2008年10月に創刊された「朝日新聞グローブ(GLOBE)」は、月2回月曜日に発行する朝日新聞の「メディア・イン・メディア」だ。質量ともに従来の新聞記事の枠を超える徹底した取材記事と毎回白紙の状態から作り上げるレイアウト、そして紙面のクオリティーを相互的に高めるレギュラー広告枠が一体となったそのスタイルは、朝日新聞の新しい顔になりつつある。「GLOBE」創刊の経緯やその役割を、編集長の杉浦信之に聞いた。
新聞の新しいスタイルを作る「実験」
――「GLOBE」が生まれた経緯について、改めて聞かせてください。
私は「GLOBE」の2代目編集長(09年4月から)ですが、「GLOBE」のスタイルを作った木村伊量前編集長は、「これは新聞の実験である」とよく言っていました。
発端は、朝日新聞社が07年の夏に立ち上げた「メディア研究プロジェクト」という社内組織でした。プロジェクトの目的は大きく2つあり、1つはウェブの浸透とともに進んだ読者の新聞離れにどう対処するかというビジネスモデルとしての課題。もう1つは今までの新聞報道のスタイルだけで、社会に必要とされるメディアとして朝日新聞が生き残っていけるのかという、ジャーナリズムとしての課題です。朝日新聞というブランドの再構築、再強化のために何をすべきか論議を重ね、その結論が「発行形態としては新聞メディアで、しかしスタイルとしては今までにないものを模索する。かつ活字メディアとしての特性は十二分に生かす」ということでした。朝日として特色のあるメディアになることで、新たに選択される広告媒体にもなっていくということだろうと思います。
――「今までにないスタイル」とは具体的に。
「GLOBE」には、新聞が歴史の中で確立したスタイルを破った3つの特徴があります。1つ目は縦書きではなく、横書きであること。2つ目はレイアウトを社内の編集部門ではなく、アートディレクターの木村裕治さんの事務所にすべて外部委託していること。3つ目は、フォントが通常の記事と違うことです。新聞活字というのは情報を迅速に「規格化」し、社内で「大量生産」する新聞社の象徴的なものですから、それを使わないというのは大変革です。
編集もこれまでメディアが取り上げなかった、あるいは日々のニュースの中で表層的にしか伝えていなかったテーマを発掘し、地球的な視野をもって深く取りあげるという方針を掲げました。「GLOBE」のキーコンセプトは、「世界のどこかで日本の明日を考える」ですが、これは単に国際ニュースを伝えるということではなく、それが私たち日本人の生活にどのような影響を及ぼすのか、逆に日本の動きが国際社会とどうつながっているのかを常に意識して、テーマや取材先を選ぶということです。
「朝日新聞グローブ(GLOBE)」 2008年10月6日創刊号
――「GLOBE」では毎号、ユニークな視点で特集を組んでいます。テーマはどうやって決めているのでしょう。
基本は編集チーム内での公募ですが、それに加えて編集局員や論説委員を含む全国の社内の記者にも公募をかけ、その中からデスククラスの6人が選んでいます。次の時代に向けた新しい議題を設定するようなテーマばかりではなく、時事的なテーマも取りあげますが、普通の新聞記事とは異なる角度や密度を必ず求めます。
誰からともなく編集チーム内で言うようになったのは、「新書を目指そう」ということです。つまり、「GLOBE」の特集を読めばそのテーマが理解できるように、充実した内容を専門知識のない読者にも分かる平易な文章で書く。同時に、そのテーマの専門家や関係者が読んでも、納得していただける内容のレベルを併せ持つということです。
――これまでに特に反響の高かったテーマは。
09年末に第30号を迎えた時、これまでの特集のレビューを企画し、読者から感想を募集しました。その時、特に関心が高かった特集として挙がったのは、「『水』が、足りない」(第16号)、「電気自動車の実力」(第14号)、「特許バトルロイヤル」(第15号)などでした。最近では、今年2月1日の「数学という力」(第33号)が予想以上の反響で、ツイッターやブログでもたくさん取りあげられました。「GLOBE」は横書きですから数式が載せやすいということもありましたが、日本の新聞が数学そのものをテーマに、これだけの紙面を割いたのは初めてのことだと思います。
――取材や執筆を担当した記者たちにとっても、「GLOBE」での仕事はこれまでにない経験だと思います。
取材に3カ月ほどの時間をかけて、一度に4ページ分の原稿を2、3人で書くというのは他にはないでしょうね。レイアウトも、木村さんとまったくの白いキャンバスから考えますから、そういう経験もみんな初めてです。それと「GLOBE」では初稿を全デスクが読み、意見を述べ合う「輪読会」を必ずやります。文章の細かい点から大きな構成についてまで、「こうあるべきだ」、「ここが分からない」といった意見を徹底してぶつけます。そうした経験を通じて文章が磨かれ、構成も練られていきます。
読者からの反響も、「非常にためになった」「学校の教材で使いたい」など、しっかり読んでいただいた上での好意的なものがほとんどです。
