コミュニケーションが多様化している中で、マスメディアには認知媒体にとどまらず、購入に直接結びつく「販促媒体」としての役割が求められている。宣伝会議 取締役 編集室長の田中里沙氏に、販促のための新聞メディアの可能性を聞いた。
──販促メディアとしての新聞広告の可能性をどのようにお考えですか。
私たち広告業界にいる人間は、新聞の記事と広告は違うととらえますが、生活者側の視点から見ると、広告も一つの重要な情報であり、新聞を読む楽しみでもあります。読者は自分たちの生活にプラスになる、生活が変わるような有益でお得な情報を探しているわけで、そこにきちんと届く情報が送り出せれば、新聞は販売促進的な役割を果たせます。業界の人間のほうが、広告は見られていないのではないかと過度に思いこむ傾向がありますね。
それと今は情報があふれている時代なので、いろいろな情報を加工し、ひとつの楽しい、あるいは良質な情報が集まったコンテンツとして提供する力が求められています。それは、ネットなどインフラ型のメディアが台頭するほど、従来メディアに期待される部分だと思います。新聞社は、身近な生活情報からジャーナリズム性の高い情報まで分かりやすく伝える力を持っていますが、販促という観点からもコンテンツをうまく加工する力があります。
──具体的な事例はありますか。
例えば私自身も、紀ノ国屋インターナショナルの店頭で朝日新聞に掲載されていたレシピを見た時はとても新鮮な感じがしました。「お買い得」といった言葉に慣れてしまっている空間で、小さな紙面スペースに載せられるような簡単なレシピがあることが日常忙しい女性にとってうれしいわけです。また便利グッズなどを紹介した新聞のコラムがよくありますが、世の中のトレンドを追って便利な情報を集めている人が選んだものが分かり、得した気分です。新聞を見た後で実際の品物を見ると親近感がわくもので、それだけもすごいパワーだと思います。
──新聞メディアの販促効果を高めるためには何が必要でしょうか。
今は、新聞を4マスメディアの中の流れ作業の一つのようにとらえることはできません。新聞が入り口でもいいし、出口でもいいわけです。商品ありき、クライアントありきで、「この商品のコミュニケーションを最適化するには、どこに新聞を組み込んでいこうか」などといった考えをもっていたほうがいいかもしれません。
また企業のコミュニケーションをつかさどる人も広告宣伝部だけでなく、販売促進部、ブランドマネジャーなど、立場がずいぶん多様化してきています。宣伝部の人なら新聞広告を出す手順や料金面のこともよく知っていますが、ブランドマネジャーの人には、いままでの慣習がぜんぜん通用しないわけです。売るためにはこういう企画どうですかとか、こういうムックを作りましょうとか、いいアイデアを持ってきた人が勝つという状況に変わっています。それは手間ひまのかかることですが、実際私たちが優れた広告や結果を残した販促活動の取材をすると、「これはメディアと広告主と広告会社が一緒に議論して、ゼロから作りました」といったことをよくうかがいます。3者が協働することが必要、ということですね。
──販促活動における朝日新聞の強みについてはどうお考えですか。
政治からファッションまでをカバーするとともに、無料会員サービスのアスパラクラブができてからは生活への密着度を増すなど、朝日新聞には懐の深さを感じます。ビジネス・経済のことも、生活情報も知ることができる。男性にも女性にもアプローチがきく絶妙なバランス感があるメディアですね。現在の販促コミュニケーションはB to CかB to Bかといった単純な色分けができず、どの企業も生活者の中に入っていけるきっかけを欲しています。新聞には多様な情報の背後に多様な読者層があり、それらのコミュニティーにもっと企業が近づける工夫があれば、その価値はさらに高まると思います。