難しいことも視覚化でわかりやすく 広告企画「INFO-GRA!」実施中!

 朝日新聞社は、2012年8月より「インフォグラフィックス」という表現手法を取り入れた「INFO-GRA!(インフォグラ!)」という広告企画を実施している。インフォグラフィックスとは、インフォメーションとグラフィックスをかけ合わせた言葉で、複雑でイメージしづらい事象や仕組みを、チャートやグラフなどを用いながら、視覚的な表現でわかりやすく伝えるグラフィックデザインのことだ。

小学4年生にもわかるように「翻訳」

木村 博之氏 木村 博之氏

 日本におけるインフォグラフィックスの第一人者として活躍する、木村博之氏が「INFO-GRA!」のコンセプトデザインを担っている。その制作方法について木村氏は次のように語った。

 「デザインを考える前に、まず資料をしっかりと読み込みます。広告主の意向を踏まえ、資料の中から必要と思われる情報を抽出し、わかりやすく表現します。ポイントは、小学4年生くらいの子どもにも伝わるようにかみ砕くこと。毎回、勉強しながらの作業ではありますが、その専門分野に明るくないからこそ気付くことのできる疑問もあり、そういう感覚は大事にしながら、翻訳するようにデザインを考えていきます」

 2012年8月29日付朝刊に掲載したクラウドコンピューティングの広告もインフォグラフィックスを活用した事例。クラウドという言葉からイメージする「雲の上の世界」を、地球を俯瞰(ふかん)したイラストで「雲の中」を表現しながら、クラウドコンピューティングの特長を解説している。同年10月10日付朝刊に掲載した全国農業協同組合中央会(JAグループ)の広告では、遠近法を用いて年表を表現し、読者は自然にJAグループの実直な歩みを理解できるデザインになっている。

  13年5月15日付朝刊に掲載された明治の広告は、レオナルド・ダ・ヴィンチの人体図とシャーレを組み合わせた連続するビジュアル紙面。その図案を用いて、乳酸菌の研究について解説している。いずれの事例も、インパクトのあるダイヤグラムやチャートで読者の目を引き、伝えるべきイメージを紙面全体で表現している。

  「大塚製薬の広告は、ハンバーガーやうどんの絵と折れ線グラフを重ねてレイアウトしています。ファストフードという言葉と折れ線グラフを合わせるよりも、目に飛び込んでくるイラストに合わせることで、目を留めてもらえる可能性が高まるのです。グラフとイラストを重ねてレイアウトすることは、少しでも多くの人に関心を持ってもらうための基本的な仕掛けです」(木村氏)

2012年8月29日付 朝刊 クラウドコンピューティング特集 2012年8月29日付 朝刊
クラウドコンピューティング特集
2012年10月10日付 朝刊 全国農業協同組合中央会 2012年10月10日付 朝刊
全国農業協同組合中央会
2013年3月19日付 朝刊 大塚製薬 2013年3月19日付 朝刊
大塚製薬
2013年5月15日付 朝刊 明治

2013年5月15日付 朝刊 明治

幅広い読者を抱えるからこそ インフォグラフィックスが必要

 インフォグラフィックスの専門家として活動するようになった経緯を木村氏はこう語る。

 「子どもの頃から地図に興味を持ち、大学では地理学を専攻、将来は国土地理院で働きたいと思っていました。大学4年のとき、後に『ぴあMAP』『ぴあホール劇場MAP』で知られるようになる「モリシタ」の森下暢雄さんのもとで働きはじめました。数年経った頃、英国のルーファス・シーガー氏がデザインした『Atlas of Europe』という地図帳を妻から贈られたのですが、そのときの驚きは今でもはっきりと覚えています。

 グラフや表など複雑な情報が三次元的にすっきりとわかりやすく、魅力的に表現されていて、その色遣いも含めて今まで見たことのないものだったのです。このとき、情報を視覚化することの可能性と面白さを確信し、自らもその道を究めたいと考えるようになりました」

 独立後は、雑誌の『週刊朝日』や『AERA』などで、記事中のインフォグラフィックスの制作のほか、インフォグラフィックスをコンセプトにした『長野オリンピック公式ガイドブック』や『長野オリンピックオフィシャルマップ』、全競技会場で配布される『デイリープログラム』も作りました。公式ガイドブックでは、各競技を詳しく図解しています。例えば、ボブスレー用のそりの構造、4人の競技者の役割と操作など、素人の視点で取材した情報をもとにデザインを考えていきました」(木村氏)

 朝日新聞では編集紙面でもインフォグラフィックスを使った記事が掲載されている。「文章、写真、図表など一体化させてデザインすることで、読者の興味を引き、伝えたい内容を紙面全体で表現することができる。これがインフォグラフィックスの魅力の一つです。新聞という幅広い世代が読むメディアだからこそ、言葉で伝わりづらいことを簡単に理解できるように表すインフォグラフィックスが果たせる役割はまだまだあると思っています」(木村氏)

 木村氏がこれまで手がけた仕事とインフォグラフィックスについての解説は、著書『インフォグラフィックス 情報をデザインする視点と表現』(誠文堂新光社)にまとめられている。地図に興味を持ったきっかけや、ターニングポイントとなったルーファス・シーガー氏との出会い、モリシタで手がけた『ぴあMAP』なども収録されている。

「INFO-GRA!」最新版 8月31日の「野菜の日」に野菜に関する情報を提供する特集を掲載

2013年8月31日付 朝刊 キユーピー

2013年8月31日付 朝刊 キユーピー

木村博之(きむら・ひろゆき)
『インフォグラフィックス 情報をデザインする視点と表現』(誠文堂新光社)

グラフィックデザイナー

1956年宮城県女川町生まれ。明治大学卒(地理学)。86年チューブグラフィックス設立。代表取締役。95年「SND Malofiej Infographics Awards」金賞。96~97年同審査員。98年競技インフォグラフィックスをコンセプトとする『長野オリンピック公式ガイド』を企画制作。2009年「第30回SND(The Society for News Design)国際コンテスト」審査員。11~13年経済産業省主催の「ツタグラ(伝わるインフォグラフィックス)」のアドバイザリーボード。朝日新聞社広告局のインフォグラフィックス広告特集「INFO-GRA!」のコンセプトデザイナーとして制作協力。千葉大学工学部などで講師を務める。コミュニケーションデザインのためのセミナーやワークショップも開催中。著書に『インフォグラフィックス』(誠文堂新光社、2010年)、『情報デザインの教室』情報デザインフォーラム編(共著/丸善、2010年)
(株)チューブグラフィックス http://www.tubegraphics.co.jp/