう少し手アカのついた、仕上がりがきれいでなくても“必死さ”が伝わってくるような作品があってもよかった」(森本氏)といった声が聞かれた。
◎今後の応募者へのメッセージとしては、「日本の問題、地球の問題、宇宙の問題、いろいろあるが、そういうことに一つひとつ向き合っていけば新しい広告ができるはず。肉体と頭脳を鍛え、全身全霊を傾けて新しい創造に向かってほしい」(浅葉氏)
「朝日広告賞は若い頃はあこがれの賞で、準朝日広告賞を取った時は本当にうれしかった。一緒に仕事をしてみたい仲間と組んで、『実際の広告を超えてやる!』という強い気持ちを持って取り組んでほしい。その経験は絶対に糧になるし、受賞すれば自信につながり、人生にも大きく影響するはず。ふだんから新聞を読んで、ぜひ挑戦して」(森本氏)といったエールが寄せられた。
第1部 審査評/コミュニケーションの「質」は変わるか
審査なのでグランプリ、準グランプリを選定したが、入選以上の作品はどれも水準が高く、質的に大きな差はないと思う。突出した作品こそ少なかったものの、受賞作にはどれも目を引くアイデアや工夫があり、審査会は最後まで接戦となった。
ここ数年、製版技術や新聞印刷クオリティーの向上を反映するように、特にグラフィックデザインの面ではレベルの高い作品が多く見られる。しかし一方で、「傾向と対策」化が進み、過去の受賞作に近いトーン&マナーの作品が目立つのも事実だ。新聞には、じっくり読ませることでメッセージを深く理解させる機能や、報道メディアとしての信頼感など、他のメディアにはない特質がある。個人的にはそうした部分を掘り下げた、「新聞ってこうじゃないですか、こんなことできるんじゃないですか」というような大胆な提案をもっと見てみたい気がした。
誰かがネット上で何げなくつぶやいたひと言が世界に影響を与えたり、簡易なソフトでつくった画像が多くの人を感動させることもある。そんな、1億総コピーライターや1億総グラフィックデザイナーの時代に生きるプロには、「このメッセージを伝えたい」という思いの強さと深さが何より問われることになる。ありふれた言葉でいえば、最後は作り手の「人間力」の勝負、ということかもしれない。
プロも襟を正すことが求められるという点で、メディアが「アマチュア化」するのは悪いことばかりじゃないと僕は思っている。コミュニケーションの方法が大きく変わりつつあるなかで、その質も変わっていくのか。そのことに今、とても興味がある。(談)
(クリエーティブディレクター タナカノリユキ氏)