――「GLOBE」を語る上で、木村裕治さんの役割も非常に大きいですね。
木村さんは、新聞の仕事は今回が初めてで、大きなやりがいを感じていただいています。「『GLOBE』は、レイアウトがスタイリッシュでかっこいい」といった評価をよくいただくのですが、私自身が感じている木村さんの素晴らしさは、「読ませるためのレイアウト」を考えているということです。新聞は記事を読まなくても、見出しの一言で内容が分かるのが「よい紙面」と言われますが、木村さんは、レイアウトもタイトルも本文を読ませるためということを常に意識しています。
抜き出して、せめて次号までは手元に
――どのような読者に読んでもらいたいですか。
読者調査では、30~40 代のビジネスパーソンや管理職層によく読まれているという結果が出ています。紙面で紹介している外国の原書のプレゼントの応募を見ると、横書きということもあって大学生や高校生といった若い層やその学校関係者の方が、「GLOBE」ならではの記事を関心を持って読んでいただいているようです。それから、デザイン的な面からでしょうか、年齢や職種を問わず、女性層からの支持が厚いというのも特徴です。
私としては、いろいろな意味で組織の政策決定に携わられている方や、いわゆるオピニオンリーダーのほか、物事を自分で考えて行動する知的関心の高い層に読んでもらいたいと思っています。今日の出来事を知るだけでなく、長期的な視野や大局的な視野で物事を考える材料になるという役割を果たせればと思います。もちろん、ときに厳しいご指摘を読者からいただくこともあります。レイアウトや記事の構成など、少しずつ改善しながら、進化し続けたいと思っています。
――毎号、読み応えのある記事が並びますが、「GLOBE」をより楽しく読むコツがあれば教えてください。
ぜひおすすめなのが、「抜き出して取っておく」ということです。「GLOBE」は月2回の発行ですが、新聞というのは夕刊が届いた時点でその日の朝刊が色あせて見えるもので、日付が変わると新聞が新聞紙に変わってしまいます。しかし「GLOBE」は、数日や数カ月で情報の価値が古びてしまうような記事を書いてはいません。新聞の形をした雑誌と考えていただいてもいいでしょう。少なくとも次の号が出るまでは手元に保存して、時間のある時に読んでほしいと思います。また、ウェブサイトには新聞に載せていないオリジナルコンテンツも掲載していますので、あわせて読んでいただければ、さらに参考になると思います。
――昨年秋には、創刊1周年記念セミナーを大阪と東京で開催しました。反響はいかがでしたか。
「GLOBE」のコンセプトや取材の現場について記者たちが体験を交えて話をしました。両会場とも満員で、朝日新聞の「GLOBE」に対する関心や期待を肌で感じ、大変ありがたかったです。読者の視線で記事を書くことを最重要に考えていますので、今後はさらに私たちが外に出て読者と話をし、皆さんの意見を紙面やウェブに反映させていきたいと思っています。
――2月から、紙面のシリーズ企画「突破する力~Break through~」と連動したミニ番組がテレビ朝日で展開されています。
朝日新聞社広告局とテレビ朝日が連携し、日曜日に関東圏でミニ番組を放映しています。「突破する力」は日本人に限定し、何らかの壁を乗り越えて世界へと突破した人たちを取りあげています。「GLOBE」紙面では、あえてモノクロの写真を使っていますが、それをカラーで動画というテレビの中で展開すればまた新しい世界が生まれるでしょう。「GLOBE」の世界観を広く印象づけられる企画として期待しています。
――「GLOBE」では広告を出稿している企業の顔ぶれやクリエーティブも、高いクオリティーを読者に印象づけます。
広告は、「GLOBE」の媒体価値を決める非常に大きな要素だと思っています。「GLOBE」の編集スタイルやこれまでのクオリティーに賛同いただき、かつそのクオリティーを高めるような広告出稿をいただいていることは、私どもにとって大変ありがたいことです。今後も記事と広告が相乗効果を生みながら、お互いのブランドをより高めていけるようになればと思っています。
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AD TOPICS (2010年2月5日配信ニュースリリース)
「朝日新聞GLOBE」と連動したミニ番組が、テレビ朝日で2月7日から放送開始!
朝日新聞グローブ(GLOBE) 編集長
1981年早稲田大学政治経済学部卒業、朝日新聞社入社。大阪経済部記者を経て、1988年の「AERA」創刊に参加。その後、東京の経済部で主に企業・金融取材に従事。1994年から約3年間、ロンドン特派員として欧州経済を担当。名古屋経済部次長、東京経済部次長を歴任し、2004年に現「アスパラクラブ」を立ち上げるプロジェクトチームのマネジャーに。2006年から編集局に戻り、生活エディター、産業・金融エディターを経て、2009年4月、「GLOBE」2代目の編集長に就任。