新聞メディアの新しい可能性を求めて、「動く広告新聞」は誕生した。昨年1月に企画した3Dメガネの付いた「立体広告新聞」は多くの話題を集めたが、この取り組みを経て、さらに新聞に「動き」をもたらそうと、電通関西支社とともに次なる企画を模索してきた。
そして、3月22日の大阪本社版夕刊全16ページで、「動く広告新聞」を発行。この企画は、当日新聞に折り込まれた専用フィルムを紙面に重ねてゆっくりと動かすことによって、すべての広告が動いて見えるというものである。
今回も、新聞を囲んで子どもから大人まで皆が楽しめる企画を作ろうという観点に立った。動いて見えるためのできるだけ簡単な仕組みの模索や、新聞にフィルムを折り込むことなど、数多くの課題への挑戦の連続だったが、社内外関係者の方々に協力を得て実現できた。
掲載する3月末というタイミングは、子どもと一緒に楽しんでもらいやすい春休みであると同時に、朝日新聞の紙面改革を3月31日に控えていたこともあり、「動き続ける朝日新聞」を訴える絶好の機会ともなった。
また、掲載前日夕刊や当日朝刊の新聞広告はもちろんのこと、北大阪急行の中吊り広告のジャックや大阪本社ビルでの壁面広告など、事前告知も実施。テレビやラジオ番組、スポーツ新聞でも話題として取り上げられた。読者の期待感を醸成しただけでなく、既存の朝日読者以外へもアピールすることを意識した。
こうした結果、掲載後の反響も高く、広告主から「おもしろかった」という声や、多数のブログで「家族団らんの話題のネタになりました」といった書き込みが見られたほか、動画サイト「YouTube」に、紙面が動いて見える映像がアップされるという、これまでの新聞広告では見られない反響の広がりをみせた。
「第3弾を!」という声が既に社内外から挙がっている。新聞広告活性化のため、今後も「動き続け」ていきたい。
(大阪本社広告局)
「動く広告新聞」を発案・制作したのは電通のコピーライター・張間純一氏、アートディレクター・市野護氏、電通テックのアートディレクター・烏野亮一氏。張間氏と烏野氏は「立体広告新聞」の仕掛け人でもある。3人に今回の企画についてうかがった。
―― 発案の経緯は。
「3Dのような仕掛けを今年も新聞広告で」と考えましたが、当初はこれといったものが思い浮かばなくて、どうしようと思った時、たまたま机の上にあった、角度を変えると平面上の絵が動いて見えた玩具が「動く広告」のきっかけです。これは応用できるのではないかと考えた末に、線の入ったフィルムで絵が動く仕掛けとの出合いがありました。ただ、最初の絵はモノクロで、実現してもおもしろくないかも、という心配もありました。
―― 完成までのご苦労は。
そもそもどう作れば動いて見えるのかがわかりませんでした。試行錯誤の末、まず文字など簡単な対象を動かすことから始まり、次にモノクロの馬や車といった実際の絵に挑戦しました。でも、広告として満足いただくためには、カラーの写真やキャラクターが動いた方がいいですよね。
当初は写真もカラーも無理だと思いましたが、試作を重ねるうち、色のコントラストを不自然なまでにきつくし、フィルムの線の間隔を調整すれば、動いて見えることがわかりました。実験の繰り返しで、しばらくはブラインドや縞(しま)柄の格子もフィルムに見えるほど、どう動きをみせるかということばかり考えていましたね(笑)。
それぞれの広告の動き方に関しても、同じパターンにならないよう、かなりこだわったつもりです。
―― 事前のプロモートもユニークでした。
3月31日に朝日新聞の「文字の大きさが変わる」「紙面が変わる」と聞き、「動く」というキーワードが有効だと思いました。事前告知では、「動」という漢字を使ったコピーで、かつ新聞の世界観を意識したクリエーティブにしました。中吊り広告は、新聞輪転機で新聞用紙に印刷し、文字も7%天地が大きくなった新しい朝日新聞のフォントを使いました。新聞紙が中吊り広告になったのは初めてではないでしょうか。
―― 反響と今後について。
うれしかったのは、ブログで話題になったり、動画配信されたりして、新聞を見た人にとどまらず口コミで伝わったことですね。その場でトライでき、ダイレクトにリアクションが返ってくるアナログインタラクティブは、他の媒体にはない新聞ならではの魅力だと思います。
「立体広告新聞」を作った時、これに匹敵するアイデアはもう出ないのではと思いました。でも、「動く広告新聞」が生まれた。また何かできるような気もしますし、ぜひやりたいですね。