読者の環境への意識・関心を高める情報をさまざまな角度から発信

 朝日新聞は、今年の正月紙面で「環境元年」を宣言し、環境問題に関する企画を紙面だけにとどめず展開している。朝日新聞東京本社編集局長補佐の長谷川智・環境ディレクターに話を聞いた。

全社的なテーマとして環境問題に臨む

── 新聞紙面ではどのような取り組みをしていますか。

 昨年夏に全社をあげて環境問題に取り組むことが決定し、皮切りに12月のCOP13(インドネシアであった気候変動枠組み条約締結国会議)に向け、シリーズ「低炭素社会へ 選択のとき」を掲載、私たちが毎日の暮らしの中で何ができるのか、など身近な視点で紹介しました。さらにオピニオン面では、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)のラジェンドラ・パチャウリ議長や、気候変動に関する「スターン報告書」を手がけたニコラス・スターン氏、新日鉄の三村明夫社長など、国内外の識者にインタビューし、COP13のニュース報道につなげました。

 今年のニュースの焦点は7月の洞爺湖サミットです。世界から「後ろ向き」との批判も出る中、議長国日本がどれだけリーダーシップを発揮できるのか、また、世界で導入の動きが強まる排出量取引や環境税についての議論など、サミット関連のニュースは編集局全体で追っていく考えです。サミットに先駆け、6月13、14日に、世界の識者を呼んで地球温暖化をテーマとしたシンポジウムも開催します。環境問題に関する最先端の科学的、政策的な知見を知り、考えていくのがねらいです。

 新年から企画記事「環境元年」がスタートしました。環境問題はともすれば、きれいごとで終わりがち。しかし、実際にどんどん進む地球温暖化を止めることは、苦しみを伴い、ときには闘いでもあります。そうした意味も込め、第1部は「エコ・ウオーズ」、第2部は「都市ウオーズ」をテーマに連載しました。厳しい現実からも目をそらさない記事を届けていく考えです。

 「環境元年」と並ぶもうひとつの柱は「地球異変」です。2005年に始まった前身「北極異変」から続く現地ルポで、地球の各地で起きている気候変動による現象を、記事と写真で伝えています。

 これからを生きる若い人に向けた企画も進めています。3月31日から始まった夕刊コラム「環境教室」は、知っているようで知らない環境のキーワードをわかりやすく解説しています。また、「地球異変」で撮りためた多くの映像や写真をDVDとオリジナルのテキストにして、紙面で募った全国3,000校の小学校にプレゼントします。「授業がやりやすくなるように」という小学校の先生たちの声に応え、教材用の大きな写真も用意しました。

判断基準となる情報を読者に伝えたい

── 朝日新聞社内の体制はどのようになっていますか。

 環境問題については、以前は各グループが個別に取り組んできましたが、現在は週に1回、政治、経済系、社会、生活、科学、写真といった各グループの担当デスクが「環境デスク会」を開き、主に紙面づくりについて話し合っています。局内で横断的に連携することで、環境に関する記事は、質、量ともに充実したと自負しています。

 同時に、編集局、広告局、販売局、コーポレートコミュニケーション本部といった局間の協力体制を強化しようと、全社的な組織「環境会議」を結成。新聞での報道のみならず、環境問題に向けた多様な活動に取り組んでいます。ひとつの成果が、朝日新聞の姿勢を示す「双葉の新芽」の環境シンボルマークです。紙面や社がかかわる環境関連の制作物、イベントなどで用いています。

 また、一企業としての環境対策も進めています。印刷工場を含めた全社で、2010年度に二酸化炭素の排出量を01年度比で10%削減する計画です。ほかにもグリーン電力の購入や森林保護の普及啓発活動などに取り組んでいます。

── 環境を報道する上で、マスメディアである新聞が果たすべき責務は何だと考えますか。

 国内外の最先端のニュースをきちんと追いながら、一方で、環境に関する意識や関心を多様な読者の皆さんに持ってもらうような企画や解説を、車の両輪のように掲載していくべきだと考えます。

 心がけているのは、「読者に判断材料を提供する」こと。温暖化の行方についての見方に差がありますし、二酸化炭素をどう減らすかという意見もまちまちです。科学的、政策的な議論は続きます。新聞社としては、情報を押し付けるのではなく、さまざまな意見や選択肢、判断基準となる情報を読者に提供しながら、考えていこう、と。また、新聞社なので新聞を作ることは第一義ですが、新聞にとどまらない活動も手がけながら、幅広く環境について発信していく考えです。

「低炭素社会へ 選択のとき」
オピニオン面で環境関連の識者にインタビュー
2008年新年からの企画記事「環境元年」
現地ルポ「地球異変」
夕刊コラム「環境教室」