環境問題の切実さを写真の力で長期的に継続して伝える

 地球温暖化の危機を取り上げた「北極異変」「地球異変」取材班の一員として、写真取材を手掛けている武田剛編集委員に話を聞いた。

大切なのは現場に立つこと

武田 剛 武田 剛

── 現地取材では、どんなことを感じましたか。

 「北極異変」の取材で、グリーンランドにある世界最北の村へ行き、地元の人と一緒に犬ぞりに乗ったとき、「お願いだから割れないでくれ」と祈るほど海氷が薄くなっていました。「地球異変」でネパール・ヒマラヤを訪れたときには、30年前と同じ場所、同じアングルで撮影してみると、氷河がとけてできた湖が2倍近くまで大きくなっていて、温暖化の危機がそこまで迫ってきているのを肌で感じました。頭ではわかっていたつもりですが、正直、日本にいると実感がわかなかった。でも、現地で大自然を目の当たりにしたり、地元で暮らす人の生の声を聞いたりすることで、地球温暖化の危機を身をもって感じることができたのです。改めて、現場に立つことの大切さを痛感しました。

──「北極異変」「世界異変」で撮影した写真が、小学生向けの教材になります。

  新聞は活字をメーンとした媒体なので、たくさんの写真を一度に掲載することは難しい面があります。これまでも現地取材で撮りためた写真は、講演会で上映したり、写真展で展示したりしていました。

ヒマラヤの拡大する氷河湖と、そこで暮らす人々を撮影(2007年 12/25 朝刊) ヒマラヤの拡大する氷河湖と、そこで暮らす人々を撮影(2007年 12/25 朝刊)

  環境への関心の高まりとともに、学校の先生方や国際協力機構(JICA)などの団体から「写真を貸してほしい」という声が、昨年ごろから上がり始めました。それまで朝日新聞をはじめとする新聞社が現地取材をしていなかったため、温暖化の実態を紹介できるまとまった写真が、国内にはなかったのです。新聞で掲載される写真は限られますが、実は、すばらしい大自然もたくさん撮影してきています。こうした写真を見てもらうことで「私たちはこんなに美しい星に暮らしているんだ」と、特に子どもたちに感じてほしい。新聞以外でも写真や記事をいろいろ活用してもらえるのは、とてもうれしいことだと感じています。

── 今後の取材への抱負は。

 最初のころは「百聞は一見にしかず」で、記事と写真で「今ここはこうなっている」と報道すれば、それだけで読者に訴えるものがありました。しかし、これからも同じ手法では「またか」と思われ、関心を持っていただけません。「地球異変」のヒマラヤ取材では、2003年から参加した、第45次南極観測隊で交流があった名古屋大学の研究者から30年前に撮影した貴重な写真を提供してもらい、現状との比較を視覚的に訴えることができました。今後も、現場に立ってその場で起きている出来事を伝えることを大切にしながら、読者に環境について考えていただけるような企画を考えていきたいです。また、環境問題については、長いスパンで継続的に取材すべきだと思っています。